※捏造
※文スト【腐】
※太宰と芥川
その日、太宰はいつもの様に酒場の通りで小柄な女性と一夜を共にしたと記憶している。なのに、目を覚ませば隣にいるのは何時までもポンコツな部下の芥川である。衣服を着ているので着せたりとかはしなくていいのだろうが。太宰は頭を抱えた。取り敢えず頭を冷やそう。そう考えて、水場へと足を向けて部屋に戻ろうと思った時、ポケットに入っていた携帯が鳴った。この何とも言えない気分の切り替えには丁度いい。中也だったらからかってやろうとさえ考えながら、応対すれば相手は首領であった。話の内容は次の仕事。かれこれ半刻ほど話し、部屋に戻れば寝ていた筈の芥川の姿は其処には無くなっていた。今度顔を合わせた時に謝罪しなければと考えて太宰は支度を整えた。そして首領の部屋に向かえば、森から掃討作戦にて重宝する芥川を2、3日こちらで使うと言われ、太宰は拍子抜けしてしまう。森から言われた仕事は、交渉だった。思いの外事は簡単に運び、数日ぶりに芥川と会った。面した芥川に太宰が口を開こうとする前に芥川がすみません、と謝罪してきたのである。
「は?」
「前のこと。僕が酒に潰れていたのを介抱して下さったのに礼も言わず…申し訳ない」
「…あぁ、そうだったかな」
芥川は太宰には嘘はつかない。つけない。そんな目をしていた。彼は、あの日の事を覚えていない様だった。それから数週間。太宰は中原を揶揄い酒を飲んだ後、横にいた小柄な誰かの体を抱きしめて口を吸い愛を囁いた。アルコールは真面な判断力を太宰から奪っていった。初めての相手なのに、酷く懐かしい香りにハッとする。太宰の下には、部下である芥川が気を失っていた。自分は男女を抱いていたのか。それを見た瞬間、体の芯から熱が冷えて消える感覚と、衝撃に太宰は嫌な汗が流れるのを感じた。取り敢えず、湯を張って彼を入れてあげないといけないとその場を離れ、数分後戻った時にはその場にはいなかった。
命令を聞かず、独断で組織を壊滅させた芥川に太宰は折檻をして、その帰り、中原に話しかけられていた最中、芥川は意識を失った。強く揺さぶられ直ぐに意識を戻し、この事を他言しない様に中原に頼み、芥川は自室へ戻った。前回は盛大に腹を下したので、急いで体外へ出したかった。太宰が吐き出した体液を。芥川は、太宰が己を抱いている事を覚えていた。だが、彼は女性と心中したいと言っている。黙っていようと芥川は、覚えていないフリをした。
「おい、太宰!芥川の奴倒れたぞ。いい加減にしてやれ!」
芥川が倒れたという報告を聞いて太宰は芥川に宛てがっている部屋へ向かう。迷惑をかけた事に対する教育も含めて必要だと思いながら足を運んでいた。
「芥川君、倒れたんだっ…あれ?」
部屋には芥川の姿がない。辺りを見回し、奥の方から光が漏れているのにおや、と思う。あの部屋は浴室だ。芥川の嫌いな。毎回どうにかして浴室に行かないのに珍しい。そろそろと様子を伺う様に見て、太宰は固まった。浴室にいる裸身の芥川は、下肢から太宰の出した体液を掻き出していた。その様子が熱を帯びていて太宰は不思議にも一点に熱を感じる程に欲情していた。その日は、何とか踏みとどまることが出来た。だが、翌日高熱を出した芥川の太宰を出迎えた姿が無防備で、我慢が利かず、押し倒してしまった。意識がはっきりしているのに抱いたのはこれが初めてであった。
芥川は、上司に抱かれていた。高熱の朦朧とする意識の中でそれだけは覚えていた。男が抱かれる事に世の不条理を嘆く事は芥川はしない。かつて、己はその不条理の中にいて仲間を助けるために身を使って生きていた。太宰に拾われる頃はそれをする事は無かったので、彼には知られていない様だったが。己を抱く男は上司、きっと制欲処理なのだと理解した。それに不快もない。そういうものだと知っていた。汚れた体を触れる太宰が汚れていくのは申し訳ないと思った。
結論から言えば、悪くない。まさか、男でも悦ぶ部下にも驚いたが、突っ込んでしまった瞬間に、解放したくなった己の欲のだらしなさに幻滅した。それ以降だ。太宰が女を買っても下半身が機能しなくなったのは。最初に気づいて一瞬芥川の痴態を思い浮かべ、不能という不名誉な呼び名が与えられる事は回避したのである。そして、親友の織田作が死んだ夜。身体は興奮していた。芥川はこの日、遠征でいなかった。そろりと下肢に手を伸ばし、己の下にいて喘ぎ声を抑える芥川を思いだした瞬間、手に生温い馴染みのある液体が広がった事に太宰はから笑いをした。そして、この感情の正体に気づき乍、それを言葉にして芥川に伝える事は無かった。消える前の日、素直になれない太宰は優しく芥川を抱いたのを最後に姿を消した。
ここ最近の太宰の様子に、芥川は疑問を抱いていた。通常の任務においての教育はまだしも、褥で性欲処理として己を抱く彼の動きはひどく、熱を帯びていてまるで、恋人のような。己と太宰の間にはそんなものはない。感情が高ぶった時に相手をする、それだけの関係だと芥川は認識していた。口には出す勇気がなくて、芥川はただその熱に流されていた。これがずっと続くのだろうかと漠然と思い描いていたそれは、突然終わりを告げた。太宰が失踪し、ポートマフィアを抜けたのだ。少し前に彼の親友であった織田作之助がマフィアの抗争で命を落としてそれから彼は此処を抜ける準備を着々としていたらしい。彼に拾われて、彼に認めてもらうために様々な任務をこなしていた芥川は目標を失い、空虚な日々を埋める為に空っぽな感情に蓋をするように仕事を受け続けた。
「太宰が失踪?」
「そう。だけど、何も盗まれてない。彼は本当に抜けただけ。なんだけどね。中原くん。」
首領から話を聞いて相棒が失踪した事実にも驚いたが、彼は苦笑しながら彼の部下を止めてくれないかと言ってきた。彼の部下というと羅生門を操る芥川のことだろう。
「彼ずっと働き続けてるんだ。特にもう掃討作戦になるといの一番に乗り込んで全身襤褸襤褸になってるんだ。医療班の制止なんかあってもなくても同じくらいさ」
君ならなんとかできるんじゃないかなと思って、という首領の言葉に中原は彼にあてがわれている部屋を訪れた。黒い暗闇を再現したかのような瞳に一瞬ぞくりとしたものを感じたが、体のあちこちにある銃創の傷跡を消毒すると次第にそれは薄らいでいった。元来世話焼きな中原は事あるごとに芥川を構った。そうしていく内に彼を守りたいと思うようになったのだ。マフィアには男色もいるのでそういう偏見も気にしない中原であり、芥川と過ごす時間は増えていった。無表情だった彼の表情が時々綻ぶのを見て中原は嬉しく思った。
「中原さんが笑うと僕は安心します。」
「嬉しいって感情の1つだ。大事にしろよ、」
はい、と笑う芥川と関係を育てていけたらと思っていた矢先だ。奴が現れたのだ。
「太宰がねぇ。」
「太宰さんのことばかり考え、苦しいのです。」
「それは、お前が太宰を好いているからさ。」
だから、お前は伝えてこい。そう中原は芥川の背中を押した。きっと、2人は恋仲になるだろう。そう確信してのことだ。
「大切にしてやれよ。じゃねぇと、俺が奪う」
そう元相棒に忠告したのできっと、太宰は過去の様に芥川を雑には扱わぬだろう。2つの影が重なるのを、深い闇の中に浮かぶ月が照らし出していた。
ゆめの現
end
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