中盤戦


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02-3.クイック・アンド・デッド



 ヒロシもまりあも、もうそれで終わったものだとばかり思っていたのだがほぼ二人同時にその異変を察知したらしい。足を止めるとお互い周囲を見渡しつつ、注意を払いながら目配せをしあうのであった。

「……兄上。そこそこに、いますね?」
「ああ。厄介そうだな」

 危惧していた事態の発生という事だ。自然と握り拳に力がこもり、ヒロシは背後を振り返る。まあ、そのまま死なれてしまうのも後味が悪いというものだ。

「おい。そこで伸びている奴を連れてとっとと逃げた方がいいみたいですよ」
「……、は、はぁ?」

 ボーゼンと立ち尽くす少年軍団からの視線を一斉に受けて、ヒロシは次は少しばかり強めの口調で言った。

「だからすぐこの場から離れた方がいいです、というそのまんまの意味ですよ。死にもの狂いで走った方がいいですよ」
「さっきから何言っ……」

 焦らすようなその言い方に痺れを切らしたように、一人がずいっと前に躍り出る。しかしヒロシは片手ですかさずそれを制した。途端、ガラスの割れる音によって会話が中断させられる。ついでに、ガラス片が足元に散らばっていた。

 あと一歩前に踏み込んでいたら……もしかしたら自分はこうやって生きていなかったかもしれない。ヒロシと、自分を挟んだちょうど真ん中にパトカーが突っ切っている。パトカーはすぐ隣に立ち並んでいたショッピングモールを突き破る形でここにいるのだが、一体何をどうやったらこんな事になる。

 サイレンが鳴り響いたままのパトカーは無人で、運転手は暴走中に外へ吹っ飛ばされたものだと推測されるが――ガラス張りの扉の向こうの、更にその向こうのガラス戸から突っ込んできたのだろうが何故そんな無茶苦茶な事になるのだか。考えをまとめるよりも早く、サイレンの回りっぱなしのパトカー、その向こうの景色から真っ赤に染まった両目をギラつかせる影が数体も覗きこんだ。

 獲物を狙う獰猛な猛禽類のような目つきが、いくつもそこにはあった。一年ぶりの対面だが……これがまた久しぶりだと結構ゾっとするものだ。


 ヒロシは恐ろしいやら懐かしいやら――それでいて、自分の身体があの時の感覚を取り戻し始めるのを嬉しく思いもした。勿論それは不適切な感情ではあるのだろうが、只闇雲に日々を送っているよりは限りなく生きている事に執着できるのだから。恐らく、自分にとってこういう血で血を洗うような生き様が合っているという事実なんであろう。

「兄上! はいっ」

 まりあが銃を一つ投げた。愛用のジェリコ941だ。あれからフルカスタマイズしたためか、握り締めた時に少しばかりの違和感と、変わらないずっしりとした重みとが同時に伝わってきた。

「ヒェッ……」

 少年のうちの一人が拳銃を見るなり詰まったような悲鳴を洩らしたが、構わなかった。

「もういっちょー」

 そう言ってまりあは愛銃その二、コルト・ガバメントを投げた。こちらも改造を施してあるゆえ、ちょっとばかし手にしっくりと来ない気もしたが……まあ、ともかくとして。

 ヒロシは二丁拳銃の銃把とグリップとをしかと握り締めたまま、その手の中でくるんと回して見せた。左右の手の中、銃口を上に向けた姿勢で構えた。

「きゃあああ〜〜〜! あ・に・う・えー!」

 まりあがその場にふさわしくない黄色い歓声を上げるが、それまでポカン顔だった悪ガキはもう何に驚いていいのかよく分かってもいないようだった。慌ててまりあの元へと近寄ってくると服の裾を引っ張りながら問い掛ける。

「あ、あれ本物!? 本物なの、ねえ!?」
「うっさいなー、そうだけど。ていうかアンタもう出番おしまい。死にたくなきゃさっさとどっか行きなよ」

 極めて冷たく言い、シッシとまりあは犬猫や畜生にそうするように邪険に彼らを追い払うような仕草を見せたのであった。

 それからまりあは、その派手にデコられたキャリーケースへと手を伸ばした。例のチェーンソーでも取り出すのかと思いきやそこから抜き出されたのは今度こそは魔法のステッキと思しきキラキラに光る杖が二本……?

 ピンク色っぽい塗装と大きなジュエリーのハート、キラキラの宝石の装飾が輝かしいその二本の棒の下には、それぞれ短い鎖で結ばれており――あろうことかそれはヌンチャクなのであった、と判明する。



修正前はチェーンソーでしたが
今回は何とヌンチャクバトル!
チェーンソーは一作目でやったので
よくよく考えたらまだ手の出していない武器を
持たせてみようと思いヌンチャクに。



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