※捏造
※前条と秋山
※前作のつづき
あの戦い以来、王という存在は無くなった。赤、青、無色、白銀…様々な色の強い、色による力が無くなった。セプター4の能力もただの人になり、仕事の中身にも変わったが他は変わらないのかもしれない。かつて、緑のクランにいた伏見もセプター4のNo.3となり仕事をこなしている。それだけは変わった事だ。前はストレインの起こす事件を、取り締まるのが多かったが今は一般の犯罪者の取り締まりが多くなった。それ故、徹夜が何日も続く事は減って、健康的な暮らしが出來る様になった。
「弁財、あとは俺がやるから先に帰ってくれ」
書類整理をしていた弁財に秋山は声をかける。弁財はちらりと上司に目を向ける。彼が気を使っているのは理解していた。部屋にいる、PCの打音をひびかせる伏見へ弁財が声をかけると一度だけ、静かになるが再び音が響出す。
「分かった。明日少しの時間俺は総務部で人事の報告あるからその間この書類処理しとけ」
弁財が短い返事をして部屋を出て行く。その姿を見ながら、今日の朝、休みを1日申請してくると連絡があった恋人を秋山は思い浮かべながらあと少し書類整理が終わり次第帰ろうと作業スピードを上げる。あと数冊、というところでふいに背後に気配を感じて振り返るとそこには伏見が立っていた。いくつか年下である筈なのに、伏見はまだ成長するのか背が高い。
「あんた、俺と別れてから恋人できたの」
「なっ、伏見さん!ここは職場ですよ!?」
誰かに聞かれたらダメージダウンするだろう発言を職場で伏見はまるで事件の報告をするように淡白に告げた。
「今更だろ。それに俺以外ここには秋山しかいないけど」
最も、彼は念には念を入れキーをかけていたのか手元には鍵が見えていた。
「それは、職場で聞く事案ですか」
どうなんだよと、伏見から聞かれて秋山が言葉にしたのは立ち入らないで欲しいという意思。伏見は眼鏡のフレームを持ち上げてにやりと笑った。
「その言葉は都合の良い様に取るぞ。…単純に言えば俺の相手をしろ」
「何故です…第一矢田美咲と付き合っているのでは」
「美咲?まぁ、一応はなぁ。けど、すぐにへばっちまう。俺の体だってそれなりに溜まるし、だからって女は嫌だし。だったらアンタなら良いかなって。」
まぁ、特定の相手いないみたいだし、いいだろ?アンタだって20代で溜まるだろ?別にこれで 何かを脅す事はしないし、心配しなくて良い。そう矢継ぎに伏見が告げたと思ったら、秋山はミーティングテーブルに倒されていた。頭の中では早く体を動かして逃げないといけない事くらい分かっているのに。人は突然起きた事に対処するのにすぐには動けないらしい。背中から隊服を脱がされて、やっと体が動き、伏見の力が弱くなった一瞬で逃げ出したのだった。
「では失礼します」
2日分の仕事の振り分けを仲間に伝えていたら終業時間がいつもより遅くなってしまったなと、職員更衣室で着替えながら善条は思う。恋人は、今日早番だと言っていたのでもしかしたら帰ってきているかもとコートを羽織ったところで、更衣室の扉が開いて誰かが駆け込んで来たのが分かった。ちらりと見た善条はそれが恋人の姿であるのに驚いた。
「秋山くん、どうしたのですか!?」
「善条さ、すみませ…っぅ」
ポロポロと泣き崩れる秋山の姿に、此処を早く離れようと善条はタクシーに彼を押し込み、その場を後にした。タクシーの中は互いに無言であった。話が話だけに話すことは憚られたのも1つの要因だったのかもしれない。
「釣りはー」
「釣りは結構。」
急いでいるのでと足早に秋山の肩を抱えて善条は急いで部屋へ向かった。
「どうかしたのですか…っん!?」
部屋のリビングに入って秋山に声をかけると同時に彼が善条に、キスをしてきた。いつもとは違う性急なそれに眉を険しくさせる。すると、秋山は善条の頬に触れていた手をすとんと落とした。
「伏見さんに、押し倒されて…ッ」
そこで漸く善条は秋山の様子がおかしい理由を理解したのである。伏見といえば、善条からするとあまり良い印象を抱けない相手である。秋山の事を八田代わりとしていた所があり、今もそれを強要してきたとなると、マイナスのイメージしかない。
「けれど、秋山くんはキスも触れる事もさせなかったのでしょう?」
「それは、そうですが…貴方に触れてもらう体ではなくなり、ぅんっ!っ、ぅ、!」
一度捨てられたからか、秋山は落ち込み出すと止まらない癖がある様で、善条がキスを先程、秋山がしてきたように すれば、彼は赤くなった顔で善条を見つめた。
「秋山くんが心配する事など何もない。貴方の心は綺麗なままだ」
例えば貴方がその伏見君と付き合っていたことは私からしたら不愉快であるが、私も過去には恋愛関係になったひとがいない訳ではないことは、私は申し訳なく思うのと同じ。出来るなら貴方だけを触れていたかった。
「つまり、今大切な人を想っているなら私はそれで構わないという事です」
何なら、今から私がどれだけ貴方を大切に想っているか、体に伝えましょうか。そえ、低く艶のある声で秋山の耳元に囁かれては、秋山に抗う術はなく、その夜は沢山の愛の言葉と熱を与えられたのである。
翌日は、互いに申請してきた休日だったが、半日秋山はベッドの上で過ごす事になった。怪我によるものではない、愛しい痛みに布団を被り微笑んだ。
出勤日の朝、秋山の元に伏見が近寄ってきた。じろりと秋山を見て彼はポツリとあの日の事は無かったことにすると告げてきた。
「は…」
「あんた、自分の背中に凄えもんつけてるんだな」
その言葉に瞬時に秋山は顔を茹で蛸の様に赤くしてすみません、と呟くしか無かった。
「その人に、愛されて良かったんじゃねーの?」
そう呟いた彼の声は、少し嬉しそうで秋山は、はいと返事をしたのだった。
愛されてる証
end
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