※文スト【腐】
※中原と芥川
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最年少幹部となった日に、己の配下として捕まえた暴力的な異能を持つ少年を己のものにした、太宰は幹部なんてと思った。マフィアの幹部という肩書きだけで女が寄って来る。実力を兼ね備えた人物ならば良いだろう。だが、飾物かと見紛う程の女は不必要だ。大体女は面倒だ。やれ、やったやらない、妊娠したとか云々。そんな後からの処理に追われるものじゃないもの、痛めつけても言われない。それは、己で拾った配下の芥川龍之介であった。元から、折檻で痛めつけていたから太宰の良心は痛まない。酒を飲んで、側にいた芥川の体を簡易式の寝床に押し倒して、体を開いた。無論、其処に愛情はない。
「おい、太宰。手前が拾ってきた餓鬼、あれ、もう少しマシに扱えないのか」
拷問室に、芥川を放置し、戻ってきた時に中原から言われた言葉に太宰は眉を潜めた。自分の所有物をどう扱おうが文句を言われる筋合いなどないではないか。
「帽子置き場には分からないだろうけど、あれがあってるのさ。」
現に少しずつ彼は戦歴を出している。文句を言われるなんて。
「ちっ、壊すなよ。」
それだけ言うと、中原は肩を怒らせて去って行く。
「っ、あぅ、」
身体に与えられる痛みと熱に芥川は混乱した。いつもは痛みだけなのに。太宰が吐き出した白濁とした熱に芥川は盛大に腹を下しゲホゲホと苦しく咳をした。なぜ、こんな事を。そう考えながら拷問の部屋から出て自室へよたよたと歩いていると大丈夫かと支えてくれる声がした。
「な、かはらさん」
「太宰か?ったく、あの野郎自分の部下だろうに…待ってろ、今誰か呼ぶ…」
「、大丈夫です。それより、中原さん。教えて欲しい事があるのです。」
太宰に迷惑は掛けられないとかそんな事を考えているのだろうと中原は芥川を見ながら思う。そんな彼が中原に教えを乞うとは。
「人は抱く事で何を意味するのですか。」
「あ、?…そりゃあ、相手の事を大切に思う表現の一つだからな。好きとか大切とか確認する意味があるんじゃねぇの。」
つか、お前がそんな質問するとはね、と中原は驚いてみせる。対して芥川は僕も人並みの営みに疑問を抱くものです。そう答えて感情の表現以外は少しずつ人になっているのかと安心したのである。
好きな人と、するものだ。その言葉は芥川に恋慕の感情を認識させるのに十分であった。どんなに折檻で傷付いても少なからず好いている感情を持つのだと思えば然程辛くなかった。
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織田が、死んだ。太宰のマフィアの中での理解者であり、親友であった彼が消えた。最後の言葉に、太宰は迷う素振りなくマフィアを抜けようと決めた。決めれば行動は早かった。独断行動の多い、殺戮ばかりの部下に折檻をし、その直後に彼を冷たい床に押し倒し、その身に己の熱を吐き散らした。今までに無い、酷い扱いだったなぁ、と太宰は思う。無意識に、去る事を教えるような。彼は置いていく。けれど、落ち着いたら、また処理をさせるつもりであった。彼は、ずっと己のものだ。そう、考えていた。そして太宰は地下街に潜み、経歴が消えるのをひたすら待ち続けたのである。
「うぁ、が、ぁっ」
いつもは、酒が入ってからだったのにこの日ばかりは素面であった。その分、芥川に与える痛覚は酷く激しかった。意識が朦朧とする中、太宰が芥川の耳元で囁く言葉は呪いのように深く染み込んだ。
「君は、僕の支配下にあるものだ。この行為に愛は存在しない。」
誰かから余計な知識を吹き込まれたようだけど、それは私達には当てはまらない事柄だと認識し給え。そう言って太宰は芥川を酷く扱った。そのまま、芥川は意識を失って倒れた。太宰が失踪したのを理解したのは、気絶した芥川を見つけた中原によってであった。
中原は、森から太宰が失踪したと聞かされここ最近の奇行に納得が行った。最も殆ど分からない程度であったが。それから、彼の置いて行った部下を中原に付けるとも、聞いた。何度か見かける事はあっても実際話をするのはこれが初めてだった。
「太宰がマフィアを抜けた。お前は暫く俺の下についてもらう。」
淡々と事実を告げていると、黒い瞳がゆらりと揺れた。そして、胸元を抑えた。声を出していないらしい喉が震えた。
「胸が苦しい、これは何ですか」
「それはな、悲しい感情さ。太宰が消えてお前は悲しさを覚えたんだ。」
これが、悲しい。そう呟いて芥川は噛み締めているようであった。部下となった芥川の風呂嫌いは中原も頭を抱えた。浴室に押し込めば、烏の行水よろしく、早いのだ。流石に鉄臭い匂いは我慢ならなかった。吃驚している彼を脱がせようとして、中原は目を見開いた。芥川の身体に無数の痣が点在していた。打撲とは違う小さな痣は色事のものだ。それだけで、太宰が芥川に行って来たことが分かった。折檻だけでは飽き足らず、そこまで。辛かったろう、と優しく撫でてやれば驚いていた。今の所中原の目標は、芥川が優しさについて受け入れる事である。それまでは、守ってやろうと決めたのだ。
「暫くは、表に出ない方がいいかも知れませんね」
安吾らしい言葉に太宰は地下街へと潜り、世の中の情勢を探る。その中で居酒屋で聞いた言葉にピクリと太宰は意識を向けた。
「ポートマフィアの中原に新しい部下出来たなぁ。」
「芥川、だろう?彼はきっと近い内に役職を与えられるんじゃ無いか?」
だろうなぁ、なんて情報交換をしている彼らに、太宰はいらっとした。彼の子は私のものなのに、私以外の配下に付いているなんて許せない。彼らの情報なんて直ぐに拾える。此処を通るのだと知っていて待ち伏せをした。睨んだ通り彼はやって来た。これから、中也に報告?それとも可愛がってもらう?そう言いながらやめて下さいと拒否の言葉を連ねる彼を太宰は気がすむまで犯した。
「すみません、遅れました…ッ、報告ですが、」
芥川1人に任せた敵の殲滅。殲滅や掃討作戦に彼は大活躍する。その暴力的な異能は首領にも重宝されているのだった。そして、戻って来た芥川は歯切れの悪い反応で報告を始めようとする。何かあったのは明白だ。中原がどうした、と聞こうとして鼻についた青臭い匂いに、外套を取った。腹に、赤紫の情痕。
「破落戸にでもやられたか。」
「だ、ざいさんが…ッ」
畜生、またか。中原は震える芥川の細い体をそっと抱き寄せて背中を撫でる。震えが少しずつ緩やかになるのを確認し、ホッとする。助けてやれる環境にしてきた筈なのに。何も助けてやれない。自分が腹立たしかった。
「破落戸にでもやられたか。」
そう言って来た中原の温もりが、心地よかった。こんな風に思うのは初めての事であった。彼から与えられる優しさが嬉しいと感じていた。これが、好きなのかと思った。
「僕は中原さんが与えてくれる優しさが好きです」
「そうかい。俺も、お前が好きだ。」
そっと、触れてくる皮手袋越しに熱を感じて瞼を閉じると唇に触れる熱が酷く心地よくて強請るように首に腕を回した。
「太宰は、壊したんだね。元に戻らない。」
探偵社に入ってすぐ、古参の江戸川に気に入っていた子の事を話したらそう言われた。壊してもいいと思った。だって、拾ったのは己だ。それなのに、他の人の配下になっているなんてそれこそ許せない。わざと捕まって連れてこられたのは懐かしい拷問部屋。此処は、防音施設。加えて言うなら、太宰自身の異能は能力無効化。芥川が一瞬怯んだ隙に、押し倒した。
「君はただ、私を受け入れてればいい。」
「やだ、止めろ…ッ!」
ガツンと、腹に鋭い蹴りを喰らって太宰が驚いている一瞬に芥川は体勢を整えて沙汰が下されると言い残し、去っていった。様子を伺っていると、中原が太宰の前に現れた。顔を顰めた太宰に中原は戦闘を申し込んだ。結果的には太宰の良いように扱われた中原であったが、ニヤリと口角を上げてお前に伝えておいてやると告げた。
「芥川と好い仲だ。」
その後のことはあまり記憶にない太宰はノートの切れ端にペンを走らせた。私が間違ってたのかもしれない。そう言葉にしても応える声はない。砂色の外套を揺らしてその場を立ち去った。
「ン?」
人虎捕獲作戦の後、芥川の損傷も兼ねて、関係構成員に休暇が与えられた。その中で中原は芥川と過ごそうとマンションにやって来ていた。その中原の暮らすマンションに、一枚の紙切れが扉に挟まっていた。気付いた中原が拾い上げて紙切れを捲ると、数行の文字が。その文字に中原は口角を上げた。
「もうあげねぇよ?」
誰に言うともなく呟いた。足を向けた先には芥川がのそりと身を起こしていた。
「、中原さん?」
なんでもねぇ、そう言ってそっと頬を包み込んで互いの顔を近づけたのであった。
たいせつなもの
end
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