中盤戦


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31-2.愚者の再会



まったくもってふざけたこの組み合わせに創介たちはあんぐりとするほか無い……と、見せかけてすかさず反応を示した奴がいた。

「あーーーーーーっ!」

 凛太郎である。その横では、普段は感情の起伏に乏しい一真までもが驚いた顔をしている。

「な、何だよ。知り合いかおめ……」
「ナオじゃねえか! 何してんだよ、こんなところでっ!」

 凛太郎が叫び散らすとナオと呼ばれたそのマントの男――、は肩を竦めてふっと笑った。

「……悪いけれど僕はもうその名前じゃあ呼ばせていないんだよ、凛太郎くん。それと一真くん。――僕は、ルーシーだ」



 ルーシーがそれぞれ茫然とする凛太郎と一真を交互に見つめた。その言葉を聞いた瞬間にミミューがはっきりと動揺して見せた。そんな事には当然気付く筈もなく、ルーシーは続けた。

「二人が身内だろうと僕は容赦しないからね。そこのところ、よぉお〜〜く覚悟しておくように」
「は、はあ!? 何ワッケわかんねえ事……」

 当然うろたえる双子は無視して、ルーシーは中央に向き直った。アルカイックな笑みをそのままにし、ルーシーは人差し指をすいと持ち上げた。

 一瞬その指先を見つめてからルーシーは再び創介達の方へと視線を戻した。同時にその指をこちらへと突き付けた。

「それで。――セラくんっていうのはそちらの君でよろしい?」

 半笑いの顔でルーシーが問い掛けると、創介達が一斉にセラの方を見つめた。

「な……」

 次の瞬間ルーシーはマントをバサッとはためかせながらそこから飛び降りていた。自分達のすぐ前にすたっと着地すると、ルーシーはその姿勢からゆっくりと立ち上がる。――身長にはまずまず自信のある創介が見下ろされてしまうなんて……軽くうち負かされてしまったような気がして僅かながら敗北感を覚える。

 このルーシーと言う男を、創介だって知らないわけじゃない……一年前の事件で何度かその顔と名前を目にした事はあった。だが――、創介は思わず逃げ出したくなったのである。いやいや身長で負けた屈辱感ではなくて、単純に恐ろしさからであった。

――なんだ? 何だよこいつ……何て言えばいいのか……

 彼の乏しい語彙ではどう表現すればいいのやらまるで分からなかったが、傍にきてようやく気がついた。ルーシーと名乗るこの男……人の、人としての形をして生まれてきているのに何かが――いや、何もないのだ。

 まるで死人のようだった。いや、死人という表現では語弊があるかに聞こえるが、こいつからは生きた人間の心地がしない。

 もっと言えば人間らしい行動をするようにプログラミングされただけの人形やロボット。失礼な言い方かもしれないがそれ以外には到底想像も追いつかない程の空白、あるいは闇が広がっているように思えた。創介は背筋にぞっとしたものを覚えてのけぞりそうになった。

 ルーシーを追うように階段から降りて来るのはその仲間達だろう、ルーシーを囲むようにその人物達が立ち塞がる。

「……で? セラっつうのはどいつだよ」

 一番身長の低い、目つきの悪い少年が躍り出て来た。片目に眼帯をはめたその少年が出て来るや否や物騒な事にショットガンを構えた。

「さっさとブチ殺して帰ろうぜ、俺は風呂に入りてえよ」

 物々しいショットガンに出迎えられて創介がひぃっと声を洩らした矢先であった。ルーシーがふぅっと呆れたようにため息を吐いた。かと思うと、その場で軸脚のみでくるりと回転してみせてミツヒロの首めがけて上段蹴りを叩きこんだ。

「ぐぇっ」

 蛙でも潰してしまったような悲鳴と共にミツヒロがその場にもんどり打ちながら倒れた。

 蹴りを叩きこまれた衝撃で視界がぐるんぐるんしているのだろうミツヒロの髪の毛を容赦なくひっつかんで立たせると、ルーシーはサディスティックすぎる笑顔で言うのだった。

「ミツヒロくーん、話を聞いてなかったのかな? 殺すんじゃあないですよ、生捕ですよ。万が一にも撃ち殺したりしてみなさいよ。僕が君にどうするか……想像はつきますね? 万年赤点の君でもよーく分かる筈ですよね。分からないとは言わせないですよ。返事はひとぉつだけですよ、分かりましたか?」
「あ、あうぅ……」

 未だ意識の朦朧としているミツヒロの髪の毛を鷲掴みにしたままでルーシーは彼の身体をずるずると壁際にまで引っ張って行った。


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