ひとなつ


(学パロ)



「ねえ、あんたも海行くでしょ!?」
「へっ?」

夏休みの3日前、友達からの急な問い掛けに私はただ驚いた。
遠慮気味に誰と行くのか聞いてみれば、クラス関係なく彼女の友達の友達まで幅広く人を集めているというから驚いてしまう。何を隠そう、私は人見知りだ。そんな大人数でのイベント、乗り切れるわけがない。

「あ、あのさ、私は行けないかも、」
「えー?あ、そうだ、ついでにあの人呼んじゃおっか?ほら、片思いの…名前なんだっけ」
「い、イタチくんはこういうイベントには来ないんじゃないかなあ…」
「ああ、そうそう、それ、イタチくん!ねえ、デイダラあー!」
「ちょ、ちょっと!」
「なんだー?うん?」
「こないだ言ってた海の話なんだけど、イタチくんも誘っておいてくれない?」
「イタチぃ?あいつ来んのか?うん」
「そんなの誘ってみなきゃわかんないじゃん、ねっ?もしめんどくさいんだったら連絡先教えてよ、こっちから誘っとくから」
「おっけー」

…なんで、私の携帯のアドレス帳にイタチくんの連絡先が登録されているんだろう。
別に私じゃなくていいじゃないか、主催者でもなんでもないんだから!そう抗議した私をなだめながら、友達は早くメールを送れと催促してくる。
いや、だから、と反論しかけたところで携帯を取り上げられ、文章を考えてあげようか!だって。いやいやいや、余計に困る!必死に取り返して、開きっぱなしのメール作成画面に目を向ける。考えれば考えるほど、私が彼に連絡する必要性が見いだせないし、わかんない。そう思いながら目の前の友達を睨みつけるけど、そんなの微塵も伝わんない。わざとらしく大きなため息をついて、私はやっと文字を打ち始めた。

「…初めまして…だよね」
「去年、図書委員会一緒だったんじゃないの?」
「こ、今年もだよ。…でも…当番かぶったこともあんまりないし、そこまで接点ないんだもん。きっと下手したら私のことなんて知らないんじゃ…」
「あーあーあー、そういうネガティブなのやめなさいよ、メール、そんな感じで良いから、ねっ!ほら送信!!」
「ああー!!!」


【送信完了しました】



勝手に押された送信ボタン、ディスプレイに表示された文字を見てなぜか恥ずかしさが止まらない。なんで勝手に送っちゃうの…!そう詰めたら、あんたいつまで経っても送らないでしょ、と当たり前のように言われてちょっと図星。でも、それにしたってひどい。
もう手遅れだし意味はないけど、送ったメールを何度も読み返しては送受信ボタンを押してみたりするけど、当然ながら今送ったばかりのメールに対しての返事など来るわけがない。
最悪の場合、ドン引かれて着信拒否されて終了…あ、この説一番濃厚かも。やばい。涙出そう。
そんなことしてる間にも、もう少しで図書室を開けなきゃいけない時間だ。私は友達に別れを告げ、カバンを肩に引っ掛けて職員室に鍵を借りに向かう。ああ、今日は誰と当番だったっけ…いや、もういっそのこと私1人で静かに過ごしたい…

「あら、図書室の鍵はもう当番の子が借りて行ったわよ。」
「あ、そうだったんですね、すみません…ありがとうございます、失礼しました」

先生にそう言われて踵を返す。どうやらすれ違いだったみたいだし、生憎今日の当番は1人じゃないみたいだ。と言っても、1人で当番することなんて滅多にないのだけど。
図書室のドアに手をかければ、先生の言ったとおりそこはもうすでに開いていて、ついでにクーラーの電源もついていた。すう、と爽やかな風が首元を通り過ぎていく。ああ、そうか、図書当番も今学期は今日で終わりか。

「ああ、来た」
「…っ!?イタチく…!?」
「俺がどうかしたか?」
「い、いや、はは、今日の当番よく見てなくて…忘れてた、の」
「…そうか」
「鍵、ありがとう」

ああびっくりした。イタチくんも今日図書当番だったなんて、ほんとタイミング悪い。
顔も見ずにカウンターの中に荷物を置いて、図書委員の日誌を開く。日付を書き終えたところで、イタチくんに名前を呼ばれて肩が跳ねた。過剰に反応しちゃうのは、今はちょっと見逃してて欲しい。

「な、なに…?」
「初めまして、なのか?」
「え?」
「俺たち。初めまして…なのか?」
「なにが……!!あ、そ、それ、は」

カウンター越しに私に笑いかけるイタチくんの手の中には、私がさっき送ったメールの文章が写し出された携帯電話。
思わずがたんと立ち上がった私を見て、イタチくんはにやりと笑う。わ、そんな風に笑うんだ、なんて思いながら、メールでは初めましてだったから、とどもりながら告げると「それもそうだな」、と妙に納得したような返事を寄越した。こ、これはからかわれているんだろうか。

「行くんだろ?」
「う、うん、私は行くよ、」
「なら、行く」
「ほんと!?」
「駅で待ち合わせ、な」
「うん!」

真っ赤であろう頬に手を当てる。
どういう流れか、イタチくんが来てくれるどころか、駅で待ち合わせして一緒に行くことになった!
どうしよう、どうしよう、やばい、すごく、嬉しいかも。
ついでだからと電話番号を交換しながら、週末の土日に水着を買いに行こうかな、なんて思うくらいにはなんだかんだこのイベントが楽しみになってきた。



(20140718)


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