中盤戦


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29-2.テイルオブトーチャー(拷問の話)



本当に、微笑んでいた。少なくともガイのその返事に不愉快そうにしているわけではなさそうに見えていた。

「何故? 僕に言えないような事でもあるんですか?」

 ルーシーが言い切るかの直前、ガイはほとんど無意識のうちにその拳銃――ニューナンブ式のリボルバーを構えた。

「……おっとっと」

 小さく呟いてから、ルーシーが両手を小さく上げた。銃口を見て、驚いた風な顔をして見せた。

「これが俺から言える、最大の情報だ」

 やはり自分の口元が、ひきつるかのように震えていた。ルーシーが突き付けられた銃口とガイの顔を見比べ、微笑んだ。ほぼ同時に――その微笑みが消え失せた。

 瞬間、ルーシーの身体が左へ……ガイから見て、右に半身の姿勢を作っていた。腰のひねりからきっと蹴りが繰り出されるのは予想がついた、防御せねば……と頭では理解していた。にも関わらず。
 その予想を遙かに上回る早さで、ガイの拳銃を構えていた手に痛みが走った。次の瞬間には、自分の手の中にあった筈の拳銃はもう、無かった。

 ガイがすぐさま態勢を立て直すよりも早く、ルーシーは軸脚をそのままに半身姿勢からの後ろ廻し蹴りを側頭部めがけて叩きこんできた。ルーシーのマントが翻って、視界がその刹那に遮られる。

「ッ……」

 上段に叩きこまれる蹴りに対しては、なまじ身を引くよりも相手に対して突っ込んで行く方がダメージは少なかったりする……というよりは、相手の射程範囲から逸れる事が可能になる。

 ガイには剣道以外にも、ほんの少々、かじった程度の空手の経験があったゆえに(結局人の顔を殴るのが苦手で極端に伸びは悪かったのだが)そのくらいは造作なかった。両腕でそれをガードする。

 だが、防御したその腕にルーシーの蹴りが命中した瞬間ガイの顔が苦痛に歪む。

――何て蹴りの威力だ、畜生……

 両腕で受け止めたにも関わらずその一撃には相当な衝撃があった。ガイは上段ガードの姿勢のままで、痺れる両腕に何とか言う事をきかしルーシーの脚を跳ねのけた。

 同時に、二、三歩と後ろによろめいた。

「くっ……」

 ガイがガードしていた腕を降ろし、基本の構えの姿勢を作る。ルーシーは笑いながら、どういうつもりなのか拍手をしている。それからルーシーは片足でケンケンでもするみたいにその場で軽く飛び跳ねたのであった。

「はぁあ〜い、よぉおおおく出来ましたぁ。ここからどんどん痛くなりますよー」

 楽しそうに言いながらルーシーもまた、その片足飛びをやめると手刀で構えて来た。間合いをじりじりと取りながら、ガイはまた唾を飲んだ。

 ガイが慎重に間合いを測る隙すら与えずに、ルーシーの脚がまた上方へと振りだされる。高さから言って上段蹴りかもしくは踵落としか――、ガイはこれを難なくかわそうとした、が。その軌道が、大きく逸れた。円を描くようにしながら落ちて来るその変則的な衝撃に、ガイは大きくぐらついた。

――何だ、今のは!?

 思考する間もなく、今度はガラあきになったその腹めがけて今度は前蹴りが叩きこまれた。悲鳴を出す間もなく、ガイの身体が後ろに倒された。金網に、背中が思い切りぶつかった。

「ぐっ……ゴホッ」

――い、今の技は……

 こんな時になって、ガイの頭に思い浮かぶのはミミューと一緒に見ていたK−1の観戦中継だ。自分と違ってミミューはそんな番組が大好きだったので……まぁ、今はどうだっていいだろう。ブラジリアンキックとか言われる技だ、とそのぐらつく思考がようやくのように導き出す。隣でご丁寧に、ミミューが解説してくれていた場面まで思い出した。只、前に出されるハイキックとは違い軌道が大きく変化する高度な技だ――空手の黒帯の有段者の世界でも、これを綺麗に決められる者はそこまで多くはないという。




下段(足元)に蹴りがきた! と思ったら
まさかのフェイントで急に上に来る。
軌道がさっぱり見えない。
まあそんな蹴り技です。カコイイぜ。
グラウベ・フェイトーザとかの蹴り見ると惚れる。
股関節が相当柔らかくないと
この蹴りは出来ないぜ。
だから子どもは変則蹴りが上手な子いるよね。
股関節の緩い隊長(意味深)



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