林檎と烏とアメジスト

柚本栞奈 



 彼をひと目見た時、なんてうつくしい少年なのだろう、と思った。
嫉妬や羨望や、そんな安っぽい、人間じみた感情など全て弾け飛んで、ただ、ただ、うつくしい、と思った。


◆ ◆ ◆


 加州清光は美しいものが好きだ。

 美しくて見目がいいことはすなわち、ひとに愛されることと等号で結ばれている。そういう考えの持ち主だった。だんだんと生活にも慣れて気持ちに余裕ができて、気のおけない仲間たちが増えてゆくうちに、愛されることへの病的なまでの執着であったり、美しくあることへの強迫観念じみたこだわりであったりと、以前の加州を縛っていたようなものは徐々に薄れて、肩の力が抜けて生きやすくなってはきたけれども、相変わらず美しいものを見るのは好きだった。自分の周囲を美しいものだけで固めていたい。きらきらしていて、綺麗で、うっとりするようなものたちに囲まれて暮らしてみたい。いつだったかそう言うと、前の主の元で佩かれていた頃からの相棒から、烏みたいじゃんと笑われたっけ。

「烏ってなんなの。もっと何か他に言い方ないの?」
「だって烏って光るもの見つけたら全部持って帰って巣に集めていくだろ。だいたいそれと一緒じゃない?」
「一緒じゃないよ!ばか!」
「ほら、お前ちょうど普段から黒い外套着てるし、」
「あのさあ安定。お前さ、実は俺のことめちゃくちゃ馬鹿にしてるだろ」
「してないよ!いいじゃない、烏、格好いいよ黒くて」
「馬鹿にされてるようにしか聞こえないんですけど……」

 加州は深く溜め息をつく。そもそも、黒くて格好いいってなんだ。
 例えば鷲や鷹、がらりと系統を変えればカナリアや孔雀、そういった鳥に例えられるならさておき、いやいや、烏って。控えめに言っても美しい鳥とは言い難いし、鳴き声も喧しくて、なんか縁起でもないし。わざと大袈裟に、そーですか俺には烏がお似合いってことですか、と拗ねてみせると、大和守は、そんなんじゃないよ違うよお、と顔の前で慌てて手を振った。大和守安定が意地悪でこういうことを言う奴ではないのは加州が一番良くわかっている。喉の奥をくつくつ鳴らして笑いながら、許してやんないからね、と言うと、大和守はこれまた大仰に、もう!と口を尖らせてみせる。それを見て、また笑った。

「聡い鳥なんだよ」
「なに?烏の話?」
「そう。びっくりするくらい」



(後略)

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