09-1.スイート・デス計画
「へっへっへ。一件送信完了……っと」
パソコンのEnterキーを軽い調子で叩きながら、男がニンマリと笑った。
「どうだよ〜マサやん? 今日もアホ釣り上手くいってるか?」
「おうおう、馬鹿がたくさん釣れる釣れるゥ〜。ヒヒヒ。ったくどいつもこいつもアホばっかりだなあ、ゾンビ化の進行を抑える薬……そんなモンが開発されたらテレビでもっと報道されるっちゅーねん!」
たちまち、ゲラゲラと笑い声。その横でまた別の男が、薬局で安く仕入れて来たうがい薬のラベルを剥がし始めた。あとは、これと別のものを混ぜてケースに移し替えるだけでいい――この偽物の薬のネット販売を始めたのは、つい二日ほど前だ。……にも関わらずもう早何百万も稼ぐ事に成功している。初めはここまで上手くいくとも思っていなかったのだが、案外騙される人間がいるのには驚いた。これはもう、ゾンビさまさまだった。
自分たちは高層マンションの最上階に住んでいる為にゾンビたちに襲われる被害も比較的低く、この辺りは封鎖区間や見周りが多いためかゾンビ被害も圧倒的に少ない場所だった。最高である、食糧の蓄えもバッチリであったし、もう言う事無しだった。
「あんた〜、本当よくやってくれるわー。惚れ直しちゃうわー。初めはそんなガキみたいな手口で上手くいくとも思えなかったけど」
「ほんとっすよ、俺が女だったら抱かれたいッス」
「うへへぇ、だろ、だろォ?……まあ、これが案外スンナリといっちゃうからな〜。さーて、もうちょっとしたらクスリでも決めるか。混ぜ物なしのがあんだよ」
「マジっすか! 俺も試させて下さいよゥ。こんなん現実逃避しなきゃやってらんないっすわ〜」
「も〜、ほどほどにしなねェ。ラリったアンタ達、ほんと好き勝手すんだから」
元々はこの夫婦が住まう一室なのだが、ドラッグやら乱交パーティーを仲間達と開くうちにみんな勝手に転がり込んできたらしい。
それはそれはいつも大変に賑やかな部屋で、近隣の住民は迷惑しているんだとか何だとか。まあそんなこと、彼らにとっては知った事じゃなかった。
「ウッヒョオオオ〜〜〜ッ! 純正はぁ、やっぱサイコーだぜっ! アヒャー、今なら何かこう、ビーム出せそう!」
「あ、あんにゃろう勝手に吸ってやがる。トリップすんの早すぎだし」
仲間のうちの一人が奇声を上げて騒ぎ出した。ゴミ袋の乗っかったソファーの上に飛び乗ると、トランポリンみたにしてびょんびょんと飛び跳ね始めた。
「あんま騒ぐなってーの、あのくそうるせえ管理人に次クレーム入ったら強制退去とか言われてんだって。ったくよー、家賃収めてるのにうるせえよな〜」
「まあまあアンタ。苛立ったってしょうがないわよ。ていうか今はこんな状況だしそんな事いちいち言いにも来ないって、ていうか今頃襲われて死んでるかも。ぎゃはっ」
そう言って女が煙草に火を付けようとしたが、ライターのオイルがほとんど空に近く中々灯らない。苛立って舌打ちと共にライターを横手に放り投げてしまった。
「チッ、つっかぇねえな!……そろそろまたコンビニ行って色々盗んでくっか。ライターと、あと煙草ワンカートンほど――」
「ママァ……」
「あ?」
寝室からとぼとぼと出て来たのは、随分とよれよれくたくたの、薄汚れたパジャマを着た少年だった。まだ小学生になったばかりか……その歳ごろの少年と比べると、随分と小柄な少年は母親に縋るような視線を向ける。
「――チッ」
母親はこれ見よがしに、先ほどのよりももっと大きく不機嫌そうな舌打ちをした。睨みをきかせて、これ以上近づいてくるんじゃないよ、と無言で牽制しているかのようであった。こんな扱いを受けているのにも関わらず、少年は彼女をまだ母親だと認識している――例えどんなに手酷い事をされても、少年にとっては只一人の母親なのだから……まったくもって、惨い話である。
子どもは親を、選べない。
「ンだよ、寝てろよ。うぜぇ」
「……お腹すいた……」
「さっきパンやったろーが、それ食べてろ」
しっし、と女が剥がれかかったマニキュアのついた指先で少年をあしらう。
「もう食べちゃった……」
「うるせーな、後でやるから寝てろ。仕事の邪魔すんじゃねってのクソガキ」
母親に代わり、少年を怒鳴りつけたのは父親(が、本当の父ではない)の方だった。
女房と肩を組みながら、男は今にも泣きそうな少年目がけて威圧するような視線をぶつけた。
リングのあの貞子の怖い目のアップ、
スタッフの目らしいけどまつ毛全部
引っこ抜いたという逸話があるねw
やっぱり名作になるホラーって製作者が
一番ホラーだと思うわ。
シャイニングの、あのやつれた奥さんの
マジに発狂しかけた演技も監督がわざと
NGを百回以上出して何度も何度も同じ演技させた
ものによる賜物らしいし
エクソシストも監督が役者のびびる表情とるために
突然ショットガン発砲するとか
ちょっとキチ入ってるくらいの執念深さだ。