終盤戦


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17-1.喪失、そして再生



「!?」

 悲鳴は、ヒロシ達の耳にも届いていた。

「今の声は……」
「まりあちゃん、でしたね」

 ヒロシの疑問に被せるようにルーシーが言った。

「今の悲鳴を聞く限り、何やら痴漢にでも会ったような悲鳴でしたが」
「あれに痴漢する馬鹿はいねーだろ」

 思わず口を滑って出た言葉にも、ミツヒロは悪びれる様子もなさそうだった。ヒロシがぎろっと横目で睨むがミツヒロは素で気付いていなさそうだ。

「まあ無事ということで、よろしいのでは……」
「ちょ! ルーシー、うしろっ!」

 ミツヒロがルーシーの背後を指差すが、彼が振り向くよりも早くその物体Xはぶつかってきたのだった。

 ごつーん、と衝突音と共にルーシーがその場に倒れこんだ。

「うわ、痛そっ……」

 思わずミツヒロが顔をしかめながら呟くと、ルーシーと衝突したその人間はばっと顔を上げた。

「殺される……」
「あ? 何だよ、どれに?」

 ミツヒロが気だるそうに聞き返す。ぶつかった男は、すっかり怯えきっているようだった。

「殺される、って言ったんだ! あのキチガイババア、本気で全員皆殺しにする気だ〜〜っっ!」

 わあっと叫びだして、男がその場から慌てて立ち去っていく。ババア、というのは先ほど館内アナウンスで狂ったように叫んでいた女性のことを指すのだろうか?

 ルーシーがマントの下から顔を覗かせて、ひょいっと立ち上がった。

「……何だあれ」

 走り去っていく男を見つめながらミツヒロが呟いた。男は焦るあまり階段から滑り落ちて、それから立ち上がり際更にもういっぺんコケていた。それがまるでコントのようでおかしかったが、何だか必死な剣幕だったので特に触れずにおいた。

「ん〜〜〜、何か物騒なカンジでしたね」

 ルーシーが全身のホコリをぱんぱんと叩き落としながら呟いた。

「ええ。これは……急いだほうが良さそうだ」
「うん。どうやら、それがいいみたい、ね」

 ヒロシが急かすと、一同が顔を見合わせてから頷きあう。


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