1


“荒野”・・・そう比喩するのが正しいかと錯覚してしまう程、荒れ廃れた“外”。
建物はあるが、寂れた雰囲気は隠せない。
今は夜。人が眠る時間。
昼間になれば、ここも賑やかになる。
人が活動を始める。
“中”ほど賑やかさや煌びやかさがなく、技術が進歩していないここは“灰色の外側”と呼ばれる。
首都と灰色の外側。
ビルが立ち並ぶ中と荒れている外。
同じ国なのに、ここまで大差があってしまう。
首都と外を隔て、大きな首都をぐるりと囲み、人こそいないものもコンピュータで制御されている難攻不落な壁。
その壁からしばらく歩けば一つ目の街。
一番人が多い、活気のあるところ。
人口が多いのもここだ。
外に行けば行くほど人は廃れ、治安が悪くなっている。
ジエン達、革命軍がいるのはそんな外の外。
外の端でないだけ、治安はまだいいのだがそれでも中心部に近い街と比べると治安の悪さは目立つ。
それに加え、街が整ってるとも言い難い。
そんな、最悪に近い条件で革命軍は暮らしていた。
大人数の人間が住まうそこは大きな必要がある。
大きな建物。
昔はホテルとして機能していた跡地。
世が開けると共に一人、また一人と起き始めた。

「ふぁー・・・。ねみぃ。」

携帯のけたたましい目覚まし時計機能の音が何度も鳴り、止み、鳴り、止みと繰り返し、そしてようやく起きる飛星。
炎のような髪があちらこちらにハネていた。
何回か髪を掻き毟り、また欠伸を一つ零す。
しばらくの間、焦点の合わない目で遠くを見つめていれば再びスムーズで流れ出す、音。

「うるせぇ・・・。」
「ヒボシ!アラーム五月蝿いぞ!」

鍵なんて掛けない飛星。
ドアが荒々しく開き、フードを深く被った少年が怒鳴った。
飛星の隣の部屋で寝泊まりをする、コダチ。
少し神経質なところがある彼は何時もこの爆音に悩まされていた。
足音なんて気にせず、飛星の隣までやってくると携帯を操作し音を止める。
そして、彼を思いっきり殴った。

「いってーー!」

殴られた頭を押さえ、叫ぶ。
ようやく目の焦点がコダチへと合う。
そこからは何時もの飛星。
決して怒ってるような声ではないが、口調はそれ。
タレ目な目元はツル上がる事を知らず、顔が表情が見えないコダチと対峙する。
ドアを開けたまま、しばらく言い合いをしていた。
飛星は起きるのが遅い。
彼が起きる時間はほとんどの人間が起きている時間だ。
言い争いの中、控えめにドアを叩く乾いた音が響いた。
それを二人が聞いているわけはない。
声が音を紡ぎ、聞こえ、ようやく気がついた。

「ヒボシ、コダチ、声が廊下まで響いている。あと、朝ごはん冷めてしまうよ。」

長い艶やかな黒髪が動作と共に揺れ、ジエンが部屋へと入ってくる。
男なら誰しも見惚れてしまうような美女。
それに加え普段の如何なる動作にも品があり、彼女が動くと目がいってしまう。
今回もそれと同じで、先ほどまで喧嘩をしていた二人はジエンへと釘付けになっていた。
彼女が側まで来た事によりコダチは我に返り、フードの裾を引っ張って深く被り直すと部屋から出て行ってしまった。
残されたのはベットにいる飛星と今さっき入ってきたジエン。
彼女も一度微笑むと急かす言葉を言い、ドアをしっかりと締めて出て行った。
出て行く直前、飛星に対して笑顔を残して。

「ん〜、起きるかぁー。」

欠伸を噛み潰し、ベットから出た。
そうしてようやく彼は身支度をしはじめるのだ。
飛星の部屋から出て行ったジエン。
廊下を出て直ぐにベニカゲと会った。
最も彼の場合、ジエンを待ち伏せしていたのだろう。
そんなベニカゲに驚く事もせず、髪を少し揺らした。
そうしてそのまま。
無口なベニカゲから言葉をかける事もなく、かといってジエンからかける言葉もない。
長年一緒にいて、無言も苦痛ではなくなった関係。
ジエンから言わせれば“家族”も同然だそうだ。
けれども、それをベニカゲは否定する。
自分と彼女とでは身分が違いすぎる。
それは紛れもない事実で、ここでは無意味な事。
彼が最も頑なに超えようとしない一線であり、ジエンが嫌うもの。
家族のようだと言いつつも、二人にはハッキリとした境界線があった。
それは本人たちにしか見えない。効果を成さない。
このまま廊下で立っていても時間を無駄に浪費してしまうだけ。

「行こうか。」

ジエンから声をかけ、長い髪を揺らせば後から影のように着いてくるベニカゲ。
一歩、必ず一歩後ろを歩く。
これが彼の癖というわけではない。
飛星たちと歩く時は隣か少し前を行く。
ジエンに対してのみ。ジエンがなんと言おうが変えない従者としての態度。
それを主が寂しく思っているなんて知りもせずに。

「ジエンさん、ヒボシさんは起きましたか?」

食堂として使われてる一室へと入れば、飛星を除いたメンバーが揃っていた。
朝食の時間だからだ。
ジエンに飛星を起こしてきてほしいと頼んだアヤメは朝食を作りながら問いかける。

「自分が起こしに行くより先にコダチが起こしていてくれたよ。」

ジエンが朝食に使うであろう皿を出し運んでいると背後から奪われた。
そして彼女の代わりにベニカゲがアヤメに手渡すのだ。
過保護だと思いつつジエンは苦笑を零す。

「アヤメ、手伝う事はあるかい?」
「いいえ、もう終わるんで座っててください。ベニカゲさんもお皿、ありがとうございました。」

出来たての朝食を皿に載せて、さぁ食べようかというとこで大きめの足音が響いた。
ミズチはもうフォークをソーセージに刺していた。

「・・・遅いぞ、ヒボシ。」
「ベニカゲおっはよー。」

一人一人におはようと言い、席を立ったアヤメを止め、キッチンから自分のお皿を持ち朝食を盛り付けると席に座る。
こうして全員が揃った。
飛星が座ると、皆朝食を再開させる。
けれども、飛星だけは一度両手を合わせていただきますと呟いてから食べるのだ。
始めて見る人は何時も彼の行動に首を傾げる。
けれど、彼にとっては口五月蝿く言われた小さい頃の習慣。
父親以外やっている人を見ないが、それでも今まで欠かさずにやってきた。

「・・・ねぇ、朝食を食べた後、少し時間をくれないか?」

一口水を飲み、ジエンが口を開けば集まる視線。
全員は毎日一緒に行動をしているわけではない。
けれども、首都の人間のようにやる事が決まっていない。
やりたい時にやりたい事をやる。これが首都と外の違いの一つだ。
無論、それは彼らにも言える事だ。
朝食後の予定があるのは、家事全般をやってくれているアヤメぐらいだろう。
彼らに断る理由などなかった。





top]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -