ご主人様のバースデー

今日は私の仕えるお家の一人息子様の誕生日だ。
赤司家の次期当主、赤司征十郎様。
私が知る限りでは……完璧なイケメンだと思う…。なんて言ってもすごく頭が良くて、運動も出来て、優しくて、綺麗なお顔立ちに細くて背が高い。
なんだこの完璧な人は。私の第一印象はそれだったと思う。
と言っても私がこの家に仕え始めたのはかなり前のことで。理由ありでこの家に引き取られこうして働くことになった私と、同い年の息子さんがいるということで、何回か会って話しただけかな。
それ以外では話す機会も時間も無かったような…。それくらい彼は忙しかった気がする。

でも、今日はそんな彼のお誕生日。当然私達メイドは1日中準備に追われている。中でも私はかなり重要な役を任されており、失敗など以ての外、許されるわけがない。
その仕事というのも、バースデーケーキ担当。なぜこんな普通のメイドの私が、そんな大役を任されたかというと、それはちょうど専属のパティシエさんが外国の大会…?に出ていて帰ってこれないからなのだそう。
一応メイドの中では料理もできる方で、1番若くて趣味やら流行りやらが分かりそうな私にその大役が回ってきたというわけだ。

「失敗とかしたら殺されるよね…」

山のような材料を前に、生唾を飲み込む。

よし、と気合を入れ、髪を結びエプロンを付けた。そして、まずは土台を作るためにスポンジを作ることにした私は、卵やら何やら、スポンジに使う材料を次々とボウルの中に入れていった。
それらの材料を混ぜ合わせて、型へと流し込む。この作業は意外に簡単で、あとは時間と温度さえ間違えなければ大丈夫なのだ。
大きく使いやすそうなオーブンにそれを入れて、ボタンを押す。
一先ず土台の準備は完了だ。

「焼いてるうちに他の準備しなきゃ…!」

そう独り言を言い、生クリームを泡立てる。一般家庭じゃこんな量有り得ないだろうな、という量を大きなボウルで泡立てる。当然量が倍なだけに、必要とする労力も倍で、少し疲れた。
しかし、休んでる暇などあるはずも無く、次の作業へと取り掛かる。果物を切って……あとはスポンジが焼けるのを待つだけか…。



そして、すべての準備が整ったため、盛り付けをしていく。丁寧に果物を並べ、生クリームを乗せて……。
地道な作業だけど、楽しい。でも、でも……すごくお腹がすいた!!!
今日はいつもより早く起き、当然朝ご飯を食べてる暇も無かった。それも重なり、私は誘惑に負けそうになる。
ちょうど果物の飾り付けの最中、一つくらいなら……という考えが頭を支配する。

「……だ、だめよ!征十郎様へのバースデーケーキなんだから…!」

パンッと頬を叩き、頭を左右に振る。それから、再び飾り付けの作業に戻り、数分後には同じ考えが頭を支配し始めた。
一つ……一つくらいならバレないよね……。そして誘惑に負け、ぱくっと一ついちごを食べてしまった。その甘さとフルーティさに思わず頬が緩む。

「おいしい〜」

ガチャ

その時、キッチンの扉が開く音がした。私は我に返り、恐る恐る後ろへと振り返る。

「せ、征十郎様…」

「ふふ、おはよう」

なんと、そこに立っていたのは"今日の主役"である赤司征十郎だった。
なんて運が悪いんだろう、彼へのバースデーケーキを作っている最中に、それも私がつまみ食いという最低なことをしている最中に彼が来てしまった。
私の思考回路は停止し、焦りだけが増していった。
私があたふたと冷や汗をかきながら彼に何か話題を振ろうとしたところで、彼は痛いところをついてきた。

「つまみ食いかな」

「あ、あの」

「悪い子だね、××」

そう言ってこちらへと近付いてくる征十郎様。ああ、怒ってらっしゃる……きっととても怒ってらっしゃる…。私死ぬのかな…。
そう思い、覚悟を決めた時、意外にも彼はこう言った。

「僕も食べたいんだが」

にこにこと楽しそうに笑って、傍にあった椅子にかけた彼。目の前の材料を指差しながら、私の方へと笑顔を向ける。
私が困惑して黙っていれば、彼はさぞ楽しそうに言った。

「君が食べたのだから、僕が食べても構わないだろう?」

「もももも勿論です!」

「じゃあ、イチゴを貰おうかな」

「あ…でもイチゴは数が決まっているので余りが一つしかなくて…」

「へえ」

彼は少し笑顔をやめた後、ニヒルに口角を釣り上げて、その一つを君が食べた訳だ。と言った。

「その件は申し訳ございません…!!あの、他の果物でしたらいくらでもお切りしま」

「僕はイチゴが食べたいんだ」

ニヤニヤと笑いながら、私の方を見つめる彼。正直、征十郎様のこんな一面を見るのは初めてだったし、驚いた。そうだよね……征十郎様だって人間だもんね…。
いや、そんな事考えてる場合じゃないよ!!どうやって征十郎様にイチゴを…。

「あ、あの、きっと一つくらいなら……」

そう言って傍にあったイチゴを差し出すと、彼はその綺麗な指で受け取った。

「でも、これを僕が食べたら、君がつまみ食いをした事がバレてしまうね」

それでもいいのかな?と笑う彼。そもそも、私がつまみ食いをしたのが悪いのだから、この悪魔!!!なんて思えるはずもない。いや、思ったけど、思ったけどね。
それでも、彼に仕えている者なのだから、彼の言う事をして当然だろう…。現にイチゴは沢山あるんだし、一つくらい主役の彼にあげたっていいじゃないか。どうせ食べるのは本人なんだし……。

「征十郎様のお願いですから……それに、つまみ食いをした私が悪いので…」

そう言って下を向けば、彼はへぇ、と言った後に、イチゴを置いた。
そして椅子から立ち上がって、私の頬へと手を添える。

「そうだね、でも君が怒られるのは少し可哀想に思えてきた。だからイチゴを食べてしまった君を食べることにしようかな」

「な…な……」


なんですって?!?!?!いやいやいや、なんて発言してるんですか!?食べる!?私は召使いですよ!?!そそそそれに、食べるってまずどういう意味ですか!?!?!

私が心の中で葛藤していると、いつの間にか彼は笑っていた。どうやら私は耳まで真っ赤な状態らしい。
そんな私に追い討ちをかけるように、彼は私の耳元で呟いた。

「期待した…?」

「ふぁ、あ」

それから、私は湯気が出る勢いで真っ赤になったのだが、征十郎様は嬉しそうに笑いながら、私にキスをした。

「…ふっ……イチゴ味……」

「せ、征十郎……さ…ま」

唇を舐めて、クスクスと笑う彼はなんて悪魔なのだろう。男の人にキスをされるなんて、というかこんな近くにくるなんて初めてで。
当然ファーストキスなわけで。悲しいとか、悔しいとか、そんなものじゃなくて、ただただときめきしかなくて。

「私だけにだったらいいのに…」

「××だけに?」

「うん…征十郎様が私のことを好きになってくれればいいのにな…」

「好きだよ、初めて会った時から」

「わ、わたし…………も?」

あれ?!あれれ?!?!心の声が……心の声が、声に出てたぁぁ ああ!!!!
なんていう失態、というか、征十郎様、さっき私のこと好きって……好きって…。

爆発しそうな私に、彼はまた言った。

「好きだよ、××」

「だから、僕の彼女になるんだ」

ニヤニヤと笑いながら、私のことを見つめてくる。ああもう、Yesしかないよ、征十郎様。
なんて人だろう、いくら誕生日だからって………………まあ、誕生日だもんね。


「はい」



真っ赤な顔と震える声で、そう答えた。



お誕生日おめでとう、征十郎。


来年は、そう言えるかな。









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