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窓から差し込む淡い日差しに気付いて、目が覚めた。そういえば昨日の夜はカーテンを閉めるのを忘れていたかもしれないと、せっかくの休日の朝だというのに早い時間から目が覚めてしまった事で、口から唸りのようなため息のようなものがついて出た。
ベッド脇のサイドテーブルに置いてある目覚まし時計を見れば、午前6時を少し過ぎたところで。ぼんやりとした頭でどうせ何も予定は無いし、今日はお昼近くまで寝て過ごそうと一考し、開け放たれたカーテンはそのままに、私は頭から布団を被りなおした。
―そして、違和感。
まず感じたのは窮屈さだ。人並みに寝言を言いこそすれど、私の寝相は決して悪くないはずだ。だというのに、1人で寝るには十分なサイズのはずのシングルベッドがとても窮屈に感じる。
次に感じたのは背中に当たる暖かさ。そして微かな身動ぎと寝息で、明らかに自分以外の誰かが同じベッドに寝ているのが分かる。父親は単身赴任中で、バリバリのキャリアウーマンである母親は先日から一月の海外出張中であるのだから、家族の誰かであるわけもない。
誰?どういうこと?動物?そもそも後ろにいるのは人間なの?と脳内がパニックを起こす。とりあえず確認しなければ話にならないか、と恐る恐る体を反転させれば、驚きのあまり私はポカンと口を開けた。
『は………?』
そこに広がるのは絹の様に柔らかそうな銀髪。左頬の赤い傷、額にペンタクル。見たことのある顔がそこにはあった。…見たことがある。…すごく、見たことがある。というか知らないわけが無い。
端的に言えば、自分が大好きな漫画の大好きなキャラクターが、自分の目の前ですやすやと寝息を立てていた。もうその時点でありえない。嘘としか思えない。
『…え、いや、だって…えぇ…?』
状況を整理したい。まず私は昨日、部活が終わって学校から帰ってきて、家事やお風呂もそこそこに眠りについた。全国大会前ということもあって疲れが溜まっていたからか、死んだように寝ていたためトイレにすら起きていない。そして冒頭に戻り、2度寝をしようとして気付いたらこの状況である。
『(…アレン?本当に、あの、アレン・ウォーカー?)』
脳がキャパシティを超えたのか、体が上手く動かせずに、私は目の前にあるアレンの整った顔立ちを見つめることしか出来なかった。だって、何度でも言うが、いくらなんでも漫画の中で活躍しているキャラクターが目の前にいたら動揺せざるを得ないだろう。思わず頭を抱えそうになるのをどうにか抑える。
ふと視線をずらすと、朝日を浴びて淡く光っている金色のゴーレムが目に入った。ティムキャンピー。枕もとでアレン同様すやすやと寝入っている。というか、エクソシストならば他人の気配に敏感そうなイメージが強い。神田まではいかなくとも、隣で人が寝ていればすぐに起きるのではないかとも思ったが、そうではないらしい。疲れているのだろうか。
『(まぁ、激しい聖戦をしているわけだし、疲れるのも当たり前だよね…)』
本当ならば、自分が起きた時点でアレンを起こすことがこの状況では最適だったのだろう。真っ先に起こすよりは周りを確認してからの方がよっぽど良いはずだと思ったから、未だ起こさずにいるわけなのだが。
本音を言えば、安らかに眠りについているアレンの顔を見て、起こすのが忍びなくなってしまったのだ。紙面越しではあるけれど、アレンの辛い戦いや葛藤を見ていたから。これは完全に私のエゴだが、どうしても、そっとせずにはいられなかった。
『(…さて、どうしようかな…)』
時計の長針が真下に来ていた目が覚めてから既に20分程経過している。アレンが起きて起こされるまで狸寝入りを決め込んでも良いが、寝たふりはバレる可能性の方が高いだろうし、そもそもこの距離でポーカーフェイスを保てる自信がない。起きてから質問される内容は大体予想が付くしその点に関しては問題は無い。パラレルワールドか、タイムスリップしたのではないかと答えるのが得策だろう。後は、自分が「彼ら」のことを知っているそぶりを見せなければ良い。
…なんとか、なるだろう。多分。
小さく深呼吸をする。…大丈夫。絶対、大丈夫だ。
意を決してアレンの肩に手を伸ばし、少し強めに揺さぶる。そうすれば、身じろぎをしながら唸り声を上げ、薄らと目が開いた。案の定まだ覚醒していないらしく、なんとなく寝ぼけている様子が不覚にも可愛いと思ってしまった。
『なんて声かければ良いんだ…。…あの、起きてください』
「…なんですかリンク…まだ早いですよ…昨日任務だったんだから寝かせてくださいよー…」
『(いやアレンが可愛いのは当たり前なんだけど)…あの、貴方、誰ですか…?』
「…え?」
見知らぬ人が目の前にいることで、アレンは目を見開いた。そんな彼の銀灰色の瞳に、私は知らずのうちに引き込まれていた。
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