不安がって泣いてたって
※もしも夢主が花宮と宮地と同じ探索班だったら。
※時間軸的には「探索班の疑問」の前くらいです。
私は、この班のメンバーで本当にやっていけるんだろうか。不安しかない。
花宮と、宮地さん。まさかこの2人と同じ班になるとは私は予想していなかった。まぁ大方赤司辺りと同じ班になるんだろうなぁ、と思っていたから。
今吉さんがニヤニヤ笑っていた時点で普通のメンバーの組み合わせにはならないと分かっていたけれど。
日向や伊月、黒子と火神は絶対花宮とは同じ班にならないだろうなとは分かっていた。あれだけお互い毛嫌いしているのだ。流石にそこはお互いの感情を今吉さんも考慮したのだろう。今ここで争っていてもどうしようもないから。
木吉はてんで気にしていないようだった。……まぁ、膝のことを考慮しても木吉が探索班に回ることは無い。それは花宮に関しても同じだ。
頭の良い彼をわざわざ探索班にしない手はないだろう。むしろ待機班にしていたんでは、こちらにとってデメリットしか無い。
私は特に花宮を嫌悪していたり、というのは無かった。花宮から言わせれば、絆重視の誠凛の中で私は「異端」だ。
だって、ぶっちゃけ誠凛は花宮が嫌い。
何でって、木吉の膝を壊したから。
まぁ、私の場合は「木吉が普通にしているから」なんだろうな、と自分でも思っている。私は他人が思っている程優しい人間ではないし、熱い人間でもない。
決勝リーグで花宮が木吉の膝を壊した時は「何だコイツ喧嘩売ってんのかコラ」とか思ったけど、当の本人があまりにもあっけらかんとしているし、今の結果で満足しているようだったから。
周りが騒いでもしょうがないかなぁ、と思ってしまったのだ。
我ながら馬鹿だなぁとは思う。
けれど、それが花宮=嫌いという方程式には成り立たないのだ。私の中では。こんなこと、誠凛の皆には死んでも言えない。
だから、誠凛の皆は「優しい」のだ。
……あれ、違う。今私が言いたいのは別に誠凛の事でも木吉の事でも、私が小さい人間だと言うことでもなくて……。
何故メンバーが、花宮と私と宮地さんか、と言うことだ。あまりにも接点がなさすぎる。というか、間接的に合ったとしても直接的なものはない。そんなんで良いのか。
宮地さんは私の姉のクラスメイト。花宮は以前決勝リーグで2回も戦った相手。
私と宮地さん、花宮と私に接点はあるとしても、花宮と宮地さんには無くね?というのが私の考えだ。
3人の中で3年は宮地さんだけ。後の2人は後輩。しかも他校で片方は無冠の五将の悪童。どんな気分なんだろう、と考えてもみるけれど、分かるはずもなかった。
タイマーを見れば余り減っていない時間。一秒一秒確実に減っているはずなのに、どうしてもその動きが遅く感じる。1秒ってこんなに長かったっけ、と思わず溜息をつきそうになった。
床に寝かせられている虹村が目に入って、その姿をかき消す様に首を振った。このまま目が覚めないんじゃないかとか、もしかしたら、とか色々な事が頭をよぎってパンクしそうになる。
目を瞑った。
あぁ嫌だ。こんな些細なことですぐに弱気になる。押し潰されそうだ。息がしづらい。まるで、水面に顔を押さえつけられているようだ。
パシン
軽い音と鈍い痛みが頭頂部を襲った。我に返り、目を開けた。
顔を上げればそこには私の頭を軽く叩いた花宮がいて。その後ろには宮地さんがいた。なんだか眉を顰めているのは気のせいだろうか。
日向や伊月が目を見開いて「藤崎に何すんだ!」と言うのが聞こえた。やはり、花宮に対する信用はないらしい。
けれど、私からしたら有難かった。
だって、泥沼に嵌りそうなこの心の闇から、引き上げてくれたような気がしたから。
「……ありがと」
気が付いたら、そんな言葉が口から出ていた。
その言葉が耳に入ったのか、花宮は軽く目を見開いた。すぐにいつも通りの飄々とした顔に戻ったけれど、少しばかり動揺しているようだった。
まさか、お礼を言われるとは思っていなかったんだろう。
低い声で「……行くぞ」と言って背を向けた花宮を少し見つめる。その行動に首を傾げそうになったけれど、あぁ、時間か。とすぐに察しがついた。
思ったより、タイマーの時間が減っていた。
フ、と自分の前に影が落ちて、再び顔を上げるとそこには宮地さんがいた。私の目線を合わせるようにしゃがんでいる。
「……大丈夫かよ」
そんな言葉を掛けられて少し吃驚する。相手を労るような、優しい、言葉。これだけだと語弊を招くかもしれないが、やはり彼も優しい人間なのだ。
私に向かって「ん、」と手を差しのべる宮地さん。普段からは考えられない行動だろう。
そんなに、私が弱く見えたのだろうか。思わず苦笑した。
「……ありがとう、ございます」
「あぁ」
そんな宮地さんを驚いたように見つめている高尾くんや緑間に、「轢くぞ!」と言っているのを見て、あぁ、彼だ。と思わずにはいられなかった。
グ、と私を引っ張りあげるその力強い腕は、やっぱり男の人だった。何だか少しだけ、安心する自分がいた。
床に寝かせられている虹村は紫原が運んでくれるらしい。それなら平気か。とホ、と息をつく。
ドアの前で待ってくれていた花宮にお礼を言って2−6を出た。相変わらず心配そうにしている日向と伊月と黒子、火神。赤司は微笑んでいた。
花宮、私、宮地さんの順で進む。何故か腕を掴まれて隣を歩かされているので、正確に言えば花宮が隣を、宮地さんが後ろを歩いているのだが。
まぁ、卒業生が現れても最悪蹴りで倒せば良いかな。
倒せればだけど。
考えた瞬間に睨んできた花宮は、エスパーか何かなの?宮地さんが、そんな私達を見て笑いを堪えているような気がした。
ある意味、このメンバーは心地よいかもしれない。不安はとっくに消えていた。
少しだけナイーブななつめちゃん。
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