08-1.愛なんてちょーつまんないです
「……こっちだ、亜里沙!」
世界各地で死者たちが動き回る異常事態、発生。
――ジョージ・A・ロメロによる『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』は実話だった!?
世間ではそんな風にセンセーショナルな煽り文句が飛び交ったりもした。
――これは愚かな人間達に神が下した最後の審判だ! 我々は選択を迫られている!
妙な宗教家たちがこぞってこの未曽有の大惨事に便乗する。心の弱った人々はそれらに縋りつく。
一度目の死者発生から間もない一年後、再びその悪夢は訪れた。
二度目の死者たちの夜明けだった。死者たちは生きた人間達の肉を求めて食らいつく。本能のままに齧りつく、そうせねばならんのだと義務付けられたかのように……。
「リューちゃんっ……あ、あたしもう駄目……」
「諦めるなよ、ほらっ!」
片方脱げたパンプスのことは、もうどうだってよかった。亜里沙は伝線だらけのストッキングのまま、何度かその地上を歩いた後よろよろと崩れ落ちた。恋人の隆祐が支えてくれなければこのまま汚い泥の中に顔ごと突っ込んでいただろう。
「亜里沙、しっかりするんだ」
「駄目……もう一歩だって……歩けない……」
「――なら、おぶってでも連れて行ってやる」
隆祐は自分のデニムの裾が汚れることなど構いなしに、地面に膝を突いた。
「……リューちゃん……」
「乗るんだ、早くしないとアイツらに追いつかれてしまう」
亜里沙は未だに自分が何か悪い夢の中にでもいるのではないかと思うのと同時に――恋人のその体温に、悪夢とは言い難い幸福を感じていた。
隆祐は亜里沙を背負うと、しっかりとその場から立ち上がった。
手にしているのは拾ったオートマチックの拳銃一丁のみであった、弾も今装填されている六発のみ……使いどころを弁えなくてはすぐにでもなくなってしまうだろう。
――ギリギリ、だろうか……?
次の避難所に辿りつくまでに持てばいいだけの話だった。ついさっき向かった避難所は、もう駄目だった。具体的に何がどう駄目だったかは――もう、話すのもうんざりするので各自で想像して欲しい。
「リューちゃん……私、何だか迷惑ばっかりかけてるね」
「何だよ……そんなのお互い様、だろ?」
隆祐がちょいとだけ振り返って小さく笑った。それでつられた様に、亜里沙もまたにこっと笑った。笑ったというよりは、笑うよりほかなかった感じだったけれども。
「昔から、こうやってよくお前の事おぶったな」
ぽつりと隆祐が呟くので亜里沙もちょっと懐かしくなった。
「――ふふ。そうだっけ? 昔は反対だった気がするなぁ。リューちゃん、泣き虫だったしな〜」
「えー? そうだったかぁ?」
何だか随分とおかしな色をした空を見上げながら、二人は遠い昔の事を思い起こしていた。
地雷の匂いがするぞ! この章は!