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▼染まる、夏

※学パロ


「好きです」


季節は夏、幼馴染みんなで行った地元の花火大会で、私はイタチくんにそう言われた。
帰り道が私の家と同じ方向なのはイタチくんだけで。2人きりで他愛ない会話をぽつりぽつりとしながら歩いた河川敷で、不意に呼び止められて。
そんなセリフを言う人だっただなんて、正直幼馴染の私ですら思ってなかったから、かなり驚いたけど。でも、彼が冗談でそんなことを言う人じゃないってことも、わかっていたから。だから、私は笑顔で「ありがとう」って言うことしか、できなかったんだ。




「え?バカなの?あんたバカなの?」
「もー、それ以上言わないでよ……」
「折角大好きな幼馴染から好きって言ってもらえたのに?なのにそれだけ?」
「い、いや、だって付き合ってとは言われてないし…」
「あんたたちってほんと変わんないわね!!」

はあ、とわざと大きなため息をついた友達に、何も言い返せない。
確かに、あのあと何もなかったかのように普通に帰宅して、それから一度も会うことのないまま夏休みを終え、今日は始業式だった。
ちなみに私は地元の木ノ葉学園に進学したけど、イタチくんは少し離れた暁高校に電車で通っている。ここらじゃ有名な進学校だ。

「そんなんじゃ愛想尽かされんのも時間の問題ねー。」
「うう…」
「暁って始業式いつ?」
「確か暁も今日だったと思うよ。」
「じゃあ一緒に帰ろうって誘いなよ。」
「え!?」
「メールくらいしてるんでしょ?」
「まあ…そのくらいは…」
「ほら、早く送る!もたもたしてると先に帰られちゃうぞ!」

友達に急かされて、訳が分からないままにメール作成ボタンを押す。
数分唸って出来たのは「今日、一緒に帰りませんか?」って簡素な一文だけだったけど、しかも何故か敬語だけど、一応友達からのOKは出た。震える指で送信したそれは、ものの数秒で電波を介して彼のもとへと飛んでいく。

「送っちゃった」
「こうでもしないと、あんたたちずっと今のままじゃん」
「…よくお分かりで…」

数分も待たないうちに、手の中の携帯電話がブルル、と震えた。
まさか、とディスプレイを見れば、うちはイタチの文字。返事はや!と思いながらもドキドキしながらメールを開く。

「12時半には駅に着く、だって…」
「んー、じゃあ、駅前のスタバでも行って待ってる?」
「そうする!」

持つべきものは友達だと、よく言ったものだ。スクールバッグを肩にかけ、急いで学校を背に駅へと向かう。
正直、学校が駅と自宅の間にあるから私にとっては少し遠回りだけど、イタチくんに学校まで来てもらうのも申し訳ないし、そんなに大した距離じゃないし、全然関係ない。
時刻は12時、私は涼しいスタバに入店してから「駅前のスタバで待ってるね」とメールを返してお気に入りのチョコレートチップキャラメルフラペチーノを注文した。

「案外普通ね、あんた」
「まあ、幼馴染だから…ある程度の免疫はあるよ…」
「ふうん?」
「ってか、わざわざ付き合ってくれなくても良かったのに…ごめん」
「いや、私は噂の「イタチくん」が見たいだけだから」
「やっぱそうだとは思ってた…!!」

飄々とそう言いのける友達を睨みつけながら、フラペチーノをぐぐっと口に流し込む。
あ、そう言えば、髪とか大丈夫かな。学校で少しでも直してくれば良かったかな。今まで気にしたこともなかったくせに、何故か急に身だしなみが気になってくる。見透かしたように「変なとこは今んとこないわよ」なんて嫌味がちに言う友達は無視だ。手鏡を開いて一応チェックしてみたりする。
そうこうしている間に、何度目かのバイブ音がテーブルを揺らした。

「つ、着いたって!」
「一気!一気!」
「んー!!」

慌てて残ったフラペチーノを一気に飲み干して、ゴミ箱に捨てる。
友達に背を押されながらスタバを出ると、目の前の柱にもたれかかって携帯をいじっているイタチくんの姿が目に入った。わあ、なんて素早い。後ろの彼女も、私の様子で「イタチくん」が誰なのかを察したようで、小声でまた明日ね、と呟くと改札に向かって走っていった。本当に気の利く友達だ。
ごくりと生唾を飲み込んで、1歩1歩踏み出す。イタチくんの制服姿、見るの久しぶりだなー。
あと3歩と言うところで、イタチくんがこちらを向いた。

「お、お疲れさま、」
「ああ」
「ごめんね、急に」
「いや、待たせてすまなかった…とりあえず、駅に自転車置いてるから取りに行ってくる」
「一緒に行くよ!」
「…そうか」

イタチくん、そう言えば家から駅はチャリ通だったな。
自転車置き場から自転車を引っ張り出して、それを押しながら歩くイタチくんの横をついて歩く。会って早々会話のネタをなくしてしまって私はすでにリタイア気味だけど、自分から一緒に帰ろうと誘っておいてそういうわけにもいかない。
こないだ一緒に歩いた河川敷に差し掛かったところで、イタチくんが自転車を跨いだ。
あ、やっぱり、痺れ切らしちゃったかな。そう思った私の予想に反し、彼は後ろの荷台をパンパンと叩いて私のほうを向く。

「早く乗れ、」
「え、」
「こっからなら注意してくるような人もいないし…中学の頃は毎日してただろ、2ケツ」
「そうだけど…」
「カバン、前に乗せるから」
「はい」

言われるがまま、カバンを手渡して後ろの荷台に腰掛ける。中学の頃は確かに毎日のようにこの道をこうして2ケツして帰ったなあ。あの頃は毎日スカートの下に体操着の短パン履いてたから気にせず立ち乗りしてたけど、スカートをめいっぱい短くして履いている高校の制服じゃそうもいかない。スパッツは履いてるけど、なんていうか…精神的に。
ぐ、っと右足を前に出して漕ぎ出した自転車の反動でよろけて、思わずイタチくんの腰に手を回す。ふわっと香るいい匂い、さらさらと当たる長髪がくすぐったいけど、なんだか心地いい。歩くと少し長いこの河川敷を、風を切って走るのは気持ちがいいもんだ。
揺られながらぼんやり川を眺めていると、上から声がかかった。

「しっかり掴まってろ」
「へ?あ、あああああ!!鬼坂あああ!!」
「俺は何度も言ったからな…!」

急に変な浮遊感を感じたと思ったら、これですか!地元ではちょっと有名な坂道、通称鬼坂ですか!!風を切ってこの坂を下りていくのは気持ちいいけれど、今はそれどころじゃないと言わんばかりに私はイタチくんに思いっきり抱きついた。振り落とされないように必死になるあまり、自分が大胆なことをしているとも気づかず坂を2人で一気に下る。
キキッ、といい音を立てて自転車が止まったのと同時に緩む腕、同時に顔を見合わせて吹き出した。

「あそこ下りるならもっと早く言ってよー!」
「俺は何度も言ったが、上の空だったのはなまえのほうだろ…!」
「ははっ、ごめんって…はー、怖かったー!久々に一緒に下ったね、死ぬかと思った!」
「大げさな…」

体勢を持ち直して、自転車はまた進み出す。
帰りによくアイスを買って食べたコンビニとか、今でもたまに行く一楽のラーメン屋さんとか、思い出の場所をいくつも通り過ぎて、もうすぐで家に着く。そんな時、またイタチくんの声が上から聞こえた。

「あの夏祭りの時のことなんだが」
「…うん」
「ありがとう、って言うのは…俺は、期待してもいいんだろうか。」
「…期待、って、」

私の家の前で、自転車がゆっくり止まる。地面に片足をつけて、イタチくんがこちらを向いた。
もう9月なのに、まだセミの鳴き声がうるさい。

「俺と付き合ってください。」
「…あ、は、はい、」
「なまえは…俺のこと、好きですか」
「……好き、です」

イタチくんの背中に真っ赤な顔を押し付けて、精一杯の返事を返す。
名前を呼ばれて顔を上げたら、イタチくんの唇と私の唇が重なった。
こんな真昼間から住宅街で何してんの、なんて思う暇もなく、私は彼にされるがまま、舌まで絡め取られてパンク寸前だ。
ちゅ、と音を立てて離れた口と口、ぼうっとした頭で、ああ、これは何年越しの恋だったんだろう、なんて考えた。

「…イタチくん、」
「なんだ?」
「私…今日はもうちょっと、イタチくんと一緒にいたいです」

まあ、そんなのはもう関係ない。
もう両思いってわかったし、晴れて恋人同士になったわけだし、あとはもう終わりかけの夏に夏の思い出をいっぱい残すだけだ!

私は驚いて目を見開いているイタチくんのワイシャツを引っ張って、もう1回、キスをした。


染まる、夏


(20140826)

   

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