中盤戦


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08-3.無神論者のためのセレナータ



 ミミューは頭痛と吐き気とが交互に襲ってくるのを何とか堪えてその足で立って支える。

「余計なお世話かもしれないのですが、これからどこに?」

 ミミューが男性に尋ねると男性はちょっとだけ悲しそうに笑った。云った。

「ひとまずは実家に戻る事にします……、無事だというのは確認が取れたので。こうなったら少しでも、親孝行してあげようと思います――せめて残された家族には、幸せになってもらいたいものです」




 
 紫煙が一筋、空に向かって立ち昇った。こうしていると世界の状況など忘れてしまいそうな程で、ナンシーはそれを少々鬱陶しそうに手で払い、そしてもう一度煙草を咥えた。

「――もしもし」

 周囲に誰もいない事を確認し、ナンシーは携帯型に偽装させた通信機を耳元に当てた。

『もしもし。そちらはご無事ですか?』
「ええ……、何ら問題無く」

 ナンシーはふっと煙を吐き出した。いつでも能天気というか……全く緊張感が無い。そのあまりのマイペースさには却って安心させられるくらいであった。――ルーシーの声を聞きながらナンシーは毎度の如くそう思っているのだった。

「けど……、道が封鎖されているせいでもしかしたら遠回りしてしまうかもしれません」
『なるほど。だったらこれから僕が伝える道筋を教えてやってくれるかな』

 ナンシーが煙草をもう一度咥えた。その煙を目いっぱいに吸い込んでから、吐いた。

「――分かりました」
『じゃ、君の通信機の方にいつもみたいに地図送るから。上手〜く誘導してあげてくださいね』

 これにも彼女は従順に――極めて淡々と「わかりました」、と返事する。

『……。何だか、ちょっと見ないうちにすっかり仕事人間になったようですね。この稼業をこなしていく上では実に好ましい事ですが僕としては少し寂しくもありますね、透子ちゃん』

 ルーシーの、少し残念そうなその言葉と共に吐かれた、久しく呼ばれる事の無かった自分の本当の名前――そうだ、「透子」というのだった。本当のわたしは。

――けれど今はそうじゃない。か弱かった、守られるばかりのあの頃の<透子>ではない。自らの手で戦い、時には相手を殺すことだって厭わない……そう、決めた。

『無事に恋人が見つけられるといいですね』
「もう隊長……、からかわないでください――ユウとはそんな関係じゃありませんったら」

 いけないとは思いつつもそこはしっかりと、半ば感情的になったみたいに否定してしまった。だって本当にそうなのだから、ハッキリさせておく必要があるだろう。

「ナンシーちゃん?」
「……すいません、また後で」

 そう言って一方的に電話を切って、透子――いや、すでにナンシーとしての顔つきに戻った彼女はさっと振り返った。

「あ、いたいた。って、エ!?……たたたたたた、煙草っ?」

 創介が驚いてその指と指との間に挟む格好で持たれた煙草に目を丸くした。

「……、そうよ。なに、吸ってちゃ悪い?」

 悪びれる様子も無く、ナンシーは薄くグロスの引かれたその唇に煙草を咥えた。

「い、いや意外だなぁ〜っていうね……う、うん」
「このくらいの娯楽はあったっていいでしょ?」
「ま、まあいいけど……」

 創介としては女の子は喫煙して欲しくないという思いがあるのだが、まあそれをやるなと強制する権利は無い。創介はどこか腑に落ちないような顔をしながらも戻っていく。

 ナンシーは少し前を歩いて行く創介の後姿を見つめながら、その懐かしい人物……ユウの事を思い出していた。

 どこか似ているその姿を重ね合わせながら(実際顔立ちや性格なんかはまったく正反対なのだけれど。背の丈にしたって、ユウの方が低かったし……まあともかくとして)、今も忘れる事は決してない彼との記憶の断片を思い返す。

――ねえ、ユウ。貴方は今……どこに、いるの?

 そしてその問いかけは只虚しく、宙を舞うだけであったが。





初見の人は驚いてくれたら
すっげえ嬉しいです。
スマホか携帯越しにびっくりしてくれた人は
多分すごくいい人です



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