29-4.テイルオブトーチャー(拷問の話)
30-4.テイルオブトーチャー(拷問の話)
ルーシーは手にしていた拳銃を一度見つめた後、まるで興味のない玩具でも捨てるみたいにして横手にそれを放り投げた。左脚を抱える様にしてその場に悶えるガイの前に、ルーシーがまたゆっくり腰を降ろした。
「ねえ〜、教えてくださいよ。どうなんです? ここで一体誰と話していたんですか? その人はここからどこに向かったのでしょうか?」
「あぐぅ、あっ……あ、ああああぁッ……」
ガイは左脚を庇うように持ち、のたうっていた。力無く呻きながらガイはくぐもった悲鳴を何度も洩らした。
「……もう一度聞くよ?」
子どもっぽい口調になったかと思うとルーシーはそのまま続けた。
「ここで誰と話してたの? そして、その人は今どこへ行ったの? 教えてよ」
子どものような口調はそのままに、ルーシーが再度の問いかけをする。ガイは苦悶の表情を浮かべたままようやく言った。
「……れ、が」
「はい?」
「だ、れが……誰が言うか――くそっ!」
一瞬の沈黙があった後、ルーシーは人差し指を持ち上げた。その指が一体どこへ向かうのかと、冷静に観察していた矢先だった。筆舌に尽くし難いその激痛がやってきたのは。
今度こそは、痛みによる本物の絶叫が漏れていた。弾丸の通過したその傷口にルーシーの人差し指が深く深くに突き刺さっていた。ルーシーは傷口を抉るようにその突きさした指を何度も何度も何度も上下に動かした。
「う、う……あ、あ゛ぁっ……ひぐっ」
「――答えろよ。いつまでも僕がへらへらと笑ってばかりだと思うか? もうこれは単なる質問じゃないんだ、いわば拷問ってヤツなんだよ。なぁ、おい」
ルーシーが指先を銃創から指を引っこ抜いた。ガイは浅い断片的な呼吸を何度も繰り返しながら、何事か喚いている。
「ねぇ、お兄さん。教えてよ」
ルーシーの声がまた、穏やかなそれに切り替わった。だが、断じて目は笑っていなかった。耳元で囁くようにしながらルーシーは続けた。その声が耳元を通り抜けるのがこそばゆく、不思議な心地がした。
ルーシーがガイの頬にそっと手を添えながら、その手を撫でまわした。それは驚くほど優しい手付きでこんな時であるのにも関わらず安堵しそうなほど優しいものに感じられた。
「教えてくれたらすぐに応急処置して、このまま病院に連れて行ってあげる。大丈夫、僕は嘘はつかないよ」
「――、そったれ」
噛み締めた唇から零れたその言葉にルーシーの動きが止まった。
「……聞こえ、なかったか? 糞ったれ、だ……」
ガイが吐き捨てる様に言うと、ルーシーは一瞬にして表情を曇らせた。
「誰、がお前みたいな……お前みたいな異常者に手なんか貸すか――糞、食らえっ……」
何故か自分でも信じられないほど憤っていた。
元々、この男……ルーシーがやってきた行いの数々を知っていただけにそんな風に言ってしまったのかもしれなかったし、もしかしたらそれ以外の思いが何かあったのかもしれないが、とにかく。
それまで、とりあえず笑みの形を作り続けてはいたルーシーだったが……完全にその顔には笑顔の「え」の字さえ、見当たらなかった。
再び、銃創が悲鳴を上げた。
「口のきき方に気をつけろよ!――この俗物がッ!」
引っ掻き回されるようなその痛みは想像を絶するものだろう。
中身が全部抉り出されそうなほどの痛みが、その小さな傷口から迸った。元々、男の方が女より痛みに弱く作られているのだ……と、まあそんな蘊蓄は今はどうだっていい、ただ――ガイの意識はもうそこで途切れていた。
「ありゃっ」
ルーシーは悲鳴を上げなくなった彼を見て、一瞬死んだものだと思ったが……失神しているのだろう。ご丁寧に失禁までしているがこの雨ならそれも分かるまい。
「あらら。頭に血が上ると、僕ったらすぐこれだ。あーあ……」
残念そうに言いながら自分の頭を軽く小突いて、ルーシーはゆっくりとその腰を上げた。
「可哀想だから救急車くらいは呼んでおいてあげましょうかね。前に救急車たくさん止まっていた事ですし。……それにしても――うーん、透子ちゃんは一体どこへ向かっているのでしょうか……そのまま目的地に変更は無しということでいいのかな……っと」
独り言を呟きながらルーシーは横たわるガイを横目でちら、と見つめただけでその場を後にした。相変わらず雨は激しく降り注いでいた、雨曝しになったままのその銃創からは絶え間なく血液が流れ出ていた。
い゛で゛ぇ゛え゛よ゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛