「児玉、邪魔」
「……いた」
後頭部に感じた軽い衝撃に振り向けば、教科書片手ににやり笑う佐藤。
教室の扉の前にいるあたしが悪いのはわかっているから謝って退くと、いつもこの位素直ならいいのに。と佐藤。
キッと睨むと、余裕でクスクス笑いながらあたしの横を通り過ぎた。
「む、か、つ、くー」
「仲良いねー」
「どこが!?」
一緒にいた親友は、はいはいと流す。
「素直になりなさい」
「……う」
そうなのだ。
あんな奴でもあたしの“好きな人”なのだ。あんな奴だけど。むかつくけど。
先生と話す佐藤をちらり見ると目が合って、奴独特の嫌みったらしい笑みを浮かべてやがる。
こっちも負けずとフン、と鼻で笑ってやった。
バーカ。と声に出さずに言った佐藤に、全力であっかんべーをするあたし。
「あんたら、見せつけたいんか」
「ち、違ーう……!!」
冷たい目であたしを見る親友にいくら否定しても、その目は止めてくれなくて。
結局、次の授業を始める合図のチャイムが鳴り、渋々席についた。
しかし、最悪な(実は嬉しい)ことにあたしの席は佐藤の前なのだ。
授業中に当てられて答えられないあたしをクスクス笑い。
暇なのかなんなのかあたしの背中に消しゴムのかすを投げて遊ぶ。
なんなんだお前。と反撃しようとしてみれば、児玉後ろを向くな。と先生に注意される始末。
「くっそ」
「児玉どんまい」
「うざいよ佐藤」
ちらり後ろを覗き見れば、ほら。
授業中にだけ使用しているらしい、赤い縁がきらり光る眼鏡。
畜生。それがまた格好良いじゃないか。無駄に整っている顔に眼鏡なんて反則じゃあないのか。
「なに見てんの児玉」
「佐藤なんか見てねーよ」
「嘘は泥棒の始まりですよ」
こそこそ小さい声で会話する。だけどあたしは無意識に声が大きくなってしまう。
「うるさいな」
「児玉声でかい」
先生に睨まれたあたしを見てまたクスクス笑う佐藤。性格悪いなお前。
もう無視だ。無視。
只でさえちんぷんかんぷんな授業を聞かないなんて、あたしに待つのは低い点数が付けられたテストだけだ。
黒板に書かれた白い文字を必死にノートに写していく。
すると、右肩をトントンとシャーペンで叩かれた。
駄目だ駄目だ。振り向いたって奴は惚けた顔で、なに見てんの。とか言うんだ。絶対そうだ。
「こだま」
無視無視。
「こだま」
無視無視。
「こだま」
なんだよ邪魔すんなよ。そんな思いを込めて睨みつける。結局は振り向いてしまったって事だ。
児玉後ろを向くな。またしても先生に気付かれ注意された。なんだよ、あたしばっかり。
「ばーか」
お前のせいだ、佐藤め。このやろう。そう言おうとして、止まった。
赤い縁の奥の挑発的な瞳
格好良すぎるんだよ。ばか。
HP : 赤いお部屋 / れッと
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