07-3.家族ってなに?
やり場の無い怒りと悲しみとが入り混じったような声色で、男性は少女の、まだ小さなその手を強く握り締めた。
「可哀想に、優衣……」
そんな彼の姿を、それまで黙って見つめていたセラだったが――やがて何を思ったのか、言った。
「……ゾンビになってまで生かしておくよりはずっとずっとマシだ」
恐ろしく温度の感じられない冷たい言い草に、男性は反論するよりまず絶句する。さすがの創介も、このセラの言葉に突っ込まずにはいられなくなった。セラへと振り返るのとほぼ同時に口が開いていた。
「――おい、セラ。言い方ってものを考えろよ。家族だったっていうのに!」
家族、の言葉にセラが僅かに反応を示す。が、それは目に見えぬほどのごくごく小さなもので、創介はそれには気付いていない。
「そんなもの、知った事じゃない。――それに」
言葉を切ってから、セラはオートマグをホルスターへと片付けようとする。銃身が熱を持っていてまだ熱かった。
「そんな感情、ハッキリ言って邪魔なだけだよ。くだらない」
今度はさっきのような冷たさは無く、代わりに半ばムキになっているような、何か感情的なものが見え隠れした。くだらない、と一蹴されて創介はカチンときたらしい。
「っ……おン前ッ!」
感情に身を任せて立ち上がった。セラは怯む事無く、睨み据える創介を見つめ返した。
「もうちょっと考えてもの言えよな! そーゆー子どもっぽいの良くねえぞ」
創介が叱りつけてもセラは悪びれる様子も見せない。それどころか、逆に食いかかってくるような勢いだ。
「……家族だから何だって言うんだよ? 可哀想な目には遭わせられない? 冗っ談、甘い事言わないでよ。そういう考えそのものがもう足手まといなんだよ。いい? 今は生きるか死ぬかの状況なんだよ、友達だ恋人だ言ってる場合じゃ」
益々、語調を強め始めたセラにブレーキをかけたのは創介の平手だった。ほぼ無意識のうちに手を出していたらしい。創介の手の平がパチン、と乾いた音を響かせていた。
驚いたのはセラだけではなくて打った創介自身も何故か驚き顔であった。
「あ……」
セラが頬を押さえながら、こちらを見つめ返した。その、丸い目が更に丸みを帯びて見開かれている。
「あ……、と、その、えっと、えぇっと……ですね……」
自分でやっておいて創介がわたわたと目に見えて焦り始めた。何か言う前にセラはふいっと顔を横に向けて走り出してしまった。
「え! あ、ちょ、おい」
「隙あり! オラァ!」
慌てふためく創介たちを掻い潜って、例のチンピラがまず逃げ出した。それに連なるように女の方も背後のナンシーめがけて後頭部でのヘッドバットを食らわせた。