白雪姫とりんご
(!)オリジナルキャラクターが出てきます。赤司くんが少し変。
「お願い!!赤司くんにしか頼めないの!!」
顔の前で両手を合わせ、俺にお願いをしている彼女は俺の好きな子だ。好きな子のお願いを断るだとかお前本当に男か!って思ったやつ、時は数分前に遡る。
「あ、いたいた、赤司くーん!!」
校内中を走り回りでもしたのか、息を切らし、彼女はこちらへとかけてきた。
「どうしたんだい、白澤」
俺を見つけてこちらへかけてくる白澤を見て、自然に口元が綻んだ。疲れた〜と、声を漏らす彼女もまた、可愛いな、なんて思っていた。
「あのね、赤司くんにお願いがあるんだけどね」
「へえ、どんな?」
「えっとね………」
すると白澤はバツが悪そうに目線を下に落とし、言った。
「文化祭でやる劇の、王子様役をやって欲しいの…あと、その後にやるダンサーも、お願いしたいのだけど…」
「もう文化祭まで一週間を切っているし、配役は済んでいるだろう?」
「悠くんが、どうしても抜け出せない用事がその時間に入っちゃったみたいで……だから、赤司くんにお願いしたいんだけど…」
やめてくれ。そんなに瞳を潤ませて上目遣いで俺を見つめないでくれ。なんだ、白澤は誘っているのか、いや、彼女は純粋だからそれはありえない。
というか、王子様役ならば黄瀬に頼めばいいだろうに、何故俺に頼むんだ。お姫様役が白澤なら、まあ、いい。他の女がその役なら絶対にやりたくない。
「なぜ俺に?黄瀬は?」
「黄瀬くんも用事があるみたいで…」
「お願い!赤司くんにしか頼めないの!!」
そして今に至るのだが、さて、どうしようか。こんなにお願いされて断るのもどうなんだろうか。可愛い白澤のお願いなら素直に聞いてやりたいのだけど、俺は白澤が好きだから君以外の王子役なんてやりたくないよ。
「ところで、お姫様役はだれがやるんだい?」
そう聞けば彼女は少し恥ずかしそうに下を向いて、小さな声で、私……と呟いた。
「そうか、劇の内容は」
「白雪姫だよ」
「それと、ダンスと言っていたけど、そっちも俺がやればいいのかい?」
「う、うん…えっと、やってくれるの!?」
「うん、いいよ、白澤のお姫様姿、楽しみにしてる」
「うん!!!ありがとうね!赤司くん!!」
いいよ、と言えば、花のような明るい笑顔を浮かべて、彼女はありがとうと言った。それから、日程やら台本やらを渡したいから部室に来て欲しいと言われ、彼女の横を歩いた。
部室へ行くまでの間、世間話をしたり、他愛ない会話をした。そして、気付けば部室へと着いていた。
「えーと、これとこれとこれと………」
「あそこにあるのって衣装?」
「あ、うん!そうだよ!赤司くんは悠くんと背丈同じくらいだから作り直さなくても大丈夫そうだね!本当に、本当にありがとう!いつか、お礼させてください」
「白澤の頼みだからね、楽しみしてるよ」
そして、次の日から文化祭準備期間に入るため、部活動は休みになった。但し、一部を除いては、だが。
白澤の入る演劇部は、2日目にステージ発表があり、ギリギリまで部活があるらしい。代役として白澤に誘われた俺も、当然部活に行かなければならない。
これで、今週は授業以外でも彼女に会えると思うと、自然と部活へ向かう足取りが弾んだ。
「あ、赤司くん!今日は少し衣装合わせも兼ねて練習するみたいだから、この衣装に着替えてもらっていいかな?」
「そうか、白澤はまだ着ないのかい?」
「私も着るよ〜えへへ」
「白澤は可愛いからきっと似合うだろうね」
ぽんぽんと頭を撫でて、衣装を着替える部屋へと向かう。一瞬何が起きたのか分からず顔を真っ赤にさせる白澤は本当に可愛い。
「美しい娘さんに贈り物だよ」
「まあ、なんて綺麗なりんご!おばあさん、ありがとう」
バタンッ
「はいはいはいちょっとストップー……ここで、こうして、こうなるの…だからもうちょっとこうして………………」
白澤は本当に役がハマってる。白い肌に黒く綺麗な髪、まさに白雪姫だ。
そしてあっという間に時間は過ぎ、いよいよ本番となった。
「大丈夫かい、白澤」
「う、うんっ大丈夫」
かなり緊張しているのか、胸に手を当て深呼吸を繰り返している。白澤なら大丈夫だよと頭を撫でれば、ありがとう、お互い頑張ろうね。と優しく微笑まれた。
舞台のセットが整い、幕が上がると、白澤は人が変わったように白雪姫になりきっていた。
*
「どうッスか、悠っち!!」
「バッチリだぜ!赤司の方に渡る台本には黒のペンで、キスをするって書き直しといた!」
「ナイスッス!!もどかしいんスよあの二人!!」
「そうだよな!俺もそう思ってた…!本番が楽しみだなぁ!!」
千尋が赤司へとお願いをしている最中、二人は計画通り行くことを願い、話をしていたのだった。
*
「美しい娘さんに、贈り物だよ」
「まあ、なんて綺麗なりんご!おばあさん、ありがとう」
バタッ
─けれど、そのリンゴを一口かじるなり白雪姫はバタリと倒れて、二度と目を開きませんでした。白雪姫が死んだ事を知った小人たちは悲しみ、せめて美しい白雪姫がいつでも見られる様にと、ガラスのひつぎの中に白雪姫を寝かせて森の中に置きました。そしてある日、1人の王子が森で、白雪姫のひつぎを見つけたのです。─
ナレーションが流れ、そろそろ自分の番になる。
俺は目を瞑る白澤の元へと駆け寄り、セリフを言った。
「何て綺麗な姫なんだ…まるで、眠っているようだ」
確かここで照明が一気に消えるはずだったな、しかし、台本にはキスをする!!と。
「白澤」
「赤司くん…?」
「すまない」
照明が消えたと同時に、俺は白澤にキスをした。触れるだけの優しいものだが、再び照明がついた時、彼女は驚いたように顔を真っ赤に染めていた。
しかし、さすがは演劇部、動揺してはいたものの、自分のセリフを言った。
「私は、何処にいるのかしら?」
「ずっと僕と一緒にいるのですよ、姫。」
最後に彼女の手を取り、結婚式を挙げた所で舞台発表は終わりだ。彼女の手を取ったとき、彼女の顔はもう真っ赤だった。
幕が下り、舞台が終わると、白澤はふらついて倒れそうになった。俺がその手を引くと、ふわり、と白澤が倒れ込んできた。
「あっ、あか、赤司くんっ………」
「少し休むかい?」
「ちちち違うの、その、キ、、、」
「キ?」
「キス………あれ、台本と違ったから…」
「ああ、俺の台本には手書きでキスをする!!って、書いてあったんだけど」
え!?と驚く白澤に、まあ、白澤だったしね。と微笑めば、更に困惑して耳まで真っ赤になってしまった。
可愛い、と思いつつも、次はダンスがあることを思い出し、白澤の手を引き、裏方へと向かった。
周りからは拍手喝采が上がったが、生憎それに答える暇もなく、性急に衣装を着替えると、再びステージへと戻り、それぞれの配置へとついた。
白澤の方を見ると、まだ混乱しているようで、俺と目が合うとびくっ!として、目を逸らされてしまった。
白澤は本当に可愛いな…。それにしても、この衣装は…………。
考えているうちに幕は上がり、音楽が流れた。
音楽に合わせて踊る。幕が上がった途端、女子の悲鳴と男子の笑い声が響いた。
なぜ、俺の衣装がスカートなのだろうか。
白澤の方に目をやれば、満面の笑みで踊っていたが、そんなことできるはずもなく、俺は真顔で踊った。
「赤司っちがスカート履いてるッスぅうううwwwwww」
「赤司がスカートwwww無駄に可愛いなおいwww」
「何でスカート履いてんだあいつwwww」
「赤ちんにあんな趣味あったのー」
「つくづく赤司が可哀想だと思うのだよ…」
「赤司くん、あれが終わったあとに千尋さんのこと襲わなければいいですね」
「いや、ある意味ハッピーエンドッス!!赤司っちと千尋っちがくっついてハッピーエンドッス!!!!」
上から、黄瀬、悠、青峰、紫原、緑間、黒子。6人の会話が赤司に聞こえることはなかったが、その後、黄瀬と悠が仕組んだ事だとバレ、二人のメニューだけが5倍になったとか。
また、それとは逆にいいニュースもあった。
*
「白澤、ずっと言おうと思ってたんだが」
「は、はい、何でしょうか」
「俺は白澤のことが好きだよ」
「え………………えぇ!?わ、私ですか!?」
「うん、千尋、君のことが好きだ」
「じ、実は私も、赤司くんのことが、好き、です」
「じゃあ、両想いだね、千尋、おいで」
手を広げると、返事の代わりに千尋が抱き着いてきた。
スカートを履いて踊ったのは最悪だったけど、おかげで俺達は付き合うことになった。
勿論、こんな事無くても千尋は俺と両想いになっていたけどね。
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