30-1.欺き、欺かれ
雨が、その勢いを失いつつあった。
まだ夕方前だというのに薄暗さはあったが、それでも雲の間から、か弱い光が見え始めていた。灰色の雲との隙間からは未だ水滴がぽつぽつと垂れている。
あれからミミューは何か、別の痛みにでも堪えるよう沈痛な面持ちのままハンドルを握っていた。ミミューの脳裏にはずっとガイの事とそれと……、――ふと、絶える事のない彼の思考を途切れさせたのはナンシーの声だった。
「神父」
「あ……う、うん?」
「そこを曲がって欲しいんですけど」
「あ、ああ……ここを右、ね?」
聞き返すミミューにナンシーがこくりと頷いた。言われるままにミミューがハンドルを切ると、道があったような形跡の残る、道路らしきものが広がっていた。
「?」
辿りついたその場所にミミューは首を傾げた。
「ナンシーちゃん、ここ……って」
ブレーキを踏みながらミミューが不可思議そうに問いかける。ミミューだけでなくその場にいる全員(雛木は除いて)の顔に疑問符が浮かんでいるみたいだった。
「行き止まりだよね?」
厳密に言えば元々は病院だったらしい廃墟が佇んでいるだけだ。よく心霊ものの特番なんかでロケ地として扱われそうなおどろおどろしい病院である。夜だったら恐ろしくてとても近づけやしないだろう。
「……中に会いたい人がいるの」
「会いたい人?」
こんな場所で逢引……なんてのもおかしな話だろうし。尽きない疑問はそのままにナンシーは表情一つとして変えず続けた。
「ええ。ついてきてくれる?」
こちらが不思議に思うことなどには一切触れずにナンシーが言い切る。
「それは勿論いいけど……会いたい人っていうのは――」
そして答える前にナンシーは扉を開けて行ってしまった。
「あ、ちょ……危ないよ!」
ミミューも慌てて扉を出ると創介達も連なるように外へ出た。
「おい二人とも! ったく、結局こうなるんだからさぁ」
ぶつくさ言いながらも創介が飛び出すと当然、セラと有沢も出て行く。雛木は舌打ち混じりに有沢達の後を追うような形で扉を開く。
「凛太郎」
「……」
「僕らも行かなきゃ駄目かな」
「……二人ぼっちじゃどうしようもねえもんな」
二人が顔を見合わせた後、それぞれ左右から外の世界へと飛び出した。