恋よりもっと不誠実



※嘘蛙さんリク
※学パロ




乾いた音を立ててパレットが床に落ち、色取り取りの絵の具を鮮やかにまき散らした。
酷い動悸と眩暈に足元がぐらつく。甘く柔らかい、酷く浮ついた違和感。自らの指でそっと触れた唇は他人の唾液で濡れていた。
長机の上に俺の身体を縫いとめるようにして押さえつけた一つ下の後輩は、淡いブルーの目をすっと細める。
明るい無邪気な笑みの裏に隠された素顔。思えば彼と二人きりになったのも初めてなら、このような表情を見るのも初めてのことだった。

「――サソリ先輩」

彼の指が滑らかに頬の上を滑る。普段の人懐っこさからは想像もつかないぞくぞくする視線に射抜かれる。遠く曖昧な意識に干渉してくる、日没間近のグラウンドに響く運動部の掛け声がまるで遥か彼方のもののように聞こえた。

「うん、知ってたよ。アンタがそういう目で見てたのは」
「……っ」

慣れていないと思われるのが嫌で、口唇を弄ってくる指先を噛んだ。

「っと」

デイダラは驚いたように指を引っ込め、

「気ィだけは強いのな」
「調子乗ってんじゃねえ」
「へへ……、んなこと言って、前からよくオイラのここ、ちらちら見てたじゃん。気にはなってんだろ?」

低い声で楽しげに囁いたデイダラは俺の意思に関係なく手首を掴み、柔らかいものに触れさせた。奴自身の股間。女のような外見に反してそれ相応に質感のある、制服のスラックスの上からでも分かるリアルな膨らみの感触に、カッと頬が熱くなった。激しく打ち付ける心音に逃げ場を失って戸惑う。

「見たい?」
「…………クソ、が」

いくら毒を吐いてみたところで、本音を言えば喉から手が出るほど欲しかった。渇望していた。幾度となく脳裏で思い描き、夜の慰みものにしてきた瑞々しい後輩の身体。興味がないわけがない。
そのくせいざその段になって躊躇ってしまうのは、己の後ろめたい部分、隠すべき背徳を他人に知られていた事実が、屈辱をもって脆い理性を繋ぎとめたからだった。

「ふーん。この、強情。ホントは見たいって顔に書いてあるのに」
「おま……」
「これでも冷静でいられる?ん?」

デイダラは妖艶に笑いながら俺のものを掴んだ。

「くあ……――アッ、」

痛みに潜在する強いエクスタシーが背筋を駆け抜けていく感覚に脳髄が痺れ、意識が飲まれる。しかし意外にもそこに派生したのは恐怖ではなく至上の喜び、無謀にも快感に身を投じようとする底なしの欲望だった。
デイダラは俺の欲に濡れた目を見て満足そうに顔をほころばせている。
嘲笑的な笑みに反抗心は起こらず、俺は本質的に彼がまだ子供であることを確信し返って安堵してさえいた。
俺は彼によって穢されるのではなく、この黒いぬかるみに足を踏み入れるのは自己に対する幻滅にさえ見切りをつけてしまった俺だけなのかもしれない。
どんなに清らかな恋心も究極的には欲に敷かれるべきトリガーに過ぎぬことを、男の性を持つものの一人として嫌々ながらも理解していた。俺は初めから彼とこうなることを望んでいたのかもしれない。たとえ抗ったところで必然たる欲望に打ち勝つことはできず、そこに意味など存在しないと知っていたからこそ、今こうして身体を差し出す己を許容できているのではないか。




20111026
御題:月にユダ

初々しさどこいった…

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