中盤戦


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05-2.冬休みは永遠に



 春が来て、気づくと夏が終わり、秋が訪れたかと思えばもう冬の気配。今頃、教室のみんなは何をしているんだろう? とベッドの上でダイスケは考える。時間的に丁度給食の時間だろうか。今日のメニューは何だろう。カレーライスだろうか、麻婆豆腐だろうか、あの汁の全然ないラーメンだろうか……そんな風に考えながらちらっと壁時計を見た。

「あーあ。……もうすぐ冬休みの季節だなあ」

 そう呟いたのは同じ病室のマヒロ君だった。マヒロ君はダイスケよりも二つ上の、高学年の男の子だ。ダイスケよりも早く入院していて、年齢も近いのですぐに仲良くなった。

「たかが捻挫で、結局冬休みもここで過ごすのかぁ俺」

 マヒロ君は何らかの疾患があって、自由に脚を動かすことができない。必死にリハビリを続けているようだが、うまくいかずに看護師さんやお母さんに怒鳴っている姿を、ダイスケは知っているが知らないふりをしていた。

「来年には退院してぇなあ。もうすぐ中学だっていうのに」
「中学行ったら、何部に入るの?」
「……う〜ん。さぁな。決めてねえけど――俺、結構運動神経いいからさ。入院する前も色んな学校の奴らから声がかかってたんだぜ」
「ふーん、すごいなぁ」

 そう話すマヒロ君の顔はちょっぴり悲しそうで、時々だけど病院内を元気に駆け回る子どもの姿を見てはため息を漏らしたりしている事だって、ダイスケは知っていた。勿論、気づかないふりをしていたのだけど。

「正月だけは家で過ごしていいって。ダイスケもか?」
「うん。年末とお正月……、去年は紅白見て、お父さんが打ったお蕎麦を食べて、それからお兄ちゃんと妖怪ウォッチのゲームやりながら眠ったよ」
「次の日は?」
「お母さんのおせちを食べた。でも、おせちってあんまり美味しくないよね」
「言えてる。特別な日ならさ、ハンバーグとかステーキとか食べたいよな」

 そんな風に笑いあっていると、外で悲鳴が聞こえてきた。入院していると悲鳴は結構よくある事なので、二人ともそこまで動じない。が、その悲鳴が随分と長い事やまずに響き続けたので流石に不安になってきた。動けないマヒロに変わり、ダイスケがベッドから降りるとスリッパを履いた足でそっと見に行ってみる。

「……?」
「何かあったのか?」

 ダイスケが扉からそーっと覗き込めば、既に騒ぎによって祭り状態と化している廊下を目の当たりにしてしまった。

「ひぃいい! い、院内感染かー!?」
「か、感染した患者を隔離しろォ!!」

 ダイスケが慌てて扉を閉めたので、マヒロも当然のように穏やかではいられない。

「どうしたんだよ?」
「……、ま、マヒロ君。きっと……きっとあれゾンビだよ」

 一年前の悪夢は記憶に新しい。
 自分達のいる地域では見られなかったのでにわかには信じがたかったけど、本当にいたのだ! ダイスケは慌てて扉の前に積み荷を持ってきて封をするとベッドの上に駆け戻ってきた。それから布団を頭から被り、膝を抱えた。

「ゾンビって、あの人に襲い掛かる奴?」

 マヒロの問いかけにダイスケはこくこくと何度も頷いた。

「――マジかよ」

 一瞬、戸惑ったみたいだったが、マヒロはすぐさまベッドから降りようとした。が、勿論無理なので車椅子を持ってきてその上に座った。すぐに掃除用具入れにまで移動すると、マヒロはモップを取り出した。

「マヒロ君……?」
「おい、ゾンビ対策だ! 武器を作るぜ。自分の身を守るのは自分しかいないぞ、ダイスケ」
「ぶ、武器って――」
「大丈夫、俺は図工の成績はいつもA採点だ。特に工作は得意中の得意だし!」

 どこか誇らしげに宣言しつつ戻ってきたマヒロは、ベッドの下に手を伸ばすと何かを剥がした。どうもベッドの真下に何か貼り付けて隠してあったようだ、見れば子どもの手には中々余るナイフのようである。

「そ、それ……」
「お父さんからのお土産なんだ、カッケーだろ」
「そ、そんなもの持ち込んで! 冬田さんに怒られるよ!」
「後でたっぷり叱られてやるよ、そんなの!」

 ガムテープを引き出しから取り出して、モップの先にナイフをぐるぐると巻きつける。それからいつも常備してある殺虫スプレーを車椅子の手すりの部分にもガムテープでセットした。



ささ、殺虫スプレー!
殺虫スプレーでびびるゾンビとか萌キャラだな。
妖怪ハンターヒルコでジュリーが
キンチョールをクリーチャーにぶっかけて
退治しまくってるの面白かった。
虫扱いですか



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