※捏造
※青峰と灰崎
灰崎には、中学時代仲のいい仲間がいた。今はそんな痕跡は跡形も無いがかつてはそれなりに良かったのだ。冗談を言い合って笑いあうそんな仲間が。中学時代。灰崎がまだ原石になれる可能性があった頃だ。馬鹿やって、ふざけあう関係が心地よかった。それは、灰崎には少しの心地よさを感じさせた。片親しか居なかった灰崎の家庭はいつも兄がいた。だけど、母親が働いている間親代りをしている兄に贅沢など言える筈もない。ふざけ合う行為は兄弟のような感覚を感じさせた。だが、それも短くして終わった。眩い黄色が入ってきて、灰崎には居場所がなくなった。それからは、やさぐれて不良そのものの、出会ったバスケが好きだった。それでもと、足掻いて嘗ての仲間に殴られるまでは続けていた。
「はっ、ざまぁねえ!」
殴られてバタンと倒れこむと不思議と気持ちは晴れやかだった。それがきっかけでバスケをきっぱりやめた。キセキの世代の活躍は何もしていなくても耳に入ってきていたし、灰崎としてはそれでもいいかと、思っていたが、家族は違ったらしい。母は、 ロシア人のハーフだ。考え方も日本人とは少し違う。
「お父さんの暮らしていた国へ行きましょう」
「親父の?確か…」
アメリカである。父親はアメリカ生まれの日系人であったものの、灰崎が10カ月の頃に交通事故で他界。殆ど、遊んでもらう記憶などない。それでもさして苦労は感じていなかった。それは、単に兄や母が灰崎の周りにいたからであろう。なりたいものがあった灰崎の言葉も母親はじやあアメリカでスクールに通えばいいという言葉で封じ込んだのである。結局はその通り、高校三年で彼は、国籍をアメリカに移したのである。それでも、バスケはテレビで見る位には好きだった。アメリカに渡って数年、灰崎はヘアサロンの一店員になっていた。元々欧米よりの髪の色は此処ではさして目立たない。店の仲間とも割と打ち解けた。そんな中で1人、バスケを見に行かないか、と誘ってきた仲間に言われて職場から離れたストリートバスケのコートへ向かう事になった。聞けば、彼の応援する選手の1人に日本人がいるらしい。ほんの少し前の時代までは日本人の活躍は考えられなかったが、今ではあまり珍しくなくなった。
「ショウゴは日本でプレーしてたんだろ?」
「まぁな。けど、高校までだ。」
「その選手もショウゴと同じ年だ!」
興奮した様子の仲間に何処かで名前を轟かせた逸材なのかもしれないけどな、と笑ってその場へ目を向けると果たして其処には、黒人にも負けない黒い肌の選手の姿があった。
「ショウゴ、あれが俺の言っている選手さ!ダイキだ。」
「ジーザス…悪い、急用ができた!」
完全に知っている相手だ。嫌な予感がして、その場を逃げようとした時だった。目の前にボールが落ちてきた。突然の事に一瞬スピードを失う。避けて走ろうとした時、声を掛けられた。
「悪い、ボール拾ってくれ!」
知らないふりをして投げよこすと、何の因果か、ボールリングに入ってしまう音まで聞こえてしまう。
「っ、灰崎!」
「…ダレデスカ、」
「いやいや、知らないふり無理だろ。何でアメリカにいるんだ?」
手癖はそう簡単には直らない。増してや、プロプレイヤーとして戦っている奴にはその癖などお見通しだった。そして付け加えれば彼はアメリカにいることを聞いてくる。
「ち、家庭の事情だよ、」
「ふぅん。バスケやめたのか?」
「まぁな。あんだけ殴られたら」
「なぁ、またバスケしようぜ。俺、今は出番少なくって暇なんだわ」
要は若手にもチャンスをという事で青峰は暫く休んでいるのだという。それにしたって、なんで殴られた相手とバスケなんかと思ったが、あの頃よりは青峰に対する嫌悪感も少なくなっていてそれが大人になるということなのだろうかと、気が向いたらな、という返事をして別れた帰り道に思う。
+++
アメリカのリーグに入ってすぐ、頭角を現した青峰は他のチームからも人目置かれる存在になった。なってからは仲間からは頼りにされているし、強い相手チームとやりあうのも楽しかった。だが、そこでも強い敵が少なくなっていることに中学時代の悪夢の予感が過ぎり出す。その頃に、コーチから少しの暇を言い渡されたのだ。
「お前ばかりを出していると若いやつが成長しない。だらけてしまうのはよくない」
だから、少しリフレッシュしてくれと、2ヶ月ほど暇を言い渡されたのである。そうして青峰が向かうのはやはり、ストリートバスケの置いてある広場であった。それなりに顔の有名になっていた青峰であったが、ストバスの彼らは気にした風もなく、相手をしてくれる。わいわいとギャラリーが集まってくる中で、ボールが相手との競り合いで観客の方まで飛んで行ってしまった。気軽さで、返してくれといえば相手の放つボールがリングを揺らした。はっとして相手を見るとそれは、中学時代見慣れた髪色をしていた。急いで駆け寄るとそれはやはりそいつであった。高校時代、殴り飛ばした相手だ。その頃よりは線が細くなっていたが顔は変わらない。灰崎がそこにはいた。懐かしい、日本人に出会えた嬉しさでバスケをしようと誘えば呆れたように彼は気が向いたらなと返す。その言葉に驚いた。嫌味を言うくせに。わがままに反応するなんて。月日の流れを感じながら彼を見送った。
それから2週間後、再会は早く訪れた。ストバスのコーナーで、銀色の髪色はすぐ目立つ。声をかけると左手に白い包帯を巻いて手をあげた。灰崎が美容師をしているのは、同席していたファンの一人から聞いていた。手を怪我したなんて、大丈夫なのか。
「ちょっとハサミでやっちまっただけだ。大げさにされただけだしな」
「…送る。お前、フラフラして心配なんだよ」
「んだよ、お前性格変わったんじゃねぇ?」
「うるせー」
いいけど、と言いながら彼の案内する道通りに車を運転する。(奴は車を運転したことにさえ驚いていた)たどり着いたのは小さなマンションだ。その一室を開けるとそこには一人の少年がいた。目の色は青いが容姿が灰崎に似ている。まさか、と見れば彼はにやりと笑って慣れた仕草で少年を抱き上げる。
「どうよ?俺のジュニアだ」
「は…嘘だろ!許せね!」
「お前の許可なんかいらないだろ。ー嘘だよ。兄貴のガキだよ。ルームシェアしてんだよ」
「なんだ、そーなのか」
にやりと笑って酒を飲む灰崎の姿はあの頃よりも断然大人で、なぜか妖艶な空気があって、青峰は知らず喉を鳴らした。
この時、青峰は赤い実をかじりついたような感触を覚えて、それが目の前の男子にそれを抱いているのだと、理解したのだった。
恋の自覚
END
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