中盤戦


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27-1.なお、雨天決行につき



 煙草の煙を見つめながら、ナンシーは膝を組み換えた。

「……ええ。まあ、ちょっとした事があって遠回りしたの」
『ふーん。そっか。でも無事なんだね』
「まあ」

 煙草の灰を落としながら、ナンシーはふっと煙を吐いた。会話の相手は勿論ルーシーなのだが……、状況を淡々と報告しながらナンシーはまた煙草を咥える。

「それで次はどこへ向かうようにすればいいのですか? ルート変更は無しで?」
『んー、そうだねぇ。まさかそんなに道が逸れるとも思わなかったしな。でもまあ君達のすぐ近くにいるのには変わりは無いしあまり移動しないでくれれば……』

 ナンシーははっとそこで顔を上げた。

「誰っ……」

 通信機を隠しながらナンシーが振り返った。腰に手を当ててこちらをまるで威圧するように見つめるのは、……雛木だった。

『もしもし? 透子ちゃん? もしもーし……』

 雛木はつかつかとやってくるとナンシーを見下ろしている。

「――何」

 ナンシーが睨み付けるかのように雛木を見上げ返した。雛木はふん、と鼻先をならしてからナンシーが手にしたままの通信機を思い切り蹴り上げた。

「きゃ……」

 通信機が思い切り吹き飛ぶと、壁にぶつかった。跳ねかえり、更に吹っ飛んだ。

 雨ざらしの下に放り出されたのもあってか、通信機は情けない電子音を残して応答しなくなってしまった。

「なっ……」

 何するのよ、と叫びたかったがそれより早く雛木の片脚がすぐ眼前にまで来てぴたりと止まった。

 寸止め、だった。瞬間、ガードではなくて逃げ腰になっているのに気がついた……ナンシーはへなへなとその場に崩れ落ちた。

「何か知らないけどさ」

 雛木がその脚を降ろしながら呟いた。

「せっかく事態がまとまりかけてんのに、面倒な事すんの止めなよ」
「――っ……」

 きっとナンシーが視線を持ち上げた。

「ま、僕が何か言ったところでだーれも僕の事なんか信用してくれないしね。告げ口はしないけどさ。ここはお互い様ってことで」
「な……によ」
「あんたの正体が何だって僕はどうだっていいけどね。引っ掻き回すのだけは止めてよね、って話」

 そこまで言って雛木はくるっと背を向けた。ナンシーはその場にぺたんと座りこんだまま――、傍らに転がるその通信機をちらっと見た。

 大粒の雨に叩かれたそれは、きっともう使い物にはならないのだろう。ナンシーは唇を噛み締めた。



「透子ちゃん。透子ちゃん? おーい」

 持ち手までもが真っ黒な、黒一色のその傘をさしたままでルーシーは通信機片手に何度も透子の名を呼んだ。

「おかしいなァ。故障かな?」
「どしたよ」

 ミツヒロがひょいと顔を覗かせた。

「うーん……何だか透子ちゃんとの連絡が突然のように途絶えてしまって」
「……マジで……」

 くるっとルーシーが振り返った。

「今の透子ちゃんとの連絡場所はどこだと記録されてます?」

 車に乗り込みながらルーシーがミツヒロに問い掛けた。ミツヒロはガムを噛みながら運転座席についたナビのパネルをいじくった。

「えーと……、ここ。児童施設のとこだな。しかし火事があったとかでちと渋滞してるぞ」
「構いません、向かいましょう」
「――へいへい」

 いつものことながらミツヒロの返事は面倒くさそうである。


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