「逃がさない」



少し甘めの低音ボイス。

耳元で聞く事により、それは普段よりももっと色気が感じられる。


コンクリートと彼に挟まれた私は自由に身動きが取れる状態ではなく。

そこを退こうにも彼の腕が邪魔をする。


ちらり見上げた彼の表情は今までに見たことがないくらい真剣な顔つきで。


どくどく、と。

さっきから鳴り止まない心臓の音が、余計に私を緊張させる。



「宇宙く、ん」



私が彼の名を呟けば、彼は人差し指を口元に当てて、所謂「しーっ」のポーズ。

本当に、フェロモンだだ漏れ。














「静かにしろ。ヤツに聞こえちまうかもしれねえだろ!! …………待てよ。宇宙人に耳はあるのか? ないはずだ、俺の推測が正しければ……ヤツはマカトピランサウマルニアン火星人だからな。」



……こんな事を真顔で言ってのけたりしなければね。


つーか、お前は何を根拠にそんな推測たてられたんだよ。

マカトピ……なんちゃら火星人ってなんなんだよ。長えよ。誰だよそれ考えたの。



「宇宙く――」

「お前、今言っただろ!? 見つかるかもしれねえんだ、静かにしとけ。」

「――はい。」



悪いのは、私だ。


外見だけはパーフェクトフェロモン王子な宇宙くんに一目惚れしたあの日。

『未知への追求部』なんて得体の知れない部活に何の躊躇もなく入ってしまった。


あの頃は、まさかパーフェクトフェロモン王子がこんな変人だなんて知らなかったんだから。



「よし、行くぞミチコ!! 捕獲だ!!」

「え、あ、はい。……とおおお!!」




「行くぞ」の言葉を合図に二人で走っていって草むらの中を挟みうち。

そんな宇宙くんの作戦も虚しく、宇宙人なんてそこに存在していなかった。




「くっそ。逃げられた……!」

「え、逃げられたの? 最初からいなかったんじゃなくて?」




私の心の底からの疑問は宇宙くんの真顔によって言わなかった事にされた。


そもそもの話、

何故この草むらに隠れているなんて考えに至ったんだっけ。

何故私達二人は壁に張り付いて見張っていたんだっけ。



……ああ、全部宇宙くんが言い出した事だ。




「『未知への追求部』なんだ。そう簡単に捕まえられたら意味ないんだよ。」

「……そう」

「待ってろ未知の世界!!」




そう叫ぶなり私を置いてどこかへ走って行ってしまった宇宙くん。






(私の中では彼が一番の未知。)





HP : amare / 藍澤れつ

God bless you!様 06/07月お題