・K腐
・伏見さんと秋山
・秋山さんの片目に捏造情報
青の王に何か不満があるかと問われれば、伏見は仕事に対する取り組みをあげる程度程度で王としての心構えなどには不満はない、努める上での上司というだけで関心は抱いていなかった。
だから、ふと一隊員と向き合う表情が真剣なものだったのは気になる事にはならなかった。何しろ、彼は報告書を提出に来た弁財を世間話に付き合わせるという他の隊員からしたら大層不真面目だったからだ。
パソコンに向かって只管文字を打ち込む作業は肉体労働の方が好きなのだという日高にとっては苦行だった。あーっと頭を振りかぶり再び向かい打ち込む。そんな時に彼に近寄っていくのは秋山だ。彼は伏見に次ぐ4番手の剣の使いだ。左目は長い髪で隠れていて実戦の時大変じゃないのかと思うも、それで大変な場面には一度も遭遇していない。
ビー、という警報が鳴り響く。ストレイン絡みの事件は大概セプター4が管轄している為に出動要請は頻繁だ。故に彼らに休みはあまり無い。今回は住宅街で発生したらしく、見回りをしている中で一番近いのは秋山と伏見だった。発現したばかりの能力に動揺して辺りは混乱していて、直ぐに立入禁止の柵を立てる事になった。それすらも伏見にはイライラさせる事だ。しかも、そのストレインは他人の記憶にアクセスして来て、幻を見せる。死んだ伴侶や、恋人。様々な。情報を操作するストレインは厄介だ。混乱して、そのストレインはセプター4にすら、牙を向けてきた。その拳を伏見の代わりに受けたのが、秋山だった。左目から血が流れるのを見て、伏見は到着した日高や道明寺に捕縛を命令する。医療班の元に連れて行かれた秋山の左目は赤く染まっていた。急いで消毒しようと見た医療班の男性と伏見は息を飲んだ。彼の片目は、色が違っていた。医師と、伏見の視線に気付いたらしい秋山が初めて(伏見にとってはそれは初めて見るものだ)困った様に微笑んだ。
「気にしなくていいですよ。以前、ちょっとした事件で怪我した名残なんです」
「秋山さん、その時、此方には?」
医師が手持ちの紙にペンを走らせる。後で情報を書き加えるのだろう。すると、彼は苦笑いして放置してました、と言った。
「...隊長格なんですから、自身の身体の事はもっと神経質にならないと。運が良いですけど、場合によっては失明もあり得ますよ。」
そう呆れた様に言う、医師に秋山ははい、と素直に頷いて今回の怪我の治療を受けていたそれからだ。彼の行動が気になる様になったのは。
それは、宗像もまだ王として存在していなかった時代。当時、まだセプター4という名前ではなかった部署に秋山は上司であった宗像とストレインの捕縛に向かっていた。相手は普通のクラスのストレインだった。油断もしていた訳でも無かった。聴覚をコントロールされて混乱している隙に相手は財布を盗んでいた。どの道窃盗容疑もあるので捕縛対象だ。フィールドを展開して戦闘に入った時だ。ストレインが擦り抜けてこっちへ向かって来た。それは、宗像が実質この組織を取り仕切る人間だと分かっていて、狙っていた男だ。唐突な事に流石の宗像も対応が遅れた。危ない、と間に入り込んだ。瞬間、目に痛みを感じたものの、捕縛優先に動いて、一晩明けた時には目の色は深緑色になっていた。
この事に同室だった弁財は驚いたし、早く病院へと言ったものの、惰性で行かずにいた。結局、怪我の影響かは定かではないが、片目だけが異様に青の力を引き出しづらくなっている事に困ったな、と室長になり、王になった宗像に報告書ついでに言うと、側に控えていた淡島はつり目にしてお小言を貰う羽目になった。最終的に定期的に彼が秋山にその目に力を注ぐことで解決したのだ。なので、これは終わった事であってそれで気を揉む必要はないし、気を煩わせる事もしたくない。
なのに、何故か、後から加入した伏見という青年があれ以来何かと気を利かせているのだ。
「懐かれたんじゃないのか。良いじゃないか。秋山、リアクションがないからって困ってただろ」
休憩室でコーヒーを飲んで弁財に最近の珍現象を伝えると彼は涼しげな表情を崩す事なく聞き流した。因みに、今日はどうやら赤のクランズマン、櫛名アンナに料理を食べさせてやる為に料理を教える為、彼の部屋に行く予定だった。
「それなりに良いじゃないか。」
弁財の言葉に秋山はうーん、と考え込んでしまったのであった。
街中で出会った嘗ての因縁の相手は、よりにもよって、特異な体質のストレインー、櫛名アンナを連れていた。彼女は赤いビー玉からその人物を透視する。心さえも、何もかも。だからか、伏見はこの少女が苦手だった。今も、赤としていた時も。
「猿、てめぇ、アンナにガン飛ばしてんじゃねーよ!」
「はぁ?」
「ミサキ、気にしないで。サルヒコは、見られるのが嫌なだけ。...サルヒコは、青の部下が好きなの。尊を想う私と似た暖かさ。」
「は。」
結局は、透視するまでもなく、看破された訳で。こうなったらヤケクソだと、彼女をダシにして、やろうかと言えば彼女はいいよ、と頷いたのだった。曰く、それが最善の道だから、らしい。そんな訳で、彼女には飯を作るという名目の条件を出して、彼を部屋に呼び出すという事は成功していた。事実、作った料理のレシピは、草薙へと渡されて彼の手によって彼女の胃袋に収まっているらしい。
「伏見さんは優秀な生徒なので俺も教え甲斐があります、でも、他にも上手い人はいますよ?」
まぁ、俺なんかそんな程度でしかない男なんですけど、と笑う彼に気づけば告げていた。
「好きなんだ。秋山のこと。」
ぽかん、とお玉を持っていた手からお玉がカツン、と音を立てて落ちたがそれを拾う余裕は今の所秋山には無かった。
「確かに、最近やたらと一緒の時間が増えた気がしていましたが...」
「上手く、表現できたらいいなって思ったけど、そうゆう経験なくて。すみません。ただ、気持ちを知って貰う事があればいいかなって。」
ぺこりと頭を下げる上司は熱の籠った目を秋山に向けていた。少し変わった告白が行われて以降料理だけは継続して行われる事になった。別に、男性と男性が恋仲になる事について嫌悪感とかそういった物はない。職場でもちらほら、そういった趣向の人間がいるのを見聞きして、秋山の中の同性愛というのは、そんなに偏見を抱くものでも無くなっていった。あの通り、騒いでいる道明寺とそれを諌める弁財だって、恋人がいるのだ。同じ器官を持つ人間の。きっと、絆されているのかもしれない。
年下の上司は異色だった。二つの力を有していた。宗像が引き抜いたのではないにしろ、彼が関わっていた事がそれに近い感覚を抱かせる。加えて少々潔癖だった。誰も彼のテリトリーには入らせない。そんな彼が、秋山を入れようとする。嬉しいと思った。恋人になりたいってハグとかキスとかしたいのかと聞いたら、そういうのも良いけど、多分そばにいてくれたらそれで充分だと、答えた彼はやはり変わっている。それただけ、人とのふれあいが少なかったのだろうと想う。けれど、思うのだ。こうやって、料理を作って互いにああでもないこうでもないと論争をするその空間は思ったよりも悪くないのだ。心地よい。
冬の足音が近い頃に、秋山は伏見を自室へ呼んだ。いつもは、伏見の部屋へ行ってばかりだった。
「珍しいですね。秋山さん、こーゆーの、呼ばないとばっかり。」
キョロと辺りを見つけてソファに腰を下ろす。どの道、弁財は実家に久方ぶりの帰省をしていていない。
「今日は弁財もいないから良いかなって思ったから。」
ほんわかとした空気を纏いながら、私服になった秋山はそう伏見に告げる。それは、伏見にとって少し驚きだった。
「あんまり言わないから忘れてませんか?俺、貴方を好きなんですよ。」
「ありがたいです。俺も、きっと貴方と同じものを抱いていると思うんです。」
ポカンとしている伏見に、随分時間が掛かってしまって、すみません。そう秋山は苦笑いした。その瞬間、ぎゅうと伏見に抱き締められて初めて彼の匂いを感じて、体がどきりとしたのだった。
ふしぎないろ
end
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