あなたの支えになりたい
ここ数日、池袋で臨也さんの顔を見ていない。
――そうだ、たまには自分から会いに行ってみよう。
思い立つ日が吉日、僕は早速山手線に乗り込み新宿へと向かった。
「お邪魔しまーす…」
僕用にと作ってもらった合鍵を使って彼のマンションに入ると、肌寒いほどの冷気に全身の毛が逆立った。一体エアコンを何度で設定しているんだろう。
「…臨也さん?」
明かりはついているがしんと静まり返っているリビングを覗き、主の存在を探す。――もぞり。ソファの上にかけられた綿毛布が不規則に隆起するのを見て、ようやっと少し安堵する。よもや変死体でも発見することになったらどうしようかと思った。
「お邪魔してます」
「あ…みかどくん。わざわざ来てくれたんだ…」
木肌色の毛布にくるまってすっぽり顔だけを出した臨也さんは、まるでリスか何かのようで可愛らしい。
――可愛らしい?
一瞬でも臨也さんを可愛いと思ってしまった自分が急に恐ろしくなった。
「え、ええっと、さっきコンビニで冷し中華買ってきましたけど一緒にどうですか?」
「うーん…遠慮しておくよ、食欲ないし」
喧しい日頃からは考えられないほどに無気力な返答。
僕はポリ袋から買ったものを出す手を止め、臨也さんに向けた目を僅かに瞠った。
「夏風邪ですか?」
「…分かんない。なんか頭痛くて胃がむかむかして」
「えっとそれって…。というか最近、ちゃんと食べてます?」
「え?…まあそれなりには」
「今朝は?」
「コーンフレーク」
「じゃあ、昨晩は?」
「えっと何だっけか……ああ、思い出した。そうめん」
それを聞いた僕はやれやれとため息をつきながら、寝そべっている臨也さんの隣に腰掛けた。
手のひらで色白の頬に触れてみるとひんやり冷たい。
「肉とか野菜とか、もっと精のつくもの食べないと駄目ですよ?そんなだからバテるんです」
「――あは、バテる?俺がかい?」
滑稽そうに細められた眼差しはまるで、そんなわけないとでも言いたげだ。
「はぁ…――臨也さんって、ホント自分のことになると無頓着ですよね」
「…そうかなぁ?」
「辛いときはちょっとぐらい頼ってくださいよ」
「え?」
「僕だって、大好きな臨也さんの支えになりたいから…」
頭をさわさわと撫でながら「ね?」と微笑みかければ、彼は何故か困ったように目を逸らす。
――あれ、僕、何か変なこと言ったかなぁ。
存在を確かめるようにそっと握った手の温度は、僕のそれより少し高かった。
20100830
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