見慣れない森の中だった。



聞こえるのは、2人分の荒い息遣いだけだ。そして、眼前に広がる血の海と積み重なった機械の残骸。辺りにはAKUMAのガスが立ち込めており、呼吸をするのもままならないような状況が、そこにはあった。



「…奈楠と、神…田?」



ポツリと呟かれたアレンの声はやけに響き渡り、暗闇の中へと吸い込まれていく。



これも、イードレの記憶なのだろうか。だが、アレンとロードの前に居るのは奈楠と神田だけだ。たった数時間で見慣れてしまったあの煌めくような金色は、どこにもいない。



何も言葉を発しない奈楠と神田に違和感を覚えて、再びアレンは2人に視線を向ける。そうすれば、その違和感に直ぐに気付いた。



奈楠が、無表情すぎたのだ。



自分達と話している時は楽しそうに、AKUMAを破壊している時は辛そうに、悲しそうに、それでいて可逆的な薄い笑みをいつも浮かべている奈楠から、色が消えていたのだ。表情豊かなその顔から、何も感じ取ることが出来ないくらいまでに、消えていた。



「、そういえば、何か奈楠と神田が幼い…?」
「んー、多分これはあの時かなぁ…奈楠が3ヶ月間眠ってた後のだから…4年前の記憶だねぇ」
「!!!?」



ロードの答えに驚いたアレンはグルンと勢いよく振り返る。そんなアレンの反応を面白そうに見つめて、再びロードは口を開いた。



「驚いたぁ?」
「…お、驚くも何も、奈楠は今までに1度も、そんな話は…」
「普通に考えて、自分は3ヶ月間も眠ってましたーなんて、他人に言うと思う?僕はそうは思わないけどねぇ」
「……それは、」



その通りだった。4年前と言えば、アレンと奈楠が初めて顔を合わせたか合わせないかくらいの時だ。しかも、エクソシトにもなっていなかった子供だった自分。そんな自分に、奈楠がそんな事を話すはずもなかったのだ。



何となく感じた疎外感と悔しさで、アレンはギュッと拳を握る。ロードはそんなアレンの手を掴んで、ニコ、と笑った。アレンはロードを苦々しく見つめる。



「……ロード、君は……「……何故、生きる?」!!?」



ボソリと聞こえてきた聞き覚えのある声に、アレンはロードから視線を外す。見えるのは、AKUMAのオイルを浴びてビショビショになっている奈楠と、それを後ろからジッと見つめている神田だった。



アレンはこくりと喉を鳴らし、真剣な瞳で2人を見つめた。



『……え?』
「奈楠、お前は、何故生きる?」
『……、』



何の関係もない他人にしてみれば、神田が奈楠に投げかけた言葉は酷く残酷な言葉だったのだろう。しかし、彼らにとってこの問いかけは、非常に重要で、意味のあるモノだった。奈楠は“紅”を構えたまま、微動だにしなかった。そんな奈楠に、神田は更に問いかける。



「何が目的で、何が理由で……お前は、この世界を生きる?……イノセンスは関係ない、お前だけの意思で答えろ」
『……私、は、』



奈楠は顔を上げて空を仰いだ。木々の隙間から見える空がまるで闇のようで。このままずっと仰いでいれば、吸い込まれてしまいそうな空夜が、どこまでも続いていた。



『……私は、教団の皆が、リナリーが、神田が、生きる理由だよ』
「……!!……そう、か」



不意に向けられた顔には、悲しそうな表情が浮かんでいた。眉は下がり、必死に笑顔を作ろうとした、不器用な顔。そんな奈楠の顔を見た神田はフ、と笑い、奈楠の顔に付いているオイルを丁寧に拭った。



「……なら、俺もお前やあの人が、生きる理由だ」






視界の端を、金色の何かが横切ったような気がした。










本多奈楠と神田ユウ



(この記憶をアレン・ウォーカー達に見せる事を)

(どうか許してちょうだいね)
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