21-2.孤独な僕の寂しい死
考えるより早く、その足が動いた。
ミミューの身体が前へ、伸ばした腕と共に躍り出た。同時に何かを叫んでいたかもしれない――が、もはやそんな事はどうでもよかった。
ミミューは少女の小柄なその身体を突き飛ばした。少女のうちの一人はそれで転ぶ事は無く立っていたがうち一人は勢いよく膝から転んだようだった。膝をすりむいたかもしれないが、大した問題ではないだろう。
今しがたミミューによって飛ばされなければ、きっともっと大きな問題に直面していたに違いない――そして当のミミューはというと、その棚の下にて昏倒しかけているのだからざまぁない。今にもその意識は途切れそうなのであった。
――あ、血だ……
ぶつけた頭部からつぅっと血が滴り落ちるのが分かった。歪む視界の中、少女達が二人叫んでいるのが見えた。
――何をやってるんだい、早く行くんだよ……
実際それは言葉として発せていたのか分からないが……その眩暈がするような痛みは、ミミューのそんな言葉の間にも急激に彼の意識を削り取っていく。少女達の悲鳴と、炎がごうごうと燃える音とが遠ざかっていくようだった。
まどろんだ視界の先、そこにいた少女の姿がぐにゃりと歪んで、モザイクでもかかったみたいに複雑な模様となって見えた。次第にそれが混ざりあって、全く別の形となったのをミミューは見た。
「……ぱぱ……」
実にたどたどしい、幼児語とでもいえばいいのか……あどけないその声がしたかと思うと、そこにいたのは自分がこの手で――ミミューはそれで何だか、ああ、と思った。
血の繋がりは無かった娘の、結花だった。
結花が、何だか実体のないとでも言えばいいのかぼんやりとした姿でそこにいる。ただ少しだけ悲しそうな顔……というか。今しがた泣いたばかりの、涙の引いたあとの顔で結花はただじっと自分を見下ろしている。
――結花……
自分を、迎えに来たのだろうか? 幼い少女の姿をしたその死神に、不思議と恐怖は感じなかった。むしろ……贖罪の念で、もういっぱいだった。今すぐにでも、その手で自分を消して欲しいとさえ願った。
――当然だろうな、お前を殺したんだ、この僕は。……憎くて当然さ――殺したくて、仕方がないよな
それで何故か、ミミューはふっと少しばかり笑った。
――いいよ、結花。僕を連れて行け。お前の好きにしてくれていいんだ……
だが、結花は何もしなかった。
只すんすんと鼻をすすって、また今にも泣きださんばかりの顔だ。慰めてやらないと、とは思うのだがいかんせん身体の自由がきかない。言う事をきいてくれない……指先一つだって動いてくれないのだ、情けない話だ……。
――ガイ……
それで愛しい恋人の事を、思った。彼にもう一度だけ会って、抱きしめてほしかったけれど――声が聞けただけでももう良かった。生きている事を知っただけでも嬉しかった。……彼の事を思うだけで、ただそれだけで何の恐怖さえも感じなかった。
普段、神に祈りを捧げている時とほとんど変わりがないような安らかな気持ちのままミミューはもうほとんどまどろんでいたその瞼を閉じた。痛みと共に薄れゆく意識に、全てを預けていた。
神父が〜! 神父が〜!!