20-1.変質者+人格者≦母ちゃん
乱戦状態になってくれたのはちょっとした救いだったかもしれない。こちらを見るや、もう爛々とした狂気をその目に宿しこちらへと向かってきたママだったけれど、突っ込んできたゾンビに背後からしがみつかれてしまった。
「ギシャァアアアアッ!」
顔半分の陥没した中年ゾンビがママの首筋めがけてその口をぱかっと開いた。
「クズ肉がァ……そんなに食材にされてーのかッ、この腐れインポ野郎がよぉおお!」
聞いちゃいられないような汚い言葉と共に、ママがその出刃包丁を振りかざした。少々の遅れを取ったナンシーとまりあだったが、切り刻まれて舞い上がるその肉片を見て、改めて青ざめた。
ママは嬉々として、組み敷いたゾンビをザクザクと二本の出刃包丁で執拗に何度も何度も刺し続けていた。頭を潰さない限り活動し続けるゾンビは、当然それだけでは死なないのからタチが悪い――馬乗りになり、ママはその痛くとも死ねないゾンビに向かって幾度となく包丁を振りかざし続けた。
「……まりあちゃん!」
ナンシーが名前を呼んでくれなかったら、その光景をずっと見続けていたかもしれない。
「早く逃げましょう!」
「ね、ねえ……あのババア何者? 重さもなさそうな包丁であんなに簡単に人間をバラしちゃうのよ。もはやX−MENとも渡り合えるわね」
「冗談言ってる場合じゃないでしょ! 早くっ」
そう言って手を引いてやるものの、周りは罠だらけ。この混乱に乗じて逃げ出してしまいたいものだったが下手に動けば……。
「ぎゃああああああっ! あっづいいいいいいぃいい゛ぃいっ!」
全身、炎に包まれた人間(声から察するに男だというのは分かった)が壁にぶつかりながら走り回っている。哀れ、罠にかかった犠牲者だろう。
その衝撃度たるやかなりのものであろうが、やけに現実味に薄くてさながらスタントマンでも見ているような気持ちになった。男は「水っ、水っ」等と叫びながらガラスを蹴破って屋敷の外へと飛び出していったようだ。
ナンシーは背後にあった扉に手をかけた。そこにはしっかりと鍵がされており、開く気配はない。……ということは外部からの侵入もまだされていないという事だろうか? なるほど、それは安全だ。同時にナンシーは、先ほど例の巨漢がくれた鍵の存在を思い出した。思い立ったようにジャケットのポケットを探るが、遮るかのように響いてきたのはママのダミ声だった。
「逃がすかぁっ、この薄汚い仔鼠どもが!」
ママはようやく満足したのか、ひくひくと痙攣し続けるゾンビから出刃包丁をずぼっと引き抜いてこちらに狙いを定めた。
個人的にこの辺りの章は
ブレインデッドのラスト辺りの
壮絶な血みどろシーンを思い浮かべてホスィ
マジげろげろぐちょぐちょ。