「あーあ、今日も雨ですか。嫌になりますねぇ。」

独特な語尾を持つ男はあくびを一つしながらぼやく。
梅雨の季節など等に過ぎた筈だ。
最も、梅雨の後に来る夏も終わってしまったが。
年中降るから季節外れではないのだが、冬には不釣り合いな雨が窓の先で涙を流している。
冷たい涙が流れ落ち、空の悲鳴は地面に打ち落ちた。

「雨はいい。考える時間をくれますからね。けれども、長く続きすぎると商売あがったり。そろそろ泣き止んでもいいんですよ。」

誰かに話しかけるかのように話してはいるが、この空間には彼一人。
窓を撫でながら雨を見ている姿は絵になるのだが、少々・・・いやかなりの変わり者というところが彼の難点。
今もほら、声なきものに話しかけている。

「外の気温と中はやはり差が大きいですね。結露が出来てるや。」

ふと、窓を撫でていた手を見れば濡れている白くて細い繊細そうな手。
男性特有の骨ぼったさはあるが、あまりにも細くて綺麗なので女性の手と言っても相違はなさそうだ。
濡れていない方の長い指を唇へと滑らせれば撫でるようにして指を滑らせる。
薄く口を開き、歪ませる。
低俗な笑顔に近い、彼の顔立ちには似合わない微笑み方をした。

「お客さん来たぁ。」

そう彼が言う通り、窓の外には赤い傘が浮かび上がっていた。
白と灰色と茶色の殺風景な景色に鮮やかな赤。
ゆっくりとそれは近づいてくる。
耳を済ませば、ぱちぱちと軽快な音が弾んでいた。
しばらくその音へと耳を傾けたら、ふいに鳴る軽やかな鐘の音。

「いらっしゃいませ。」

背を向けていた扉の方へと振り向きながら、言えば怯えた形相の女性。
彼女の傍らには泣きはらした赤い傘。
優しげに少し微笑めば、安堵した様な瞳。
男はちょろいな、と内心薄ら笑みを浮かべた。





深夜と言ってもいい時間帯。
終電ぎりぎりなそんな時間帯にようやく家に帰ってきた女性。
疲れきった身体に鞭を打ち、ベットまで行く。
そして、重力に身を委ねた。
優しい手が女性を包み込む中、彼女は鼻を撫でる香りに気がついた。
ベットのすぐ横の電気スタンドには百合の鉢植え。
凛と咲き誇っている。

「あれ、なんで百合が・・・?」

触れた花弁はみずみずしい。
近くにいる筈なのに、百合特有の消毒液のような強い匂いが全くといっていいほどしない。
花の種類によっては香りが薄いのだが、それでもこれほど匂いがしないのも珍しい。
花屋さんで買った物ではないようだ。
花屋さんで買った花は何かしら装飾が施されている。
この花にはそういう物が一切ない。
匂いも、花の出所も気になったのだが女性は疲れている。
正常な判断など出来るはずもなく、睡魔に抗う気力もない。
そのまま、ベットへと沈んでいってしまった。


◯月◯日、某所。
女性の死体が発見されました。
女性は部屋のベットの上で眠るようにして死んでいたそうです。
外傷などはなく、ガス漏れとい事もありません。
現在、自殺の方面で捜査をしているもようです。



「百合の花で安らかな眠りを。・・・さて、依頼人に報酬を貰いにいきましょうかねぇ。」

テレビで流れるニュースを聞き流し、男は言う。
店には百合の花が凛々しく咲き乱れていた。
男は目を細め、低俗な笑みを作る。
もしかしたらこれがこの男の本性なのかもしれない。
傍らにある百合の花にキスを落とし、撫でた。



◯月△日、某所。
またしても女性の死体が発見されました。
前回の女性同様、ベットの上で眠るようにして死んでいたようです。
彼女も同じく自殺の方面で捜査をしているもようです。



謎の死を迎えた二人の女性。
世間は騒然とした。
しかし、この店の主人だけは薄ら笑いを浮かべて俗世を見物している。
高見の見物。
なんて悪趣味なのだろうか。
自分が関わっているのにも関わらず、深追いはしない。
言われた事をやり、あとはもう面白がるだけ。

「人を呪わば穴二つ・・・ってね。」

今日も彼は客を待つ。
どんな夢でも叶える夢売り。
報酬は人それぞれ。
美しい男主人が貴方を待っている。

「いらっしゃいませ。」

男は新しい客に向かって美しい微笑みを向けた。




夢売り




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