女性を部屋に泊めるのは、何と言うか彼女に申し訳ないのだが、外にいても凍え死んでしまうし、それこそ危ない。
僕は、今晩クルルさんを家に泊めてあげることにした。

道を歩きながら、しばらく話を聞いていたところ、どうやら僕の予想通り、彼女はこの世界の住人ではないということがわかった。本人が言ったわけではないが、そうだとすれば全ての辻褄が合う。


「ねえ、ここ、雑誌で見たことあるよ?ジャポンでしょう?」


「ジャポン?ああ、もしかしてジャパンの事?そうだよ、ここがジャパン、日本語で言うと、日本。」


「ふふ、やっぱり!けど、どうしてこんなところ来たのかなー」


「さあね、僕が思うにクルルさんはこの世界の人間ではないと思うんだが、君はどう思う」


「赤司くんって、頭が良いんだねー!確かにそうだと考えれば、辻褄が合うよね。流星街が無いのもそうだし、それに……」


「それに?」


「私、寝る前に異世界についての話とかして、行きたいなー!とか思ってたんだ」




それだけが理由だとしたら、奇跡だなと思いつつ笑うと、彼女もそれにつられ笑った。
終始笑顔を絶やさない辺り、彼女は明るい人間なのだろう。そして恐らく、これから先、どうしようなんてことは考えてないのだろうと、思った。




そんなことを考えていたうちに、僕の一人暮らしをしているマンションへと着いた。


「ここが僕の家で、今日君が泊まる家」


「……綺麗……」


「京都だからね」


マンションとは言っても、京都。東京とは違い、和風の雰囲気を漂わせた、旅館のよう。





ガチャ


自分の部屋へと上がり、鍵を開ける。
そうだ、彼女は靴を脱いで家に入ることを知っているだろうか。


「クルルさん」


「……………」


「クルルさん?」


「…………あ、はい〜」


驚いたように目を丸くさせ、部屋の中を見ていた。日本の文化に触れるのは、初めてだろうか。相手が異世界からきた人物と知り、僕は少しながら興味を抱いた。


「僕達の国では、家に上がるときは靴を脱ぐんだ、靴を脱いだら、適当に置いて構わないから、お願いしていいかい?」


「…………」


「クルルさん」


「わぁ、すごーい!!!!靴も脱ぐのね!?素敵〜!!異世界に来れて、ある意味幸せ!」


喜ぶ彼女を横目に、部屋へと入った。外を見れば、真っ暗だった。今日はいつもより帰りが遅くなった為、夕飯もまだ作っていない。


「ねえねえ、少し聞きたいことがあるんだけど、いい?」


袖を引っ張られ、振り返ればそう言われた。


「うん」


「えーと、真昼!!
ふふ、これも、日本の文化?」


彼女が真昼、と発したその時、突然彼女の手に現れたのは、黒い刀。柄の部分は赤と金で装飾されているそれは、どこからどう見ても本物の刀だ。確かにそれは日本の文化だ。


そして僕は今、確信した。彼女は絶対にこの世界の住人ではないのだと。



*



赤司さんの家に着き、少し話をした後、彼にシャワーを浴びるようにに促された。

僕はその間に夕飯を作っているから、それと、服は申し訳ないけど僕のものでいいかな?と。
年は同じくらいかな、と思っていたけど何だかとても大人びているな、と思った。そんなことを考えつつも、教えられた場所へと向かうと、とても驚いた。瞬きが止まらず、何度も何度も目を擦った。
とてもとても綺麗なのだ。見たことの無い光景が目の前に広がっていて、それに、何とそこからは外の景色が見える。何て豪華なんだろう……もしかしたら彼も私と同じ、何処かのおぼっちゃんなのかもしれない。

余計なことを考えつつも、初めての光景に少し浮かれながら、シャワーを浴びた。



用意されていた服を着て、扉を開けると、ふわり、といい匂いが鼻腔を擽る。匂いのする方へと足を進め、扉を開けると、そこにもまた、見たことの無い料理ばかりが並べられていた。
その場に立ったまま、固まっていると彼が気付き声を掛けてくれた。


「ああ、クルルさん、丁度今料理ができたところだよ。やっぱり僕の服だと大きかったみたいだね」


そして彼はふふっと、笑った。確かに、服はすごく大きくてだぼだぼ。それに長袖だから、手をピーンと伸ばしてみても袖が余っている。勿論下も同じように。


ただ、そんなことよりも気になることがある。それは、目の前に並べられた美味しそうな料理。


「美味しそう………」


今にも涎が垂れそうな勢いでそう呟くと、「どうぞ」と微笑まれ、椅子へと座った。


座ったのはいいのだけれど、この、2本の棒は一体何に使うのだろう。フォークもスプーンも無いし、手で食べるのかな…と考えていると、「ああ、ごめんね」と、彼はフォークとスプーンを持ってきてくれた。



「クルルさんは使い方を知らないよね、少し食べづらいかもしれないけど、どうぞ」


「赤司さん、ありがとう」



そう言えば、いえいえ、と微笑んで返してくれた。雰囲気はクロロに似てるけど、すごくいい人だなぁ…。




「じゃあ、いただきます」


「ん?」


「どうしたんだい、クルルさん」


「いただき、ます?」


「ああ、こっちでは食事をする前に自然の恵みに感謝して、いただきますと言うんだ」


「そうなんだ…!いただきます!!」


赤司さんがしていたのと同じように、両手を合わせそう言うと、初めて見た色とりどりの料理を口へと運んだ。





食事を終えた後、寝ることになったのはいいのだけど、ベッドが一つしかないらしい。
赤司さんは、僕がソファーで寝るから、と言っているけど、本当にいいのだろうか。兄弟はみんな男の子だし、周りもそうだからあまり抵抗とかはないのだけれど、一緒に寝るのはダメらしい。なんでかな?


「クルルさん、ほら、風邪を引いてしまう、僕はソファーで寝るからクルルさんはこっちで寝て」


「一緒に寝ても大丈夫だよ?ほら、私ね、兄弟はみんな男の子だったから、あまり抵抗とかなくて……その…」


「心配しなくていい、ソファーも案外寝やすいものだよ」


「そ、そう?ありがとうね、おやすみ」


そう言えば、赤司さんもおやすみと微笑んで扉を閉めた。さっきも寝た筈なのに眠気は収まらなくて。ああ、また寝たら自分の世界に戻れるかな、なんて思いながら私は睡魔に身を任せた。







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