「紫原、椅子持った?」
「うん。持ったよー」
「……さて、どこから探そうか」



会議室を出て、今吉班と花宮班に別れを告げる。なつめ達は1F探索担当なので、あまり動く必要は無い。会議室の扉の前に立って、左右をキョロキョロと見渡す。右から行くか左から行くかなつめが迷っていると、そんななつめに赤司が声を掛けた。



「藤崎さん、左に事務室と校長室、保健室があります。そちらを先に調べましょう」
「了解」



辺りを慎重に見回し、卒業生が近くに居ないことを確認する。まずは隣の事務室から探そう、と事務室の扉に手をかける。









ガチャ、とゆっくりドアノブを回し、バン!と思い切り扉を開けて即座にベレッタを構える。中に卒業生が居ないと分かるとベレッタを下ろし、後ろにいる赤司と紫原に合図して中に入らせる。



「……うーん……、……まぁ、普通だね」
「そうですね…でも、何があるか分かりません。引き出しの中や戸棚を徹底的に調べましょう」
「机少なくて良かった……」



4個の机が合わさって並んでいた。ロッカーらしきものは見当たらず、その代わりにあるのは本棚や戸棚。机の上に散乱している書類が事務室である事を明確にしていた。3人で手分けして、それぞれの机の引き出しを片っ端から開けていく。



なつめは自分が探した机には特にめぼしい物が何も無いと分かると、背後にある戸棚を漁り出す。しかし、そこにも特に必要と思われるものは無かった。



「……どう?何かあった?」
「……いえ、特にこちらは何も」
「こっちもー」



そっか、と答えて今1度事務室内をグルリと見渡す。それでも、特に変わったところは見当たらず、ふむ、となつめは腰に手を当てた。



「手ぶらってのもアレだから、何か筆記用具とか持って帰ろうか。この校舎の地図とか作るのに紙とペンは必要だしね」
「それもそうですね……そうしましょう」



大きめのサイズのコピー用紙数十枚と、黒と赤のマジックペン、ボールペン、ノート数冊、セロハンテープ、そして赤司が持ってきた業務用の大型の鋏を手近にあった紙袋に入れる。何故赤司が鋏を持ってきたかは彼のみぞ知る。……まぁ大方武器になるだろうと思ってのことだろうが。こんなもんかね、と中身を確認して赤司となつめは頷いた。若干重かったので、紫原に荷物を持ってもらう。校長室と保健室を探索し終わった時にでも、会議室に置いていけば良いだろう。



「……じゃ、そろそろ出ますか」
「はい」



事務室の廊下側に面している窓から廊下の様子を覗き、確認する。なつめは再びベレッタを構え、事務室を出る。赤司と紫原もそれに続き、事務室を出た。









右から順に会議室、事務室、2Fへと続く階段を挟んで校長室、保健室、相談室と続いている様だった。薄暗い廊下を慎重に進む。明かりがつかなくても周りが鮮明に見渡せるのは本当に不気味である。これもゲームクオリティというものなのだろうか。それでもまだ、蛍光灯がチカチカと光っているよりは良かった。蛍光灯が切れかかるのは、恐怖心を高ぶらせるのを助長させるだけでしかないと思うからだ。









事務室から出て階段を過ぎ、数歩進んだところでなつめは突然止まる。左腕を伸ばして後ろにいる赤司と紫原の動きを止める。なつめがジッと見つめる先には、何かが這いつくばって蠢いている。「あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛……」と幽かなうめき声が聞こえる。それを見つめるなつめの目と、何かの目がバチッと合う。






……卒業生だ。






立ち上がって、保健室の前をウロウロと歩き回っている卒業生となつめ達との距離はわずか数m。なつめ達を認識した卒業生は、ズッズッと少しずつ距離を縮めてくる。全くスピードは速くなく、歩いてでも撒くことが出来るであろう速さだ。なつめはセーフティーを解除してガチャ、とスライドし、卒業生にベレッタの照準を合わせる。卒業生は、武器を持っていなかった。



ガウン!と撃った弾は卒業生の右肩に当たった。ブシュゥと血飛沫が上がり、ダラダラと床にこぼれ落ちる。それでもまだ、卒業生は近づいてくる。なつめは1発撃って自身の腕を見る。撃った時の衝撃が伝わり、ビリビリとしている。少し眉を顰めた。



「く……っ!流石に本物だね…エアガンと違って反動が凄いや……!」



しかし、命中した時の高揚感は変わらないらしい。次は急所、となつめは鳩尾に狙いを定める。後ろで控えている赤司に、振り返らずに告げた。



「先に伝えとくよ、赤司。狙うなら急所。頭、首、心臓、両手両足……!弾数気にするならせいぜい1体につき5発ってところかな……」
「両手両足を狙うのは、動けなくさせる為ですか」
「時間を稼ぐ時にはね。心臓とかにヒットしなくても、足が使えなければ十分な時間を稼げる」



もう1発、と今度は鳩尾に撃ち込んだ。グ、と少し体制を崩した卒業生に、急所は大抵同じか、と悟る。



「紫原は後ろから来ないか見張って!」
「わかったー!」



もし背後を取られて挟み撃ち、になってしまっては洒落にならない。確実にゲームオーバー。もしもう1体来たら、赤司になんとかしてもらおう、とその間だけ赤司と紫原に背中を預ける。ガガン!となつめは卒業生の心臓に弾を撃ち込む。しかし、それでも倒れずに動いている卒業生に目を見開く。



「は……?心臓にヒットしても駄目なの!?……ってことは……、首から上か!!」



遠目からでも、なつめが撃ち込んだ弾は心臓に命中したと分かる。もしかして、普通のゾンビみたく首を狙わなければならないのか?と、試しに頭を狙う。



チュイン!と卒業生が弾を避け、こめかみを掠る。なつめは荒々しく舌打ちした。



「ッくっそ……避けんなよ!!」
「!赤ちん、もう1体来た!左!階段から下りて来てるよ!」
「っ赤司頼んだ!」
「やってみます」



紫原の声に、クソ……となつめは唇を噛む。任せるのは不安だが、赤司だ。きっと上手くやってくれるだろう。現に赤司の声からは自信しか感じられない。なつめは卒業生に向き直って首から上を狙った。



「ッらぁっ!!」
「……ッ!」



ドパパパパ、となつめが撃つベレッタの発砲音。赤司は紫原を後ろに下がらせ、階段を下りてくるもう1体の卒業生にガバメントの照準を合わせる。なつめから聞いたとおり、首から上を狙う。ガガガン!と3発ほど撃ち込んだ。見事に3発全てがヒットし、卒業生は階段に頭から倒れ込む。しかし、足元に倒れ込んできた卒業生はまだピクピクと動いている。痙攣しているのを冷たく見下げながら、赤司は再度2発を頭に撃ち込んだ。卒業生はドクドクと血を流し、次第にピクリとも動かなくなった。












































「……、…き、消え……た…?」
「……こんな事が、」



赤司となつめは驚愕の声を上げる。目の前で卒業させた卒業生が、跡形もなく消え去ったのである。その場に残ったのは卒業生の血のみ。肉片も何も残らず、そのままそっくり血だけを残して消滅した。なつめは構えたベレッタを静かに下ろした。



「……お疲れ赤司。初めて撃って全部ヒットとか……。今度一緒のチームでサバゲーやらない?やっぱアンタ最高だわ」
「そんなことないです」



はは、と笑いながら、知らず知らずの内に頬を伝っていた汗をグイ、と拭いとる。その際に目に入った腕時計をまじまじと見やる。その違和感に気付くのに、時間はかからなかった。36を示していた長針は少し巻き戻り、34を示している。



「…ねぇ赤司、時計の針の位置が変わってる」
「……本当ですね。36分から34分に……。…………まさか、これは…」
「時計の針が、残りの卒業生の数を示してる…?」
「今倒したのは2体だし、そういうことなんじゃないー?」
























1時限目終了まで、残り18分。
卒業生在籍人数、34人。(現在Lv.1)
<卒業させたプレイヤー>
赤司征十郎(2602)
藤崎なつめ(2627)


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