25-2.優しい悲劇
何となく声をかけるのは躊躇われて、創介はその光景をただ見つめるだけにしておいた。
「――はい……え、ええ」
隊員達が何やら騒々しくなり始めたので皆も何事かと思い耳を傾けてみる。
「いや、人為的なものかは分からないのですが……ええ」
「警察の方々が今こちらへ向かっているみたいですね」
別の隊員が、怪訝そうに眉をしかめる一同に教えるように呟いた。それでああ、と皆納得したようである。
「おせえよ、ったくよ〜……」
創介がふぅーっとため息交じりに腰を降ろした。
「……ま、仕方ないんじゃね。この状況じゃあな……」
凛太郎が珍しくフォローのような言葉を付け足してくる。ふと、突然のようにそれまで眠っていた筈のミミューがむっくりと起き上がった。本当に突然だった。
「!?」
当然、みんな目を丸くしている。
「し、神父! もう起きても平気なのか?」
創介が尋ねるがミミューはそれを聞いているのかいないのか、帽子とマスクを手に取ると慌ててそれを装着し始めた。
「なな!? 何してんだよっ」
「――今警察が来るって言ったよね? ねッ!?」
「あ、ああ……そうだけど……」
ミミューはいつも通りのヒーローコスチュームになるとストレッチャーからすかさず降りた。降りたかと思うと勿論、その足でいずこかへ向かおうとするのだから当然みんなして止めに入る。
「ちょー、ちょっ……何してんの神父! いきなりのように! つーかどこ行く気だ!」
「あ、安静にしててください!」
「はははは、離してくれ! ぼぼっ・僕はここにいちゃいけない! 警察の人が去ったらまた教えてくれ!」
ミミューは必死な形相でもがき散らした。そんな道理の通らない理由でハイどーぞ、と行かせられるわけもないだろう。
創介を含めておよそ四人がかりで押さえ込まれるのだがミミューはそれを振り切った。
「どどっ、どいてくれっ!」
「うおおぉい!?」
ミミューはほとんど飛び跳ねるみたいにしてそこから逃れたかと思うと、開け放されたままの救急車から飛び降りてマラソンランナー顔負けのダッシュで駆け抜けて行った。
今しがた目覚めたばかりの怪我人(軽傷ではあるようだが)とは思えない程の機敏な動きである。
「な、なんぞ……」
創介が不可思議そうにその背中を視線で追った。
「……アレじゃない? 例の警察官の彼氏とやら」
雛木が敬礼、のポーズをやりながらジト目で答えると皆それで多少は合点がいったようだ。だが、何故逃げるのかまでは理由が分からずにやはり首をかしげるより他ないのである……。