※前回から微妙に続いてる
※シュウとスバル
兄弟に(但し母親は違う)恋愛対象として見て居たと告げられた場合、どうしたらいいのだろうと、告白されて以来悶々と悩んでいた。まさか、こんな事を母に相談できるはずもない。してしまったら母は心労で本当にぶっ倒れてしまいそうだ。
「くそっ、イライラする…!」
学校だって周りの奴らは腫れ物の様に遠巻きにしか見ていないのはずっと知ってたからもっと暴れる様になった。
足は自然、誰もいない場所を探して向かう。がちゃりと立て付けの悪い様な音を立てて、扉は開いた。其処は空が見渡せる屋上だった。今は授業中だ。誰もいない。贅沢を言えば草でもあれば最高の寝床だった。学校に行かなければ次男のレイジが五月蝿いのだからサボるの位大目に見て欲しいものだ。ごろりと寝転がると風がさわさわと撫でていくのを感じて瞳を閉じた。
++++
長男なんて面倒なだけだ。そう思うのはこういう時だ。はっきり言って学校も家も詰まらない。けれど、学校だけは卒業しろとは父親から言われているのでそればかりは逆らえない。詰まらないと、外を見た時だった。視界に何かが映り込んだ。それは、白い、もの。すぐに分かった。スバルだ。ああ、そういえばユイとアヤトが二人掛かりでスバルを引っ張りだしていたっけ、と頭の片隅で今朝の情景を思い浮かべる。自分も中々起きないけれどスバルも学校に行く確率は低いのだと、やっと支度をさせたアヤトが肩を回しながら呟いていた。自分はただ眠いだけだが、スバルの場合は、一人になりたいがために棺に閉じこもっているのでちょっと違うような気もする。
それを見たら、次の授業は出ない事にして、さっさとその場へ向かう事にした。
「…スバル?」
屋上にはスバルしかいなかった。心地いい風が撫でていく。それはスバルも同じで普段は見えない片方の頬が風でゆらゆらと髪の毛を動かしていく。ふわりと何かの香りに鼻がぴくりとした。見れば彼の拳から擦り傷が出来ていた。また何か喧嘩したのか。だがもう治りかけているらしくそれは一瞬だけ香っただけだった。けれど、近付くのを我慢していたそれが簡単に振り切れてしまった。まるで中毒性のものだ。寝ているものに触れるなんて今までしなかった。最低限の礼儀は持っていたから。だけど、恋を自覚して、一度その味を覚えてしまったらまるで初めての感覚を覚え込むようにして、それは止まれなくなった。それに舌を伸ばそうとした、時にふわりと香った嗅ぎなれない、けれど同じ、魔族の匂いに顔を顰める。そもそも、この目の前のスバルという青年は一人を大変好む。自分もそうだが彼は殊更そうだ。その彼からそんな匂いがしているのが不可思議な事だ。何か言われて突っかかったのか。そうすると、この怪我もその事が原因なのか。
何かが乗っているのか。重たい。うっすらと目を開けると視界に入って来たのは、茶色い髪だ。シュウの髪の毛だと気づいたが、どうして、彼は自分の体の上に乗っている?数センチの差だし、体重は自分の方が重いのだからどかすのなんてわけない。女じゃあるまいし、そっとどかすなんて神経を使う事はしない。どさ、とまるで重い荷物を退かす扱いでやったら、がしりと腕を掴まれた。その動きでこいつが自分の上に乗っていたのは、狸寝入りだったのだと気づいた。体たらくであっても、こいつはヴァンパイアの中の王の血を継いでいる強さでは彼が最強だ。逆らわないのが一番だ。以前の様に首を締め上げられては溜まったものではない。
「なんだよ。」
「その怪我、ただの怪我じゃないだろ…誰とやった?」
「お前に、関係ないだろ!」
イライラする。それもこれもこの目の前にいる穀潰しの所為だ、イライラするのが止まらない。ぎりぎりと骨がきしむ程に腕を掴まれる。返答が出るまで締め上げるつもりらしい。ち、と苦虫を飲み込むようにして、口を開いてそれを告げようとした時、声がした。
「それは俺だ。逆巻の長男。」
無神ルキが其処には立っていた。最もいつものような姿ではなく所々血が染みているのを見ると互いに無傷では済まなかったらしいが。
「うぜぇ…俺に構うな」
「最も、俺はこいつと殴り合ったのではない。こいつが低俗な輩の喧嘩言葉に乗っていたのを止めようとしただけだ」
じろりと睨んだシュウの言葉に奴は簡潔に告げる。匂いが移ったのは、俺がその男を此処まで運んだ時だ、と言う。
「…俺は、ひとりがいいんだ!どいつもこいつも俺につかかってきやがる!うぜえんだよ!」
「保護者来たならいいだろう。一応、傷の手当はしてやった。後は任せた」
やれやれと肩を竦めながらルキは姿を消した。見ればちらほらと包帯が見れる。暴れるこのスバルに包帯を巻いたのか。どれだけ骨の折れる作業だったのだろうかとも思いつつもやはり彼に触れたのだと思うとそれはチリチリと胸を焦がすのだ。
「スバル…好きだ」
そう告げて、衝動的に彼に口づけをしていた。女のそれよりも幾分か固いそれが甘いものだと知っている。そのままに、唇に牙を立てれば、濃厚な香りが口の中に満たされる。最近は花嫁候補のあの女よりも目の前の半分血の繋がっているこの弟からの血を飲んでいる回数が多い気がする。それでも血を飲めば仄かに香るらしい。アヤトがあのチチナシから血飲みやがってと難癖をつけられるものの、匂いが違う事に納得して場所を離れていくのだが。
「っ、て…!!てめえ!、んぐっ、ん…ふ…」
傷が塞がる寸前まで流れ出る血を零すまいと舌でちろちろと舐め上げれば同じ同族であっても感じる快楽に顔を染め上げる彼にああ、我慢が出来ないと片隅で思う。母親譲りの白い肌がうっすらと紅潮してますます吸血衝動を押さえられない。ぐ、と勢いのままスバルを倒す。床に倒れて、睨み返す、末の弟は危機感を抱いていない。自分が補食されるとは思っていない。だから何しやがる、離せという言葉しか出てこない。
「ふ…もっと危機感もったら?」
ぺろりと舐めた彼の首筋はどくどくと血の脈を感じてますます飲みたくなる。この前飲んだのは一週間前だったか、満月に近い月の晩だった。少しの苦みのあるコイツの血の味は好きだ。同族の血なんてそれこそ、敵とか(例えばハンター)にやられて瀕死の重傷を負った場合以外には吸血鬼自体は必要としない。実際に必要と思うのは生きた人間の血。それでも、あの時飲んだそれはおいしいと思えるものだった。ペロリと首筋を舐めれば何をする気が分かっているスバルが暴れるものの、何処かで長男であるものには叶わないという事実を理解しているらしいスバルは早くしろと言わんばかりの抵抗しかしない。だから、付け上がるのだだと分からないこの弟はかわいい。
「いただきます」
「っ、ぐ、ぁああっ、ん…!」
深々と牙で彼の皮膚を突き破り啜る。最初に来るのは苦み。そして甘みが広がる。癖になりそうなそれに夢中になる。そのまま啜りながら手は破れている制服から肌を撫で上げて、腰を撫でればびくりと震える。まさか、兄に犯されるなんて思ってもいない、その体にするりと撫でて下肢へと手を伸ばす。
「な、にしてやがる!」
「感謝しろよ。俺が理性があるから襲われてないんだ」
「ひ、やめっ」
ガチャガチャとベルトを外して彼の自身に触れる。それは吸血からくる快楽で熱を持っている。ふ、と笑みを浮かべて緩く扱く。黙っているとスバルが息を詰めていくのが分かる。その様子が恍惚としていてたまらない。その間も啜っているとどんどんと甘みが増していくのを感じた。これは癖になりそうだと彼のそれから溢れ出した種を見ながら思ったのだった。
嗜虐的な彼の鎖が切れるまであとどれくらい?
END
←