現れたのは――そう、同じ顔をした二人組みなのだった。
「……」
南雲暁と南雲梓。
何でこんな霧の中、二人は歩いている? 怪しい事この上ないが元より怪しげな噂のあった二人なだけに、皆もどう対応していいやら分からず上原任せな状況となっているようであった。
「あ……、と、えと。ど、どしたの? 南雲さん達」
意を決したように上原が話しかけると、霧の中で佇んでいたのであろう二人はさして慌てるでもなく、いつもの無表情のままで続けた。
「――気晴らしにちょっとね」
そう、口を開いたのは暁の方であった。その横では梓がセーラー服に身を包んだままで佇んでいる。
「そ、そうだ」
このまま立ち去るのも何だか気まずくて、上原が思いついたように言葉を発した。
「増田彩花と浜辺育子、見てない? 何か二人共トイレ行くっていったきり、戻らないらしくて……」
「知らないね。悪いけど」
暁はそれだけ告げて、興味なさそうに梓と歩き出してしまった。
「……何あれ、薄情な奴ゥ」
男子生徒の声が上がったが、それは予想しきっていた答えだったので上原自身は何とも思わなかった。
それからぐるりと建物の周りを一周してみたけれど結局、有力な手がかりを掴めるでもなく単なる散歩と化したそれは終了した。入り口前で、三グループのうち二グループが戻ってきていた。
「そっちは?」
「何もなかったっす、センパイー」
「無理か〜……だよなー」
ハァ、とため息を吐く上原ではあるが、何の収穫も得られるわけはないかという思いも初めからあった。なすすべなくその場に腰を降ろしていたが、やがて戻って来たもう一グループにはっと顔を上げた。
「……な、何か!」
慌てて戻って来たマーチに、一同皆驚いて彼を見た。
「何か声がしたよ!」
「声ェ?」
それはあの、自分達もすれ違った南雲兄妹の事じゃないのか。口に出そうとした瞬間、マーチは予想とは違う言葉で返してきた。
「……ひ、悲鳴が……」
夢中で駆けて来たのか、切れ切れの息で話してマーチは顔を持ち上げる。
「女の子の悲鳴が聞こえたんだ! 遠くの方で! やばいよ、うん、絶対にやばいんだ……普通の悲鳴じゃなかったもの! 痴漢にあったとかそういうのとは違う、あれはもっと」
「わ、分かったよマーチ。分かったから落ち着いてくれよ」
「あれはもっと、死の危機に面した時の叫び方だった」
女の子の悲鳴、と聞いて上原は先にいなくなった二人の方ではなくてまさか梓の身に何かが及んだのでは――と戦慄しそうになってしまった。
「彩花か育子かもしれない!」
明歩が叫んで立ち上がった。
「早く先生に言わないと……」
「ま、待って。……ねえ、アンタ達。一緒にいた泉水はどこ? あのヘッドホンつけた子」
言われてようやくマーチは気付いたらしい。辺りを見渡して、彼がいない事に驚き、それから互いに顔を見合わせた。
「あっ……」
「お、おい。そういやどうしたんだよ? さっきまではいたよな!?」
「し、知らないよ俺! だって夢中でここまで来て――」
何てこった、と上原と緒川が顔を見合わせた。協調性の無い泉水の事だから、案外一人で勝手に部屋に戻っていてもおかしくはないが……。
「と、とにかく戻って探しに行かないと――」
マーチが叫んだ矢先に、すぐにその異変は立て続けにやってきた。一同が腰を降ろすすぐその目の前に、ふらふらとした足取りでやってきたセーラー服。
セーラー服の少女は片足を引き摺るような形で、何か不安定な動きを繰り返していて……ところどころ泥やら何かの汚れが付着しているのが見えたものの、それでいて髪の毛が何かボサボサとしているように見えたものの……靴を片方、無くしたのか靴下の状態のまま少女はそこで立っていた。
「……、彩花なの?」
茉莉がぼやくと、一同がようやく彼女が誰なのか気付いたらしい。ぼろぼろの身なりであったがためにすぐに気付けなかったが、言われてみれば確かにそうだ。
茉莉がすぐさま駆け寄り、彩花の肩に手をやった。
「い、一体何があったの? そんなボロボロで……」
「――、」
「ね、ねえ……育子は?」
恐る恐る尋ねかけてみても、茫然自失とした彼女は何も言わない。青褪めた生気に乏しい顔つきのまま、裂けて血の滲む唇を震わせるだけであった。
「彩花……?」
彼女が霧の中で何を見たのか、そして残る育子はどこへ行ったのか……語ってくれそうにもないがしかし――とにかくどこか場所を変えなくては。もっと彼女が落ち着けるような場所へ……そう思った矢先に、彩花は茉莉の手を引いた。
「みんな……死ぬ……」
「え?」
ガチガチと歯の根を震わせて、彩花は涙を浮かべながら言った。
「あ、彩花……? 今何て……」
「あ――あ……、戻ってくるよ……育子が帰ってくる! あ・あたし、育子にトドメ刺せなかったから生き返ってここに! きっともうすぐあたしに復讐しに……うあああああぁ!」
「彩花!?」
言っている事は支離滅裂そのもので分からなかったが、とにかく酷く錯乱し、何かに怯えている彩花の様子からして只事ではないのだった。
一同は、軽い気持ちでこの状況に胸を躍らせた事を激しく後悔するより他無いのであったが……。
「オイお前達、何してるんだ!?」
「あ、やばっ」
教師の声が、何だか今は懐かしくてとても安堵できたのは何故だろうか。懐中電灯を持ちながら現れた教師達に一同のお遊びも終結したのであった。