20-3.変質者+人格者≦母ちゃん
さながら出来の悪いB級ムービーでも見せられているような心地がする。ナンシーはぞっとして目を背けた。
「ひいいいい〜〜〜〜!」
震える声で叫んだのはナンシーではない、ママの方だ。
「パパ! パパァーーッ!!」
金切り声を上げながらママは武器の包丁も投げ出し、無我夢中に駆け寄った。ぐちゃぐちゃの肉味噌と化した遺体(というか元から遺体も同然ではあったのだが)に躊躇することなく手を差し伸べ、それから嗚咽を上げた。
「あぁ、あっ……」
そして、ママの憎しみの矛先が向かうのは当然その男へだ。
「殺してやる!」
叫びながらママが素手で飛び掛る。ママは長く伸ばした鋭利な爪で男の顔をメチャクチャに引っ掻き回し始めた。
「あ、開いた……ッ! 透子、開いたよ!」
まりあのお呼びがかかり、ようやくはっと顔を上げた。
「殺してやるゥ、殺してやる殺してやるゥウ〜〜! このヘナチンがぁああ!」
我を見失うママの横をすり抜けて、ナンシーがまりあの元へと駆け込んだ。ほとんど転がり込む勢いで部屋の中へと入ってから、慌てて扉の鍵を閉める。扉を背にしながら二人がずるずると崩れ落ちた。
「……っな、によぉお〜」
息切れしながらまりあが言葉を発する。他にもケチをつけたい部分は色々とあったのだろうが実際はこんなものだ。
しかしながら悲観に暮れている暇もない、ナンシーはすぐさま立ち上がると部屋の中を見渡した。この部屋が厳重にロックされているのには何か秘密があるはずだ、それを承知であの巨漢はこの鍵を託したのかもしれない……ナンシーがまず走ったのは部屋の中に乱雑に置かれていた機材であった。
ごちゃごちゃしたケーブルや、床に置かれただけの機器に近づくなりナンシーはしゃがみこんで覗き込んだ。
「……罠を止める手がかりでもあればいいんだけど」
中央のパソコンを立ち上げてみるが、パソコン含めて機械類には一切詳しくない。横から覗き込むまりあにもそれが分かっているのだろう、おぼつかないナンシーの手つきを不安そうに見守っていたがいよいよ声をかけた。
「ホントに大丈夫なの? 実はよく分かんないでイジってんじゃない」
「う、うるさいわね……集中できないじゃないのよ」
反論したけれども実は内心ぎくりとしてしまい、ナンシーは戸惑いを隠せない。これまで使ったことのあるようなパソコンとはインターフェースがまるで違っている。