※文スト【腐】
※捏造
※軍人パロ
ヨコハマにはいくつかの階層が存在する。全ての権限を有する王権、彼らの権限の決まり事を提示していた貴族、防衛に関して権利を有する軍人、取引をしていく商人、彼らに雇われる平人。彼らは、王権によって階層に準じた暮らしを保護されており、営んでいた。ヨコハマは、高い石垣の塀が築かれていた。その外には、一部の人間にしか知られない階層が存在していた。彼らには何の保護はない。貧民。彼らは、地下街、芥町、はきだめと言われる地域に暮らしていた。多くははきだめに存在し、空気が汚く、肺に病を抱える事になるが、訳ありの人物が行き着く最終地点であった。さて、その場所に王権直属部隊、ポートの幹部・尾崎紅葉は来ていた。確かに、こんな所にいればすぐに病んでしまう。(小さな童では永くはもたぬであろう)片隅にいる兄妹に声を掛けようとした時、近くに落ちていた枯枝が紅葉の眼前に迫っていた。なるほど。彼の噂は誠であったか。黒い牙。巷で話題になる狂気を持つ少年。だが、紅葉の眼前にあった枯枝は2つに折れていた。異能力の金色夜叉の力によるものだと、理解したのか少年は沈黙した。
「私は王権直属部隊、ポート幹部尾崎紅葉。貴殿をポートに勧誘に来た。」
勧誘、それははきだめからの脱出方法である。妹を思ってだろうか、こくりと頷き少年は、手を伸ばした。彼の手は枯枝の様な細さで紅葉は胸が痛んだ。車の中で彼は色々話した。彼、名を芥川と言うー、は妹を守るために色々してきたのだと言う。それは、紅葉が今まで辿ってきた道に通じるものがあった。紅葉は、家が傾いた商人の娘であった。父は早くに病気で亡くして母が切り盛りしていた。その母が病に倒れ、薬を得る為に体を売った。医師から薬を貰い家に帰る道に小さな花が咲いていた。花が好きな花を紅葉は取り、家に戻った。母は、自ら命を絶っていた。その行為を芥川もしたのだと言う。紅葉は胸が痛くなり、芥川の頭を撫でて、抱き寄せた。ぐす、という鼻をすする音に更に辛くなって優しく頭を撫でたのである。そして、妹も、芥川もポートに組み込まれる事になった。
「これが黒い牙かい?随分小さいね」
王権直属部隊、ポートの隊長である森は、芥川を見、目を丸くしてそう言った。年を聞けば、芥川は10、と言うものだから森は溜息をつき、紅葉に彼が構成員並になるまで面倒を見る様にと命令を下したのである。
「おい、太宰そんな所で立って何やってんだ」
通路に立つ太宰、苛つく事に彼は同期なのだ、彼に中原は声をかけるとニヤリと笑った。作戦が成功した時の笑いだ。
「帽子置き場には教えよう。貧民地区のはきだめにね、黒い牙と呼ばれる男がいるらしくてね」
「…、お前」
「森さんに話して、紅葉姐さんに連れて来て貰ったのさ」
でもね、体が小さすぎて盾にもならないので彼女の所で預かる事になったから、 中也は会うかもしれない。そう笑って太宰は立ち去った。はきだめは入ったら出る事は不可能の地区だ。出る方法の1つに武力を認められて勧誘されることがある。今回、奴さんはそれに叶ったらしい。そのやり取りを中原は思い出しながら、紅葉の部屋に向かっていた。地方の任務から帰還して報告のために赴いた先で彼女から芥川と彼の妹を紹介された。小柄だが、11らしい。中原と少ししか違わないのに、体は細い。貧民地区のはきだめで肺を病んでしまったらしい。小さいままなのだと言う。
「俺は中原中也だ。何かあれば相談してくれ。」
差し伸べた手を握り返して来た芥川の手は本当に小さくてこの体で妹を必死に守ってきたのだろうと思った。それから、中原は何度か芥川と話をした。無花果が好きな事。お茶について詳しくなった事。体の細い彼に中原は、護身術をいくつか教えた。すると同じ型を何度も練習していた。真面目な奴だなと弟の様な気がして悪い気はしなかった。太宰にその話をした翌週、紅葉から彼の教育係が太宰に決まったと知らされたのであった。
「芥川の奴に体が細いなりの護身術を教えたらずっと練習してる。真面目な奴になんだろうよ」
その話を森にした翌週に太宰は彼の教育係をする様に言われた。体は小柄だが、俊敏性があるらしい。いくつか武器の使い方を教えてやると練習している。慣れた頃に下級構成員と戦わせてみた。
「ガキにはまだ早いんだよ!」
「、ぁぁぁぁっ!」
倒されても何とか勝とうとしている狂気じみた気迫に太宰は笑みを浮かべた。これは面白い。彼の、気迫が強くなれば戦わずして済む。最強の先鋒になる可能性だって。どうやって、彼の狂気を引き出すか、太宰は考えて教育方法を折檻の様にキツイものに変えた。やはり、身内や、気を許した相手を引き合いに出すと強い気迫にがある。そうやっていると、怒号が入り込んできた。
「やめろ、太宰!やりすぎだ!」
拷問部屋で訓練をしているのだと聞いて中原は様子を見に向った。その先では、太宰に殴られ蹴られて襤褸襤褸になっている芥川の姿であった。制止しても太宰は意に介した様子もなく更に殴って、彼が気絶をすると後は頼んだよと去って行く。その後姿を中原は苦虫を噛んだ様に見ていた。やはり芥川の体は軽かった。
「龍之介!?どうしたのじゃ、これは」
紅葉が芥川と、彼の妹にと与えた部屋に紅葉は様子見と茶菓子を持ってよくやって来る。今回も、その様であったが、現れた芥川の様子に顔を険しくさせたが中原が教育係のやり方らしいと言えば、彼女はそうかと呟いた。太宰は幹部に近く、森から一番信頼されていた。強く出れない相手だ。
太宰からの指導により意識を失っていた芥川が目を覚ました。その間に治療を済ませた中原が紅葉が悲しんでいたと伝えたが、太宰のあの言葉が脳裏に蘇っていた。【毒でも入れて紅葉姐さんを殺したら君はどの位怒るのかなぁ?】彼女達のためなら芥川はどんな事にも耐えれると思ったのである。そうして、太宰の教育を受けて一年が経過していた。銀も与えられた仕事の関係で一人暮らしを始めて芥川も全てを1人でこなす事になっていた。
「財を肥やしている商人がいるという話があってね。その確認を太宰くん頼めるかな」
早い話が潜入だ。太宰は商人の振りをして彼らの言う店へ足を踏み入れて商品を見ていた時だ。ねぇ、と声を掛けられて太宰は顔を上げた。黒い髪の青年がにこにことしながら太宰を見ていた。
「僕は人を探しているんだけど、君、手伝ってくれない?」
辺りを見まわそうとすると青年は他の人には皆んな断られちゃったのさ、と答える。異能力か、と太宰は青年を見る。
「あの、」
「あぁ、僕は江戸川乱歩。探し人を手伝ってくれるお礼に、君のしている事は確証があるから間違いないよ。」
にっこり笑う乱歩の言葉に太宰は探し人の特徴を聞いて辺りを見回し、見つける。しかし、相手が問題であった。あれは、見間違いでなければ、王権直属部隊の武装の隊長ではないか。乱歩を見ると彼はごめんね、と笑った。
「騙して済まない。だが、君なら分かるかと思ったのだよ。太宰、我等のところへ来て欲しい。」
話し合いによる解決を基本にしている武装と太宰の行動は合っていると思うのだと言う福沢の言葉に脳裏に過る親友の最期の言葉。お前は、こんな所じゃない人の為に動くのがいい。数日前に死亡した織田の言葉に太宰は差し出された手を握り返していた。
「彼は、この組織を抜けたのだろうね。だが、情報は一切持ち出されていないから、彼を追うのは無駄さ。きっと、また出てくる。」
太宰が失踪して、追いかけようとする構成員に森はそう告げた。ほとんどの者がその言葉で行方を探そうとするのを止めた。森はこうなるのを予知していたようであった。一方、太宰に認められることが紅葉たちへの礼になると厳しい訓練に耐えていた芥川は空虚を感じていた。芥川は、部屋にある彼から与えられた外套を手に、掴んだ。
「中原さん」
「銀か。兄貴に会いに行くのか?」
沈みがちな芥川の元へと向かう途中、彼の妹である銀に声を掛けられて一緒に向かう。彼女は1人で暮らすようになってから時々兄の様子を見に行くらしく、今日もその予定だった。しかし、部屋に近づくにつれ、異様な空気を感じながらお互いに足を速めた。
「ヴッ…」
マズイ。意識が誰かに操られそうになりながらも、芥川は必死に争うかのように体を丸めていた。外套を身につけた途端に、外套がゆらりと動いた。バタン、と開いたドアの向こう、中原が銀に何かを言っているのに意識が切れていくのを感じた。
今日はついていない、お気に入りにしていた茶碗が割れた。胸騒ぎがやまない。
「紅葉さん、来て下さい!」
あゝ、やはり。銀の血相を変えた表情に目の前の現実に、紅葉はため息を吐き出したのであった。そして、中原を見ると彼も信じ難い表情をしていた。芥川龍之介は異能力者であるという事は森にとっては有益だった。紅葉と中原に芥川の能力の精度を高めることを言い渡し、以後の任務以外の時間は彼の訓練に当てられた。そうして、試験的に中原と芥川が任務についた。任務は、王権の1人を狙った組織の武力制圧。結果として、予想以上の働きをしたらしく森は満足だったのだろう、以後の任務には芥川と一緒に駆り出された。最も、芥川は突っ走る癖があるのでそれを止める役目があるのであろうと中原は思っていた。太宰が行方を消して一年が経過しようとしていた。武装に入った太宰にも中島という部下が出来、交渉事においては、悪くない評判にやはり此処に来て正解だったと認識した。武装には情報収集に長けた人材がおり、様々な情報が入って来る。太宰が気になったのはポートの情報である。幹部である尾崎と中原の推薦で1人の構成員が隊長直属部隊の中に入ったという。その名前を見て、おや、と思った。通常隊長直属部隊の構成員というのは異能力を持つ者だ。それが、今回入ったのは太宰が引き込んだ芥川であった。いなくなってから何か変わったのだろう、と考えていた。貴族からの依頼も受ける武装と、王権からの依頼を多く受けるポートと何度か相対することがあった。その時に、芥川は直属部隊の1人として異能者として戦っていた。太宰は、笑った。面白い。尾崎が潜入しているのも何か関係あるのかもしれない。太宰は考え巡らせながらその場を離れた。
「財を不正に蓄えている貴族の取り締まりのために調べてきてくれるかい」
「分かったよ」
潜入と称し入り込んだ貴族の屋敷で、尾崎が取り調べの為徴収したのは、主人が書いていた日記である。パラリと捲ると顔を顰める。そして、部下として動いていた組織を捕まえたと報告に来た中原に手帳を渡し、部屋へ向かう。今回の取り調べは厳しくなりそうだと思いながら。
渡された日記は何処にでもありそうなものであったが、長く使い込まれていた。
《○月○日 中原家へ息子と挨拶へ。綾斗も、連れて行った。中原殿から助言を受けて綾斗を娯楽施設建設の担当に任せた。》
なるほど、中原の生家と親交がある家だったか。まぁ、中原の生家はこういった禁忌は犯さないだろう。身内だが、厳しく一週間に一度は調べている。綾斗、という名前に引っかかりを感じながら読み進める。
《○月○日 娯楽施設の商人に、古くからの友人の紹介でやって来た女性を使う。紗矢という、真面目な彫刻もできれば、仕入れもする、出来た女性だ。》
紗矢と綾斗。思い出した。
「そういう奴らかよ」
建設途中の、娯楽施設の一室で絡み合う男女の姿が中原の脳裏に浮かんだ。男が女を紗矢と、呼び、女は綾斗さんと制止していた。思えばあれが情事であった。涙を零し、逃れようとするも男の力で押し込まれビクビクと痙攣を起こしたように震える女性に男は笑っていた。顔をしかめながら次の頁を捲る。
《○月○日 綾斗にやっと妻が決まった。最近、綾斗は紗矢の事を気にしてばかりいる。》
一枚の紙切れが挟んであるのに中原が気づき、開く。後で挟んだらしく色が白い。其処には紗矢と綾斗がどうゆう事で至ったのか書き記されているようだった。
紗矢は、商人の出であり、病弱な両親の為仕事を掛け持ちしていた。そのうちの1つが彫刻であったらしい。綾斗は彼女に商人だと近づいた、と書いてある所まで読んで顔を顰めた。
「中原さん、どうかしましたか」
「悪い、気付かなかった。紅葉姐さんの取り調べ終わったか」
「終わりましたが、意識を失っているので明日以降になるかと」
そこで、芥川は中原の見ているものを見てあ、という顔をした。紗矢というのは僕と妹の銀の母親ですと呟いた。
「…なに?」
「今回の捕縛対象は彼等でしたか。彼女は、真面目な人物でしたが、父親の男綾斗は違いました。彼女に同じ商人だと近づいたものの、進展しない関係に薬を使って関係を作りました。その後もなし崩しに。結果生まれたのが僕と銀です。」
「そうか、」
「契約は打ち切られ、綾斗も貴族層では特例で別の家に追いやられたと。一度だけ、貴族に施しを受けたものの我等ははきだめへ流れ着き母は肺を病み死にました、」
「墓もないし、悔しいもんだな」
はきだめに墓は存在しない。ただ、土に還るだけだ。だから、仲間は死人の身につけていた何かを身につけていたりする。芥川もそうなのだろう、と中原が考えていると彼は懐から小さな木の箱を取り出した。
「形見として、彼女の作った木箱を持っています。」
細かな彫刻のそれは中原が知っているものだ。ハッとして引き出しから取り出すそれは、芥川と同じものだった。
「何度か倒れてる奴に飯を分けたんだ。礼にって押し付けられたんだが、お前の母親だったんだな」
「彼女は酷く嬉しそうに感謝していました。僕も、貴方にずっと助けられていたのですね」
そう言う、芥川の頬が赤く染まりそっと笑みを浮かべた。
その後、取り調べを受けた男の口から関係している貴族の名が告げられ、一掃作戦が決行された。その功績から、暫しの休息を森から三名は言い渡された。そんな中である。元、ポートにいた幹部の太宰は勝手知ったるとばかりに目的地の部屋に到着する。引き込むために、出向いたのだからいい返事があるだろうと踏んで。ノックもせずに開いた芥川の部屋には彼がいた。
「なっ、」
「やぁ、久しぶり。中也がいたのは計算外だけどね。芥川くん。ウチに来ないかい。君の能力が必要なんだ」
求められる事は命を繋いでくれた彼等への礼になると考えている芥川に迷いが生じていた時だった。
「芥川は俺たちの仲間だ」
引き寄せられて安心したのを太宰が目を見開いて見た。
「やはり、貴方にはついていけない。」
「…そうかい。強くなったね」
砂色の外套が小さくなるのを見たのを最後に彼を見かける事は無くなった。その代わりに、中原とは好い仲になった。言葉発しなくても互いの状態を理解するようになった。そっと、握り締めた手が力強く握り返されて、芥川は口元に笑みを浮かべて一歩を踏み出した。
ここが、生きる場所だ。
生きる証
end
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