29-5.テイルオブトーチャー(拷問の話)
道路の真ん中で食事中のゾンビがいる。ゾンビは若いその男の遺体から腸を引きずりだしたかと思うと、ベチャベチャとそれを汚い食べ方で頬張っている。
「このっ!」
ワゴンで通り過ぎ際、ミミューが扉を開けて思い切りそれをゾンビの顔にぶつけてやった。ゾンビは何が起きたのかも分かっていないんだろう、そのままごろごろと転がって行く。
「ったく……イヤになるよ、あんなのばかり目についたら」
扉を閉めながらミミューが正面を見てハンドルを握り直す。
「でな、その女の子俺に向かって何て言ったと思う?」
「しらねーよ、興味ねえ……」
創介の馬鹿な話のかわし方を覚えて来た凛太郎は極めてドライな対応である。
「俺の顔見るなり指差して誰かに似てるー! だってさ。誰だろうな、芸能人かな?」
「……初対面でいきなりそんな事言われるんなら相当似てたんだろうな。誰かは知らんけど」
やはり興味無さそうな凛太郎の返事であったが創介は構う事なしに続けた。
「あとチンポ入れてーっ、て」
「言うわけねえだろボケ」
「ありちゃわが今ちょっと笑った」
「……笑ってなどいない」
この唐突な下ネタにも皆慣れて来たらしく初めは嫌そうな顔をしていたナンシーも今ではすんなり許容……というか耳にすら入れなくなっていた。
「ん?」
ミミューのスマホが再び音を鳴らし始めた。ミミューはスマホを取り出し、その表示された名前を見つめた。
「またガイからだ。どうしたのかな」
「……寂しくなったんじゃないの」
創介が笑い笑いに言うと、ミミューもどこかまんざらじゃなさそうに笑った。
「警察官ってプレイする時も裸で敬礼とかさせられんのかな? コビー、コビー!」
「……コビーは海軍だよ」
「裸で敬礼ってそれはAVに影響されすぎだろ」
ミミューと有沢からの同時突っ込みに創介が悪びれた様子もなくハッハッハと笑う。ミミューがやれやれ、といった具合に肩をすくめて笑い、それからその電話に応じるのだった。
「もしもし、どうしたの? なぁにー、まさか寂しくなったの〜?」
ちょっと茶化すように電話に出ると、返って来たのは求めていたような反応とは大きく違っていた。
『――ぁ、み、ミュー』
「……? ガイ……?」
ミミューが思わずブレーキを踏んだ。
「ど、どうしたの? 何があったの……?」
思わず身を乗り出すようにしながら、ミミューはスマホの通話口に顔を近づけた。
『気を――つけろ、確信は持てないが……狙われて――』
「? な、何……何なの? どういう意味なの、意味わかんないんだけど……それより何があったの、ね、ねぇ」
電話の向こうが騒がしくなったかと思うと、すぐに声がした。だがそれはガイのものではなかった。
『……もしもし!? ひょっとして身内の方でしょうか?』
声質から察するに恐らく中年ぐらいの男か……ひどく焦ったような調子で響いて来た。
「へ? あ、い、いや恋人ですが」
『恋人……!?』
不審そうな声が返ってきたが、一刻の猶予も争えない。ミミューがすぐに質問を投げかけた。
「い、一体……ガイはどうしたんですか……まさかゾンビに?」
『いや、そうではないのですが』
よくよくその声を聞いていると、覚えがあることに気がついた。自分が脳震盪を起こした時に処置してくれた隊員のものだろう。
『何者かによって右太腿を……拳銃で至近距離から発砲されています。意識もしっかりしていますし、弾はもう抜けているのですが――』
ミミューはもう、沈黙するしかなかった。黙ったまま、言葉の続きを待った。
『傷口を雨の中で放っておかれていたのもあってか出血量が多く……、――我々も手は尽くしますが物資の手に入りにくいこの状況ですから、万が一という場合の為にも御理解頂けるようにと……』
「――嘘だ」
無意識のうちに呟いていた。再び、電話口がやかましくなるのが聞こえた。
『あ、ちょ、な、何するんですか!』
そこだけやけにはっきりと聞き取れた。打ちひしがれた様に静止したままのミミューの耳元へ、もう一度声がした。
『ミミュー!』
おっそろしいほどピンピンしたガイの声がして思わずミミューも今度は別の意味で驚愕した。
『立ち止まるなよ、ほら。俺はこの通り喋れるし動いてるんだ。な? 平気だろ?――だから……っだから』
『ちょ、ちょ、ちょっとあなた! ただでさえ血が足りないのに動かないで下さいよ!』
『だから行け、行、くんだよミミュー……っ』
「ガイ……」
『それ、と……気、をつけろ。ルーシー・サルバトーレ――だ』
その言葉にミミューの目が見開かれた。
『お前か……もしくはミミューの、仲間の命を――』
「な、に……? 何だって」
その言葉にはきっと続きがあった筈だ。それなのに、そこで途切れてしまって、聞きとる事は叶わなかった。
「もし……もし? ガイ? ねえ、ガイ? ガイったら……ねえ! 返事して――
『あまりにもアグレッシブなので、ちょっと寝てもらいました。――大丈夫ですよ、麻酔です』
興奮する自分の声とはまるで正反対の、冷静沈着な隊員の声がした。電話が切れてから、ミミューはぐったりとシートへと崩れ落ちた。
「――神父? あの……ガイ、さんは?」
セラが不安そうに覗きこむが、ミミューには答えようもない。
「……分からない。ただ――」
そして、込み上げるのはもう一つの不安であった。ガイが眠り際に吐いた、不穏なその言葉を……ミミューはもう一度脳内で再生させた。
――ルーシー・サルバトーレ……だって?
ミミューは戦慄し、唾を飲んだ。
コビーはワンピのね。
しかしコビーイケメンになっててワロタ。
骨格ごと変わってるじゃねえかwww
どんだけ伸びしろのある顔立ちだよ!