※リクエスト
※大学生パロ
※笠松に恋人有り
あの鮮やかだった高校時代があっと言う間に過ぎ去って、気づけば黄瀬涼太という人物は大学に通う学生になっていた。キセキの世代と言われた黄瀬は大学も引く手数多だったが、結局は都内の大学に落ち着いた。嘗ては好敵手だった火神は首を傾げながらお前なら他のもっと有名な大学でもいいんじゃねぇのと言えば黄瀬は一瞬琥珀色の瞳を見開き驚いたような表情をし、苦笑しながら「俺も憧れの人を追いかけてみたくて。あー、青峰っちの事じゃないッスよ?勿論、青峰っちの事は尊敬してるッスけど」と答えたのである。それに、と付け加えて黄瀬はバイトであるモデル業の移動が都内だと楽なんスと茶目っけたっぷりに言ったのである。
「彼も案外役者ですね…ば火神には分からないかもしれませんが」
「黒子、相棒にしちゃ辛辣すぎるだろ…」
「ああ、そうですか?すみません。」
後ろでわいわいと騒ぐ相棒である彼を放置し、キセキの世代の一人であった黒子は遠い目を向ける。光の様な色の彼は高校時代から【彼】が好きだったのだ。言葉にせずともキセキの世代の彼らはそれが筒抜けだった。けれど、それをどうこうしたい訳ではなかったらしい彼は終始手の焼ける仲間を貫き通したのであろう。それは中学時代を思い返せばまるで別人の様であるが。そもそも、その【彼】には恋人がいた。同じ仲間の特殊な、投げ方をする彼。茶化してばかりのメンバーだった彼らの関係は二人が大学生になって変化した。お互いに大人になったのだろう、と黒子は思い返す。それを知ったのは、黄瀬の口から。飲み会の一コマからで、彼はそれを秘めて過ごすのだとまるで恋人であるかのように笑った。見た目のビジュアルに反して、黄瀬は恋に関しては奥手だったのだと、この時初めて知ったのである。
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「笠松、今日練習付き合ってくれるか?」
「森山、珍しいな。いいけど」
「助かる。納得いかない部分があってな。」
その二人の会話はただのバスケのサークルの事でしかない。そこに何も存在しない。けれど、知っている。その中には二人にしか共有出来ない時間と絆が存在している事に。だから二人が笑顔ならば諦める物わかりのいい後輩を演じるために声をかけて足早に立ち去る。二人は、自分の事を知らない。このまま向うのは、顔なじみの仲間の元だ。酒でも飲まなければやっていられない。生憎今日はモデルのバイトも何もないのだから。後は仲間の彼がバイトになっていないかだけである。
「和くん。今日暇?」
電話口の彼、ホークアイを持つ高尾は直ぐに苦笑した様に今日は涼ちゃんの家で家飲みしようと提案してきたのできっと彼もバイトはないのだろう。優しい、チームメイト。大学に入ってすぐに仲良く成ったのが彼だった。だから、彼と一緒にいる時間が増えるのも可笑しい話ではなく自然な成り行きだった。
「……今日はどったの、涼ちゃん」
一人暮らしをしている部屋に二人で飲める分のアルコールの缶と少しばかりの酒のつまみを持ち込んで男二人の飲み会が始まった。
「ー…ん〜?別に何も無いっすよ。至って平凡な日々を過ごしたッス。」
高尾は詳しく聞いて来ない。自分から話し出さないと話を聞かない。その気軽さが自分は気に入っていた。有りがたいものだった。だからこうして仲良く出来るのだろうとも思う。何も言わないで酒を飲み躱す。それは、言葉はなくても慰められているかの様で嬉しかった。けれど、今日は違った。ぐいと手にしていたチューハイを飲み干して、彼は真っ直ぐにこちらを見てきた。其の目には酔いなどない。素面そのものだ。
「涼ちゃん…、あのひとなんか忘れておれにしとけば?」
あの人が高校時代の主将である笠松先輩のことを言っているのも知っている。そうしたい。それでも、自分は。
「へへ、俺は幸せものッスよね…でも、ごめん、無理ッス…」
告白で断るのも結構辛いものがある。告白された側の人間も告白した側の人間をいかに傷つけないで断るか。そりゃ、完全に傷つかないなんて無理だが、それでも出来るだけ、と思うのだ。
「そっか…でも、俺さ諦めないよ。鷹の目だしね」
にこりと笑ってその場を和ます彼の雰囲気にほっとする。拒絶された訳ではないのだと、思う。フッておいて何を考えているのだろう。そう思っていると彼は立ち上がり、俺この後、家に用があるから帰るな、またと出て行ってしまった。それが真実かどうかなど知る由もないけれどそうなのだろうと思った。
それからサークルのある度に先輩の事を目で追いかける。けれどそれは必然的に彼の大切な人である森山先輩も目に映してしまう。いい加減に諦めなければ、二人の幸せを願わなければと思う程にそれは出来ない。そう思う日に限って高尾からの声がけで安堵するものの去り際に告白をしてくる。その返事も変わらないものだ。きっと彼の心が見えたならどれほどの傷を受けているのだろうと思う。それほどに傷つけている自覚はあった。それでも、無理だった。
こんな毎日が続くのかとうんざりした中で、忘れ物をして取りに向った講義の部屋の一室で二人を見た。それはサークルの活動でも何でも無い、学生の空き教室でだった。最後までのこって何か作業をしていたのだろう、と偶々見たのだ。他意は無かった。その二人はそっと寄り添ってそして、笠松先輩が彼に近づいて自然と二人の目が閉じられて重なった。こんな時、目のいい自分を呪いたくなった。そして衝動のままに、大学を飛び出した。もうどうにでもなれ、と思った。雨の降りしきる中だった。視界も悪かった。気づいた時には大きな光が目の前に迫っていた。運転手の顔が引き攣るのが見えた。これが最後の光景になるのかと思いながら目を閉じた。直後、感じたのは衝撃と、浮遊感。世界がまるでぐるぐると回転したかのようになる。生温い液体に体を沈めながらごめん、と誰でもない誰かに謝罪をした。
「涼ちゃん、」
目を開けたすぐに飛び込んで来たのは白い天井と、泣き腫らした顔の高尾だ。試合で負けても、自分が告白を拒否しても泣かなかった彼がこんなに目を腫らしているなんて、と思っているとぎゅうとそっと抱きしめて来る。その動きにはきっと怪我をしている自分に遠慮しているものがあった。そうだ、自分は車にはねられたのだと思い出した。そっと手を見れば高尾の爪が伸びていた。いつも清潔にしていて爪を伸ばさない彼がこんなに爪を伸ばすなんて珍しいと見れば彼はあの日からずっといたんだと言う。
「三日くらい、だな。俺離れるのが怖くてさ手、握ってたんだ。…だって好きな奴死ぬのなんて嫌だし」
「和くん…」
「好きなんだよ、ごめん涼ちゃん」
これが最後だから、だから死なないでくれという彼の温もりに心が弛緩していくのを感じた。そっと彼の背中に腕を回してうん、と頷いた。二人でそのまま泣いて、笑った。それが恋人になった瞬間だった。
憧れていたのだ、好きだったのだ
END
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