中盤戦


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29-3.テイルオブトーチャー(拷問の話)



間合いの取り方といい、その蹴りの強さといい、完璧な型のフォームといい……間違いなく、格闘技全般における黒帯レベルの実力は持っている。心得、なんていうレベルじゃない。

「――くそっ!」

 ガイが叫びながら立ち上がった。背の高さにしても身体付きにしても、ガイのほうが勝っているのは誰の目から見ても明らかであったし――ガイ自身も心の隅、そう思ってどこか見くびっていたのかもしれない。怒涛の攻撃を受けてようやく、その驕りに気付かされた。こいつは――……自分が思っている以上に遙かに手に負えない相手だと。

「あらま。まだやる気ですか?」

 当然息一つとして乱してはいないルーシーの、小馬鹿にするかのような声がした。ガイは無言のままもう一度、立ち上がった。構えた。

 ガイが、構え一つとして取っていないルーシーのふところめがけて飛び込んだ。すかさずルーシーのカウンターが入るかと思いきや、ガイはこれを見事にかわして見せた。これにはルーシーも意表を突かれたのか、僅かに驚いたようであった。勿論、それも『ふり』なのかもしれないのだが。

 続けざまにガイが肘打ちを当てた。顎めがけてそれは綺麗に命中したといっても過言ではなかった。

 実際、手ごたえはあった。

 パン、と小気味良い音が炸裂してルーシーの身体がのけぞった。足元がふらついているのが見え、これは恐らく綺麗に入ったのだと誰もが思うだろう。ガイもそう思った。このままルーシーは気でも失って倒れてくれるのだろう――と。

 だが、そうではなかった。

 ルーシーは只よろめいた風に見せただけでまたすぐに元通りの立ち方に戻ったかと思うと、笑っていた。

 双方、雨ざらしのままだったがそんな事は問題じゃなかった。ルーシーはぶつけた衝撃で口を切ったのだろう、唇の端から流血していた。

「……いってぇな〜〜〜」

 ルーシーが、アルカイックスマイルを浮かべつつ言った。

「っ……」

 思わず背筋がぞっとした。戦慄するその一瞬を突いて、ルーシーのアッパーカットのお返しが入った。腰の入った重いその衝撃は、それこそガイが今しがた相手に食らわせたものとほぼ同等あるいはその上をいくものだった。

 声すら出す事もなく、ガイはその場に崩れ落ちた。

「はっ……あ、ぁ……ッ」

 涙で膜の張られた視界をさまよい、ガイはその端に拳銃を捉えた。先程ルーシーによって蹴り飛ばされたものだ。

「く、――っ」

 何とか手を伸ばそうとするが、揺らぐ視界ではそれもままならない。正反対に、ルーシーはいともあっさりとその拳銃を拾い上げていた。

「っ、か、返……」

 ルーシーはガイを横目にリボルバーのシリンダー部をしげしげと覗きこんでいる。

「――さーて」

 言いながらルーシーはガイの傍にまでやって来て腰を降ろした。水滴を滴らせながらルーシーは妖艶に微笑んだ。

「手を出したのはそっちなんですからね。僕は知りませんよ」

 言いながらルーシーはガイの下顎を掴んで持ち上げた。半開きになったままのその口にリボルバーを強引にねじこむ。

「あぐっ……」
 
 ルーシーは、リボルバーのハンマーを起こした。回転式の弾倉が回転する。

「生憎、射撃には自信がありませんのでねえ。いっつも馬鹿にされるんですよ、酷い話ですよね。――嫌いなんです、拳銃の音。ビックリするでしょ、あれ? 心臓に悪くて……まあこの距離なら僕でも当てられるでしょうし」

 それからルーシーが「ね?」と小首を傾げて笑った。

 しばらくガイは怯えた目をしていたが……やがてすぐに、上目遣い気味にルーシーを睨み据えて来た。言葉は発せないみたいだが何を思っているのか大体目を見れば分かった。殺すなら殺せばいい、そんなところか。

 ルーシーは何か一人で納得してみせ、ほぼ喉の奥にまで突っ込まれていたリボルバーを引き抜いた。

「げほっ……、げほ、――は、ぁ……」

 ガイがその場に激しく咽込むのも無視し、ルーシーはガイの脚めがけて照準を当てた。片手持ちのままで、何のためらいもなくその引き金を絞る。

「ッ……ぁああ!?」

 それは痛みからくる悲鳴というよりは、驚愕の悲鳴みたいであった。ガイは被弾した脚、ちょうど血の滲む左の太股を見つめながら叫んだ。雨とは違うその赤い液体が、じっとりと円状に広がっていく中でようやく痛みがあとからやってきた。




リア充が眼鏡をかけた人の事を「のび太くん」と例える率は異常



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