※捏造
※織田と芥川
※微裏
※文スト
未来を見るのは自分だけとは思っていないが、真逆相手も同じ手の人間とはと織田は薄れ行く意識の中思う。向こうも倒れた音がしたから相討ちだろう、安心したからか意識が朦朧とする。もう、何も感じない。終わりかなぁでも空の風景を見ていたいと目を開ける。血で赤く染まる視界に何も見えない。誰かが近寄る足音の空気の振動が伝わった。だが起き上がる気力は最早残されていなかった。気を失う寸前、太宰の弟子の声がした気がした。
太宰を追って、彷徨っていたら、親友だという織田が血溜まりの中で倒れていた。向かいには敵らしき人物が肉塊のように動かなくなっている。それはつまり相討ちか。近づいても織田は動かない。今なら誰もいない。この男を殺しても、と思うと芥川の身に纏う外套がしゅるりと形を形成し獣が現れる。彼がいなければ自分を見てくれる。だが、男の喉元迄に近付いた牙が太宰の織田との楽しい会話に笑みを浮かべる彼を思い描くとそれ以上、動かすのは出来なかった。芥川は慣れた動きで携帯を操作し、中原に指示を仰いだ。時々、仕事を放棄して彷徨う太宰の相棒である中原には何度か芥川は面識があった。数分もしないうちに数人の部下を引き連れてやって来た中原は現状を直ぐに把握し、織田を運ぶ様に指示したのである。それから、仕事が舞い込む様になり芥川は任務に勤しんだ。だからだろうか、師である太宰とは中々会う時間がなかった。1ヶ月の後の事だ。何とか仕事に区切りがつき、太宰に訓練をして欲しくて向かうと其処には何も残されていなかった。まるで今までもそうであったかの様に。1ヶ月の間に彼の捜索部隊が結成されたがそれを経過すると森はそれを解いた。これ以上は無理であり労力の無駄だと判断したのだろう。何所かに潜んでいるのだろう、森はそう呟いた。
「君に頼みがあるんだ。」
坂口安吾に、太宰はとある頼みをしに赴いていた。親友の最期の願いを叶えるために。すると坂口は渋い顔をしたものの、受けた。
「けれど太宰さん。貴方の弟子は良いんですか」
全身が黒い襤褸の少年が太宰の頭を過ぎった。だが、今は己の身を、隠すだけでも擦れ擦れの時だ。余計な事にはとてもではないが手を差し伸べる余裕など無い。一応は多少は生き抜く術を教えたつもりだ。敢えて厳しくしたのはいつか一人であの世界の中を歩んでいくためだ。今はまだその意味を知らないだろうが。この闇の世界を生きていくのは今の状態だけでは難しいのを身をもって経験するだろう。
「今は無理なんだ。暫くなら大丈夫なハズさ」
そう言った太宰を安吾は複雑そうな表情を浮かべたが追求することはしなかった。きっと太宰の考えを組んでくれたのだろう。そうして、太宰は一年の潜伏期間を経て、探偵社の存在を知りその社員へとなる。その間の情報だけは上手く仕入れていた。教え子が指名手配犯となった事には生きているのかと思った。
ポートマフィアでは意識を失っていた織田が意識を戻し、目を覚ました事で騒ぎになっていた。森は今までの情報を教えた。だが、太宰の事は多少は驚きがあったらしかったが、彼は何も言わなかった。暫くは休養したが、任務に就く事になり、数名の相手と組んで任務を行う事になった。その中で、太宰の相棒や弟子とも組んだ。その中原に飲みに誘われた事のことである。
「芥川はいないのか?」
問われた中原は直ぐにさぁな、と答える。中原曰く仕事のない時間以外を太宰を見つけ出す事にかけているのだと言う。中原は彼奴は見捨てられた哀れな狗なんだ、けどいつかという希望を捨てる事を出来ずにいるのさ。その日飲んだ酒は酷く苦かった。それから1ヶ月。報告書を見ていた森は笑みを浮かべた。決めた、と言う事に呼ばれた芥川と織田は森の言葉を待つ。少し未来が見えた織田は息を吐き出す。
「報告書から君達2人が一番効率がいい。故に、今を持って2人の任務を命じるよ」
その言葉に呆然とするも、芥川はこくりと頷いて、それがいいと思うなら僕は従うまでですと答えたのである。
「その答えは悪くないね」
この日より2人の日々が始まったのである。まず一緒に行動して見て困ったのが食事である。仕事の帰りに食事でもと誘えばギョロリとしてそれは、命令かと聞いてくるのである。そして何とか食事させても殆ど食べないのである。困った。師である太宰は食事について何も言わなかったのであろうか。彼の異能力羅生門は食べた物を糧として動いているのではと思ってしまうほど芥川の体は細いままであった。見ていられなくなった織田は彼と一緒に住むことにした。その中で色々な事を知った。例えば隠しているかもしれないが彼は甘味が好きだ。無花果を渡すと少しだけ表情が和らぐのは嬉しい事だと最近気づいた。
探偵社に入って、新たな社員が入った。太宰はこのヨコハマで生きる術を教える国木田の持つ写真に空を見やる。嘗て出来損ないであったそれが、今や指名手配の凶悪犯か。ヨコハマで働く軍警で知らぬ者はいないだろう。きっと、近くこの社員である中島に接触をしてくる。彼の月下獣は特異だ。特異は影の人間に好まれる。探偵社にやって来たのはポートマフィアの女性だ。太宰は足を向けた。口説く振りをして彼女の動きを盗聴していた時だった。ハッとして太宰は走り出した。有り得ない声がした。
「芥川、あまりやり過ぎるな」
「善処はするとだけ答えておこう」
月下獣である人虎を捕らえよと命令を受けて芥川が出向き、反撃を受けた事に笑みを浮かべると後ろから織田の声がする。羅生門を展開し、戦おうかとした時だった。異能力が消えた。そうなるのは異能力の無効化の力を持つ、異能力者だけだ。それを持つ者は芥川の知る中では太宰しかいなかった。しかし、驚きは大きくなかった。太宰の方は、織田がいるのに驚いていた様だった。だが、目的が人虎だと知ると好戦的な笑みを浮かべた。
「君ともやってみたかったんだよね、私。織田作。」
「冗談じゃない。お前の能力では勝負にならんし、俺は友とはやり合わない。それにまた会う事になりそうだしな」
ため息をついたのは、見えてしまった未来からなのか、そうなるだろうと考えた流れからなのか。芥川には判断がつかなかった。確かに、太宰と織田は再び会う事になった。ワザと太宰が捕まったふりをして、芥川を怒らせた。そしてその後にやって来た元相棒である中原に怒りのふりをして情報を提供させて貰った。中原は幹部であり部下からの信頼もあつく、異能力の能力幅も広い。幹部になるのは時間の問題であろうと、幹部の時代、太宰は考えていたが相変わらず怒りになると情報を簡単に提供してしまう癖は相変わらずでホッとしてからかってやった。その後である。流石に元々居た場所なので部屋の位置は頭に入っている。人虎の情報だけ見てしまおうと書類を手にした時背後に人の気配がした。振り向くと織田が立っていた。彼はやっぱり会う事になったな、と呟いた。
「1つ、良いかな。何故ポートマフィアにいるの。」
姿も考えさえもポートマフィアにそぐわないこの男は普通の暮らしが良い。ポートマフィアを抜けるのは簡単ではないが、できない事ではないのだ。すると、織田は少しだけ考える仕草をし、苦笑しながら守るものがあるからかなと、言ったのである。それは太宰の中で大きな疑問を抱かせた。そうしていく中で人虎の売買などの一連の事件は中島敦の活躍により幕を閉じたのである。探偵社はそれから少し平穏であったが、ポートマフィアは騒がしくなった。芥川があわや死んでいたのかもしれないという所まで行ったが、部下達の起点で何とか乗り切った。その事を後から別件で離れていた織田は聞いてホッとした。やっと起きあがれる様になった芥川に話を聞きながら織田は言いようのない感情の正体に気付いてしまった。ポートマフィアという組織に、闇に身を置いている以上、いつ死んでもおかしくないのは理解している。なのに、芥川に死の危険が迫ったと知った時恐怖だった。悲しくなったのだ。芥川を前に、織田は気付けば想いをポロリと零していた。
「好きだ」
「…貴様の補佐は悪くないと僕は思うが」
「…付き合ってほしいんだが」
そっと肩を抱き寄せてやるが彼の異能力である黒獣が反撃してくる未来は見えなかったのでホッとしながら芥川がそっと寄せてくる体温に織田はそっと笑みを浮かべた。まだ傷も癒えていない芥川は森からの仕事に向かう。呪いと称したそっと寄せた唇の意味をきっと芥川は知らないだろう。
「必ず帰って来てくれ」
その言葉はかつての芥川になら只の言葉の羅列でしかなかった。しかし、織田と暮らし始めた今はその言葉が意味を持ちその気持ちを芥川に伝えてくるのだと知った。それが少しこそばゆい。組合との戦いを経て、師である太宰から認めてもらえて倒れている芥川の視界に倒れている彼を回収に来た織田がいる。その織田の温もりがただ欲しかった。ただ、抱きしめてくれるだけで幸せで、暖かい。その温もりが欲しかったのだと芥川は理解した。それが、人を想う気持ちなのだと。組合との戦いを経て芥川は気持ちにも一区切りがついたのだと思った。協定を組む探偵社から調べて欲しいという依頼を受けて織田と共に情報収集していると織田から話があるんだが、と言われる。真剣な表情に芥川の心臓がドクリと嫌な音を立てる。息を吸い込もうとしてヒュッと肺に空気が入り、咳き込む。織田が心配そうに背中をさすってくれる、その手を掴みつい言ってしまった。僕を捨てるのかと。ずっと見捨てられてばかりの芥川にとって取り残される事は心に傷を与えるものだ。それは恐怖だった。だが、織田は捨てたりなんかしないよと言ったのである。探偵社による依頼が解決した夜のことだ。一緒に暮らす様になった部屋で織田は触りたいんだがと言ってきた。別に構わないと芥川が答えると彼は「俺は恋愛感情をもって触るが大丈夫か」と聞いてきた。
「お前の熱は僕にとって希望だ」
あまり多くを語らない芥川の言葉の中でそれはとても熱い情が入っていたのに織田は気付いた。そして、彼を抱きしめてそっと唇を重ねた。仕事に行く前でもない、その意味に気づくだろうかと、彼を見るとそこには白い肌を赤く染めてその意味を噛み締めるように頷く姿があった。それで十分だった。いつまでも細い体がここまで劣情を誘うとは予想以上の破壊力に理性を総動員させて印を刻み込む。この闇社会に身を置いている以上、稚児や男色とかそういう事があるのを知っているはずだ。だからきっと知っていての動きだ。
「ん、んぅ、ぁ」
「…あく、たがわ、すきだ、愛してる」
すべてを暴いて愛を囁いた。その行為に芥川は一度も拒否をしなかった。いつだって嫌な事や恐怖に対しては攻撃をするという拒否反応がある。それはかつての師である彼の指導のたまもの、であろうか。ぐずぐずになるまで、必要以上に潤んだそこに怒張を入れる。
「あぁ!ん、ぅぅ」
「痛いな、ごめん」
「いやじゃ、ない」
「ありがとう」
強がって先を進める彼の優しさに微笑んでゆるりと腰を揺らすと高い声が上がった。それが益々鳴かせたくなる。残虐性を持ち合わせていたなんてと内心驚く。狭く熱いそこに織田は何度も熱を、形を覚える様にと動いた。そして、視界が白く染まって織田は芥川の中に撒き散らしていた。
「骨抜きってこんな感じなのかもしれんな」
「嫌、なのか」
「いや、大歓迎さ」
翌日の朝、寝所で微睡む芥川にそう囁いて昨夜の延長線上の様に愛を囁く。組合の件からしばしの休暇が与えられたのもありがたい事であった。そうして芥川の傷が癒えた頃に幹部の1人であったAが自殺した騒ぎがあった。それは自殺に見せかけた殺害、だと誰しもー森も尾崎も知っていた。その頃に織田は太宰からかつて馴染みで行っていた酒屋に呼び出された。Aの事をすぐに知ったからだろうか。何かあってもおかしくない、だから互いに気をつけろという事だった。太宰も、織田は最下級の構成人員だ。だが、太宰には親友だ。だから、という事だった。その忠告に織田はありがとうと、返す。
「芥川くんは元気?」
「ああ、傷も大分癒えて今は訓練をしている」
その言葉にホッとした様子の太宰は芥川が好きだと告げてきた。織田に言ってくる辺り、知っているのだろう。その目は好戦的だ。
「そうか。だけど、俺も好きだ。彼もその心に答えてくれた。答えてくれている限りは俺は彼を手放す事は出来ない」
そう告げて出て行く織田を太宰は追ってくる事はなかった。織田はその足で芥川と暮らす部屋へ向かう。
「おかえり、なさい」
帰ってきた織田に対しての言葉に織田はただいま、と返事をし芥川を抱きしめようと足を進めたのであった。
ただいま、おかえり。
END
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