31-3.愚者の再会
「それと約束を破るような悪い子は……こうだよ!」
「あ……んいぃ゛ッ!?」
瞬間、ミツヒロの目がぎょっと見開かれた。いやはやそれ以上に創介達の方が驚いて、いやもはや青ざめていたのだがとにかく……。
「こうだよ!? こうだよ!? 悪い子はこうなるんですよ〜!?」
叫びながらルーシーはミツヒロの顎と頭部をしっかり抱え込んだまま壁に何度も何度も彼の顔をぶつけ続けている。やがてミツヒロの悲鳴さえ聞こえなくなった――創介はもはや顔面蒼白になってその光景を見ていたがルーシーは構う事はなさそうだ。
壁に顔面をぶつけられたままのミツヒロが鼻血跡を壁に擦りつけながらずるずるとその場に崩れ落ちて行った……。
「――とまあ、僕の部下が失礼をしましたね。この詫びは後でた〜〜っぷりさせますから。ねっ?」
返り血を浴びながらルーシーがくるりと振り返った。ルーシーは笑顔のまますっくと立ち上がり、再び一同の前へと立った。
「単刀直入に言って……セラくん。君にちょっとお話があります」
「っ……!?」
セラがばっと身構えた。
「大人しくこちらへ来て下されば僕らだって何もしませんよ。僕、平和主義者なので」
一体どの口がそんな台詞を言えたものかまったく不思議になるが……、ルーシーはセラにそう言うが勿論黙ってセラを引き渡すなんて出来ない。セラだって同じ思いの筈だ、こんな得体の知れない連中に大人しくついていくものか。
まずは創介がセラを庇うように前へと躍り出た。
「ばっきゃろう! んなことできるわきゃねーだろうが! セラは俺らの仲間だぞ、お前みたいなワケわからん連中に渡してたまるか」
口早に捲し立てるとルーシーがわざとらしく「おお」と少し身じろぎをした。そんな彼の後ろから……すいと現れたのは随分と線の細い、というか――とてもこんな連中とはつるまなさそうな真面目な少年だ。
学生服に身を包んだその眼鏡の少年を見るなり創介が叫んだ。
「あ! この眼鏡、何か見覚えある! テレビで何度か見たぞ、確か……。そう、一年前の『英雄』だ」
それで辺りが一瞬どよめいたが……英雄、ことヒロシは至って冷静な顔のまんまで続けた。
「ヒロシくんほどの有名人になれば挨拶の手間が省けて楽ですねぇ」
ルーシーがにっこりとほほ笑みつつ言うが、ヒロシは少し肩を竦めるだけで変わった反応はこれといって見せない。にこりともせずにヒロシは薄いその唇を少しだけ開いた。
「――僕はその英雄だの何だのと呼ばれるのは好きませんが」
それでから創介の事は無視して、ヒロシはセラの方を見た。セラがまたじりっ、と身構えた。
「……厳密に言えば僕が君に少し話があるのですよ。まぁ色々と……聞きたい事があってね」
含みを込めたようなその言い草にセラは唇を引き結んだ。
「――断ると言ったら?」
同じく冷静にセラが言うが、ヒロシはそれも想定内の答えだったのだろう。ふっと静かに息を吐いてから腰に手を当てた格好で更に続ける。
「一体、何を企んでいるのですか?」
ヒロシの言った言葉の意味が分からず、創介は当然目を丸くさせてセラを見つめた。創介だけではない、そこにいた全員がそうだった。
こちらが全く話についていけない事なんか、ヒロシには勿論関係ないのだろう。ヒロシは創介たちの視線にはまったく目もくれず、続けざま言った。
「第七地区へ行って何をするつもりですか?……答えられない事情でもあるのでしょうか?」
「なっ……」
うろたえているのはセラではなくて創介であったが……。ヒロシはセラのすぐ傍までやってくると切れ長のその目でセラを睨み据えた。
「――いい加減、とぼけるのも止めにして欲しいですね。世良……いや、竹垣」
お前は一体何を言っているんだ…
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