1 離れてもまだ覚えてる





「ごめんね、赤司くん」


目にたくさんの涙を浮かべ、そう言った彼女を忘れることが出来なかった。高校が離れるから別れるのか、と聞いたら首を横にぶんぶんと振っていた。結局最後まで理由が分かることはなく、彼女に振られ、避け続けられたまま、僕は洛山高校へと入学したのであった。


入学してから何ヶ月か経ち、そろそろ夏休みだ。夏休みは東京へと行く予定もあり、梓の事ばかり考えていた。別れたのに、僕の中ではいつまでも彼女が消えることはなかった。
彼女も同じことを考えているだろうか。そんな顔をしてまで別れを告げに来た理由なんて、分かるはずもなかった。


ただ、東京に行けば会えるかもしれないと、俄な希望を抱き、僕は目を閉じた。









今も思い返せば涙が溢れてくる。大好きだから告白して、付き合うことになって、毎日がいつも以上に輝いていた。あんなに素晴らしい彼氏なんて、彼以外にはいないんじゃないかって思うくらい、彼のことが大好きだった。
だけど、私は自分から彼に別れを告げた。何が起きているか分からない、といった表情をした彼を、未だに忘れられない。


そんなに泣くなら、別れなくても良かったのに、と慰めてくれたさつきちゃんの気持ちが、今なら少しわかる気がする。



「はぁ……」


「どうしたの?溜息なんてついて」


「ちょっと色々思い出してたらね」


笑って誤魔化そうとしたけど、彼女の前ではそうもいかないらしく、少し苦笑してから、彼女は私の隣に腰掛けた。


「その顔は、また赤司くんのこと考えてたのね」


「やっぱりさつきちゃんには隠しきれないね」


「だぁってぇ〜、梓ちゃんびっくりするほどわかりやすいんですもの、赤司くんのことを考えているときは特にね」


ぱちんっとウインクをされた。確かにそうかもしれないな、と少し自嘲しながら苦笑した。


「ねえ、梓ちゃん、後悔先に立たず、って言葉知ってる?」


「え?」


「してしまったことを後になって悔やんでも、取り返しはつかないのよ、って意味」


「うん…それでどうしたの?」


結構キツい言葉かもしれない…なんて思っていたら、さつきちゃんは、逆にね、と続けた。


「梓ちゃんと別れた後、無理にヨリを戻そうとはしていなかったけど、赤司くんはずっと梓ちゃんの事を心配していたし、今まで通り接したいと願っていたみたいよ?」


「えっ?そうなの?てっきり嫌われたんだと思ってた……」


「実はね、梓ちゃんには言わなかったんだけど、別れた次の日に、赤司くんが私のところへ来て、何かしらないか、桃月って聞かれたの。
口止めされてたから、流石に内容までは話さなかったけど少しアドバイスみたいなものをしてみたの。
そしたら赤司くんも、悩みを話してくれたの。」


「ど、どんな…?」


「梓は危なっかしいから俺がいないと心配だ、とか、泣きながら別れを告げるなんて訳が分からない、とか、まだ梓とずっと一緒にいたい…とか……って梓ちゃん?!泣かないで!」


焦り出すさつきちゃんを横目に、私は涙が止まらなくなっていた。てっきり嫌われたんだと思ってた、私の中で止まったままだった時間は再び動き出した。また、会えるかなぁなんて、考えながら、私は泣き続けた。


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