WILD ADAPTER

誠人が人間を拾ってきた。名前は時任(誠人がテレビを見ながらつけていた)で、(どうやら本名らしい)下の名前は呼んだら発狂して暴れ出すから私も誠人も絶対口には出さないことにしている。まあ落書きみたいなこの世の中、落書きみたいな人間のところに来るのは落書きみたいな人間しかいない、どうせ私も誠人も表じゃろくなことできやしない人間だし、他人には言いたくないことだって誰にでもある。時任だってそうなんだろう。というよりまあ時任の場合は言いたくないこととか全部まとめて記憶喪失でスッポーン、らしいけど。気楽に生きれていいね。
拾ってきたのは誠人のくせに、誠人はたいてい仕事でいない。だからその間は私が世話をする。最初のうちは手のつけられない野獣みたいなもんだったから放ったらかしていたけれど、エサを与えてるうちに懐かれた。食い殺されたらどうしようとか思ってたけど、そんな必要もないみたい。けっこう可愛いとこあるんだよね、この捨て猫。
「なまえーっ!」
今日はちゃんと帰れそうだって誠人からメールが一通入っていたからちょっとだけウキウキしながら夜ご飯のシチューを作っている。嬉しすぎてお肉多めにしてみたり。そうしたらさっきまでソファで静かに遊んでいた時任がいつの間にか消えていて、何だ何だお風呂場の方から声が聞こえてきた。
「なまえっ!」
ドタバタとリビングへ走り込んできた時任はなんということでしょう素っ裸だ。恥ずかしいとかそういう概念ないのかこの男。過去と一緒にどっかに置いてきたんじゃないのだろうか、こっちが目のやり場に困るからやめてほしいんだけど。
よく見ると(いや見たくないんだけど)全身ずぶ濡れで時任の周りは水で濡れている。シャワー浴びてたらしい。
「あのね時任昨日も言ったと思うけど、お風呂から出た後は体をバスタオルで拭くの。それから服を着てようやくこっちに出てこれるわけ。濡れたままじゃダメなんだよ」
「すっげぇマズイ!なんだこれ!」
「少しは聞く耳持って・・・」
「なあなあなんだこれ!やべえ!はじめてだ!」
一体なんなんだ。何が時任をこうも興奮させているのか。目をキラキラ輝かせて私を見下ろす時任はデカいくせして年下のがきんちょにしか見えない。
「これ美味そうな匂いしたから食ったらチョーマズイ!」
そう言って差し出したのはグリーンアップルの入浴剤。固形タイプの。
「は!?ちょっ時任口ゆすいで!はい水!これで嗽しなさい!」
「なんだよ急に」
「いーから!お腹壊すよ!」
「え。腹って壊れんの」
「・・・早く嗽しないとご飯食べれなくなるよ」
「やだ!嗽する!」
背中を丸める大の男、理由は入浴剤を食べたから・・・・・誠人に言ったら笑うだろうな。うん、あとで言ってやろ。誠人は時任のこと異様に気に入ってるし、なんか最早依存にすら近いんじゃないかっていうレベル。溺愛している時任のことだから何を話しても目尻下げてにやけるんだろうけど。いいなあ、時任。
「久保ちゃん遅ぇな」
玄関のドアの方を見ながらソファに座る時任、やめてぇソファ濡れる!バスタオルを取りに行かせ、ついでに洗面所で体を拭いてやった。流石に前は自分でやらせたけど。ずっと立ってるのもしんどいってんで、髪はソファに座ってから拭いていく。自分でやりなよって言いはしたけど、「だってなまえにされんの好きだしー」なんて言われたら拭かざるを得ない。時任は人を扱うのうまいな、無意識なんだろうけど。
「そろそろ帰ってくるよ」
「なまえはすげえよな」
「んー?どうして?」
時任が私を見上げる。
「だって俺が来る前は、こんな広いとこでいつ帰ってくるかも分かんねえ久保ちゃんをずっと一人で待ってたんだろ?それって何かすげーじゃん」
「そうかな」
「そうだよ」
「・・・・・へへ、そっか。」
「なんで笑うんだよ」
「べっつにー?」
強いていうなら嬉しかったからかな。きょとんって顔してる時任は予想通り。まあいつか時任にも分かるといいね。
「あ、帰ってきた」
ガシャンてドアの開く音に時任が跳ね上がる。私だって負けてない、誠人が帰ってきて嬉しいのは時任だけじゃない、私だってずっと待ってたんだから嬉しいに決まってる。
「誠人っおかえーーーギャア!」
「んだよなまえ変な声出しーーーギャア!」
「二人ともお揃いで仲良しだぁね」
ただいまぁ〜。
へらへら笑いながら靴を脱ぎリビングの方へやってきた誠人は頭部と顔面から大量の血を流していて、そのまま下へ視線をずらすとズボンがダメージ受けすぎてダメージズボンも顔負け状態だった。今回の仕事どんだけハードだったんだろう。その分報酬も跳ね上がるからって誠人はいつも断らないけど、私達の心臓も跳ね上がることを忘れないでほしい。
「え、えーと・・・・・」
「あ、そうだったね。ごめん」
ぽん!と手を叩いて誠人が私と時任をまとめて抱き締めた。
「二人とも、ただいま」
「おう、おかえり」
「・・・・・とりあえずご飯の前に鵠さんとこ行こっか」
時任のリアクションが低いのも気になるけど、さておきそうと決まればシチューの火を消してこよう。煮込みすぎはよくない。そう言ったら時任が消しに行ってくれた。ひっくり返すといけないから私も行こうとして、
「なまえ」
「は、っひい」
今度は顔がギリギリのところまで引き寄せられた。誠人の血塗れ顔面のドアップは心臓によろしくない。きっと今晩夢に見るだろう。
「なまえ、ただいま」
頼むから笑わないでほしい。軽いホラーだって気付いて。
「ねえ、俺きちんと生きて帰ってきたよ。ご褒美ないの?」
「・・・・・無事に帰ったらって言わなかったっけ?」
「え、無事じゃん」
「いや今の誠人は確実に死にかけだから」
「えー」
どこの世界で頭から血を流している男を無事な姿だと言うのだろう。
「ケチ・・・・・あー」
「は?えうわっまこと」
誠人が足から崩れ落ちて巻き添えを喰らう。こうなれば私も誠人血塗れだ。
誠人を起こそうとしたけどどうも意識がないらしくて、どんなに呼んでもびくともしない。この傷なら当然のことなんだろうけど、ちょっと冷や汗。
「と、ときとー」
私はシチューをかき混ぜているのだろう時任へ助けを呼んだ。そのシチューを食べれるのは一体いつになることだろう。


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