※捏造
※文スト【腐】
※中原と芥川と太宰
貧民街の中で生きていた芥川は、一生この薄暗い場所で生きていくのだと半ば諦めていた。けれど、ある時大丈夫かと差し出してくれた男の手が、優しくてつい手を取ってしまった。助けてくれた礼まだなのに、妹だけはと安全な環境を頼めば男、織田というー、は、嫌な顔をせず知人伝で用意してくれた。
「2人くらいなら何とかなったけどいいのか?」
妹を助けてくれた男の礼をしたいと言えば彼は取り敢えずとそばに置いてくれた。本当は芥川の持つ異能を使って礼をしたかった。何しろ、織田は命を張る仕事をしている様だった。けれど、何度提案しても彼は、是とは言わなかった。代わりに彼は芥川を人として見てくれた。初めての感覚に驚きはしたけれど十分すぎる待遇で感謝した。いつか、役立てる時が来るからという彼の言葉を信じて。
そんなある日のこと。今日も織田は忙しそうにして、仕事に向かった。芥川は足下に何か紙切れが落ちているのに気付いた。確か、先程電話で書き記していた。今なら、まだ間に合う筈だと芥川は急いで部屋を開けて追いかけた。小さな影ではあるが、織田の姿を捉えた。あと、少しという所で背後から強い殺意を向けられて芥川は動けなくなった。
「おい、餓鬼。何処から入った?」
「ッ!」
振り向くこともできない強い殺意に芥川は、禁じられていた異能を使おうとしたその時ふと織田が振り向いたのである。瞬間、顔面蒼白になり芥川達へと駆け出してきた。
「中原!待ってくれ!」
「んだよ、アンタの餓鬼か。」
だったら、早く言えよと中原と呼ばれた男は芥川の頭をコツンと叩いた。振り向くと彼の着ていたがいろう外套が宙に浮いていた。ぽかんと見上げていると織田が駆け寄ってくる。
「どうかしたのか、…ん?」
優しげな表情の織田に迷惑を掛けてしまった。また貧民街へと戻るのだろうかと思いながら、口にする。
「ごめんなさい…僕は」
「ん?それは、先程電話で書き取った」
「おいおい、落とすなよ。餓鬼、お手柄だな」
ニカッと笑った彼は暖かい笑みを浮かべていた。それからというもの、中原は芥川の元へやってくる様になるのである。
それから、一年が経過しようという冬の頃、益々芥川の顔色は蒼白で病弱に見えていた。やって来ていた中原が彼の好物である無花果を差し出したがそれすらも食べれなかった。
「具合が悪いのか?」
そうしていると、芥川は、体を縮こまらせ、痛いと呟いた。
「何処が痛いんだ?」
「腹の辺りが、鈍痛…というのか、痛い。僕は死ぬのか」
そんな訳ないだろうと織田が励ます。何が原因なのか分からないが。食あたりではないのだろう、同じものを食べた織田は平気だ。そう考えている内に芥川はあっ、と声を上げると苦手な風呂に駆け込んでいく。心なしか、異能の羅生門もゆらゆらと脆い。織田が直ぐに追いかけ、うわっという声がして中原が後を追って目に入ったのは赤い床だった。この仕事をやっていればそんな光景は何度か見た事があるが、それは違うのだろう。織田はふらつき、芥川を抱きしめていた。
「ごめんな、女の子だったのに…」
抱きしめられていた芥川は床を見たまま動かなかった。栄養不足だったから、線の細い体に何も疑問を抱かなかったが、少女だったのかと芥川を見ながら中原は思ったのである。因みにそれ以来織田が過保護になるのは余談である。
海外から仕事を終えて久方ぶりにアジトに戻った中原は芥川の様子を伺いに部屋に訪れていた。内情を知る中原ならと織田は鍵を渡してくれていた。出迎えた芥川は、手に皿を持っていた。皿には肉じゃがが。ぽかんとしていると奥から織田が呼んだ為に中原は中へと入った。確か、すこし前では織田が買ってきた出来合いの惣菜を何とか食べていたのではなかっただろうかも中原は記憶を辿る。
「芥川は料理するんだ。」
嬉しそうに言う織田は何処かにいる娘の自慢をする親父に見える。確かに、女性としては料理が上手いのいいことだが。此処は非合法組織のアジトである。その織田の横には数冊の資料が出来ている。極秘と書かれたそれは、若しかしたら織田が呼ばれた仕事なのだろう。中原も別件で仕事がある。最近は抗争が激化している気がする。嫌な予感が背中を流れる。
「結構な仕事でな。願掛けに肉じゃがを頼んだ」
そう言う織田は笑っていた。
翌日、織田は早朝に仕事に向かった。見送る芥川をまた新しい料理楽しみにしてるぞと言えば芥川は静かに頷いたのである。そっと額に唇を落とし、ぼぅっとしている芥川を残し、扉を閉めた。それから、十数時間後織田は敵との抗争に命を落とした。ドクドクと流れる血に命が削られるのを感じる。友人の太宰が駆け寄ってくる。
「織田作!」
「しくったなぁ。…俺の部屋に鍵付きの果実がある。上手く、育ててくれ。頼むぞ」
瞳を閉じる織田の脳裏には笑顔の芥川が浮かんでいた。織田の体は直ぐに火葬され、さらさらの遺骨になった。小さな袋に詰めたそれを持ち、アジトで与えられていた部屋に太宰は向かった。あと数日もすれば首領の命によりこの部屋は彼の管理下におかれ、誰かの部屋になるのだ。ガチャリと部屋のドアをあけて、近くにある戸棚が目に入った。こんな戸棚、前来た時は無かった。近づけば中央に鍵穴があるのが見えた。預かった鍵を差し込めばガチャリと音を立てて、ドアが開いた。黒い壁紙で統一された部屋を見回した時にとつぜん人の気配を感じた。
「貴方が、ダザイさんですか」
少年の声がして太宰が声の主を辿れば全身を黒で統一した少年が立っていた。
「そうだよ」
「そうですか。なら、」
黒い壁紙が白いものに変わっていく様を見て太宰が見たのは獣のような黒い塊だった。異能者か。
「織田作は部下を私に預けるって事か…」
「あの、織田さんは」
太宰の言葉に反応した相手を太宰はちらりと見ると懐から遺骨になったものを見せるとそれだけで十分すぎたのかぽろりと涙を流し俯いた。
「太宰、さん。僕を使って下さい」
「そうだね。君も此処を出ないといけない。君の名前は?」
「芥川、龍之介です」
それから、太宰は芥川を正式な部下とした。殺人に特化した異能の使い方を太宰は徹底的に教え込んだ。それは、折檻と思われる程だったが芥川はなにも言わなかった。それがずっと続くかと思われていたそれは、芥川の任務中に太宰が姿を消した事で終わりを告げた。
太宰が消えて数ヶ月、直属の部下であった芥川は何度も取調を受けた。訓練以外の情報を知り得ないのだと何度も言ったが無駄だった。それは、長期の任務で帰還した中原が制止するまで続けられていた。
「何してるんですか!芥川は女ですよ」
ぎちぎちに縛られた包帯に包まれた芥川に、中原は叫んで芥川に駆け寄る。太宰は芥川を部下にしたとしか報告をしていなかった。首領は驚き、真逆と呟いた。
「…芥川も俺もあの青錆野郎の考えている事は分かりませんよ。情報の持ち出しだって無かった。…まぁ、何も分からないのは元相棒としては恥ずかしい限りですが」
「中原くんがそう言うなら仕方ないね、うん。」
それでも、芥川が女性である事実は幹部達は大層驚いた。事実が露見しても芥川は変わらなかった。その事に首領は中原の部下として芥川の管理を任せたのである。
芥川が消えて2年余りが経過しようとしていた。芥川と中原は休日には一緒にいることが増えていて一般的に恋仲と呼ばれるものになっていた。自然な流れでそうなったのだと、芥川の部下になった樋口は思う。平素は男の様な姿ではあるが休みになれば女性らしい服装をする様になった事が中原は嬉しかった。
「首領からの仕事はなんだ?」
「人虎の身柄確保です。樋口が捉え、僕が確保を。」
それならばと、後ろから芥川を抱き締めて、怪我するなよと囁いた。どうにも嫌な予感が中原を支配していた。それが現実のものとなるのは数日後の事である。人虎を匿っていた団体にあの太宰がいるなんて誰も予想出来なかった。異能力の人間失格に、体術を喰らわせて探偵社へ連れ帰った元部下に太宰は違和感を感じていた。気絶していた芥川だが意識は直ぐに戻った。場所が記憶のない所であると気付きハッとした時、扉から現れた人物に目を見開いた。
「やぁ、久しぶり。…芥川君、君何か変わった?」
其処には元上司である太宰がいた。太宰は敦を襲った理由は何となく察しがついていた。敦の異能力である獣化する人虎は闇市では相当な値打ちになっている。となれば、ポートマフィアの首領が何もしない筈はない。隊長である芥川が襲ったのはそういう理由だろう。それよりも、彼の纏う雰囲気が違う事に太宰は気になっていた。
「何も変わりませぬ。」
「…あの、太宰さん、その人…」
女の人ですよね?何で男みたいに呼ぶんです?ビクビクしながら敦の告げた言葉に太宰はポカンとし、すぐに流れる様な動きでもって芥川の胸を掴んだ。あっ、と直ぐに離れた瞬間発動した様な羅生門に吹き飛ばされながら手に残る感触は明らかに女のそれであり、この時芥川は親友の言葉の意味を理解したのである。
嫌な予感というのは的中するものだと、中原は隣で眠る芥川を見て思う。人虎の生け捕りに失敗しただけではなく、人虎がいる場所はあの憎き青鯖野郎の所属部署であると?しかも芥川が女と気付かなかった上に胸まで触られたなんて。別に、中原だって彼女の胸を触ったりした事はある。一応恋仲なのだ。だが、ごめんなさいと謝る恋人を前に優しくはいられなかった。結果として、隣でスヤスヤと眠る芥川がいる。見え隠れする首筋に吸い付いて出来た痕ににやりと笑うと中原は未だに眠る芥川を起こすために手を伸ばしたのであった。
「今日は私は疲れたのだよ。仕事を休むと国木田君に伝えてくれ給え」
電話口で伝えた太宰はため息をついた。フラフラと酒場に向かった先には今会いたくない人物がいた。
「やぁ、イカレ帽子君。こんな昼間から酒なんて余程ヒマなのかな?」
「休みだ!お前こそとうとうお払い箱か?」
言葉による応酬が始まる気配があったが、中原はフイと唐突に顔を背け、酒を飲み始めた。拍子抜けした表情の太宰に無駄な喧嘩はしないって約束なんでな、と告げる。その様子を見て恋仲の女を想像する。マフィアという職業柄明るい所では会えない。中原に来るとなると金か宝石類が目当てなのだろうか。程々にしないと幹部から降ろされるよと冗談に言えば違う、と言われた。
「芥川と付き合ってる。」
「へぇ、あの芥川君と?君も好き者だねぇ」
関心がない様に装いながら太宰は心の整理がつかないでいた。只でさえ、男だと思っていた部下が実は女性であったのも一大事なのに。今度は中原と恋仲なんて。靄が掛かったように心はスッキリしなかった。そうして過ごす中で何時ものように入水自殺を失敗した帰り道、太宰は芥川とばったりと再会したのである。一応元部下なので様子を聞いたりしていたら、見えてしまった。見えるか見えないか際どい場所に赤い痣を。それは、恐らく情交の痕なのだろう。それをつけたのは、中原なのだろうと認識した瞬間、太宰の中にドス黒い感情が生まれた。気付けば彼女を自室の寝具へ押し倒し、暴れるのを阻止する為に殴っていた。黒い外套を剥がし、釦を引きちぎり、見えた晒を力づくで外すと明らかに男性ではない胸の膨らみ。其処にもある赤い痕にイライラした。最初に部下にしたのは己だと自負している太宰は感情のままに胸を強く掴んだ。
「いた…!離してくださ…」
「痛いだろうね。そうなるようにしてるんだよ。どうせ中也ともやってるんだろう?」
ビクリとした表情に太宰は自分の中の獣が暴れるのを感じた。下肢に纏う衣服を取り払い、足を抱えた時、ズシリと部屋が軋んだのを感じ、次の瞬間には部屋の扉が壊されていた。
「…中也さ…っ」
「ち、…太宰、今回は未遂で見逃してやる。だが、次は部屋ごと潰す」
腕の中から抜け出した芥川は、中原の肩に掛けている外套を着ていてそれすらも不愉快で、そっと大切そうに抱えられて出て行く彼女を見て太宰は唐突に気づいた。彼女を好きだった事実に。本当は、彼女を織田から譲り受けた時から、惹かれていたのかもしれない。けれど、もう遅かったのだ。
遅かった答えに応える声はない
end
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