※ K
※ 日高と秋山
※ 秋山さんが先天的に女の子
いつだって、自分は問題児で、怒られっぱなしだった。だから隊長だった道明寺さんからは呆れられつつもそれなりに扱かれて来た。セプター4に入って数年で組織改革が行われて、部署が変わるまでは庶務の女の子にはそれなりの付き合いをしてきつつも結局恋人にはなれない残念な日高で終わっていた。
「日高、今度部署が変わるんでしょ。今度こそ真面目に仕事しなよねー」
真面目なエノはにやりと人の悪そうな笑みを浮かべて言う。真面目な顔をしているからこの男は…。分かってるよと言えば、彼はそれに今度の部署ってストレインと退治とかあるんだから生半可な態度でやってたらこっちが殺されるかもしれないし、と言う言葉にストレインとおうむ返しに反芻する。未知の能力者。それがストレイン。ストレインの能力はそれぞれによって違う。人に害を成すもの成さぬもの。それぞれが違うのだ。
新しい王、青の王。宗像礼司という男が室長になったその組織には赤の王の力を得ていた男が三番手として名乗りをあげていた。その最中で目を引いたのがこの男だらけの部署でも数少ない女性である職員だ。職員というか戦闘員だろう。彼女も過去の作戦やらで道明寺さんたちと同じく小隊長格だったというのだから。隊長格でなかった自分には与り知らない事実だ。片目をその長い髪で覆った女性は、伏見という男の次の能力者であるらしい。垂氷という名前のサーベルを持つ。
「…初めまして、だよね。日高、私は秋山氷杜と言います。一応君たちの上司になるから宜しく。分からない事があったら聞いてもらえるとありがたいかな」
そうふんわりと笑った彼女にとくりと鼓動が跳ね上がったのはきっと、自分だけではないのだろう。道明寺さんに聞けば秋山さんという女性は他の剣四の中でも異例の女性隊長だったらしい。淡島副長には負けるけどそれでも彼女もそれなりの剣術の使い手であるのは隊長格である彼らから知り得た事だ。
「…それを後から来た伏見さんにかっさらわれてるなんて…どうなんだろうなぁ、秋山の心情はさ」
そう言うのは、いつもの馴染みの居酒屋で剣四時代の仲間で飲む定例会での席の道明寺さんだ。勿論其処に話題の秋山さんはいない。道明寺さんは一応彼女とは同期で隊長格になった。だから何度か手合わせも、作戦中も敵対勢力と戦う彼女も見ているので知っているらしい。
「兎に角さ、秋山っていつもあんなんだからさ…ぽわーんとしてていつの間にか敵もやられてる感じなんだよなぁ」
「確かにぽわーんとしてますけど…戦闘中は別物でしょ」
「どうだろーな、訓練の時なんてアイツ、本気出してないから。男が女に負けてたら矜持としては可哀想だからっていつも俺に勝たせてたしさ」
そう言う道明寺さんは首を傾げながらもああ、でもと続ける。
「アイツは、孤児院出なんだよ。だから親の話はしない方がいいかも。前にした奴がいて、秋山ぶち切れて相手を病院送りにしたらしいから」
勿論、言ったのは同じ青のクランなんかじゃなくて赤のクランだったらしいから俺たちには関係ないけどな、と彼は苦笑しながらビールを流し込む。不思議な人。それが自分の中の秋山さんのイメージだった。
「…こんな事、頼めるの日高くらいなんだけど…ごめん」
ある日、残業をしていると彼女はぽつりと頼み事があるんだと言って来た。いつも残業やら書類ミスを指摘されている自分としてはこっちが迷惑かけてるから少しでも御礼出来るならと頷けば、そっと両頬を細い手で包まれた。あ、冷たい手。もしかして秋山さんは冷え性なのだろうかと思っていると、凄く近くに彼女の顔があった。あれ、もしかしてこれって、と思っている間にそれがすぅと首筋に触れた。
「…いただきます」
ぷつりと皮膚を貫く感覚がした。ちぅと可愛らしい音がして、少しの痛みが体を走る。あれ、これってもしかして血、吸ってる?そう思った時には彼女の顔は其処を離れていた。
「秋山さん?」
「ごめん、黙ってたけど、私ね、ストレインなんだ。」
「話、聞かせてもらえますか?俺、知る権利ありますよね」
「うん。…私小さい頃両親を、強盗に殺されて孤児院で暮らして、大学生の頃かな、その頃に不思議な感覚があったんだ」
彼女曰く、大学生の頃に、サークル活動中に怪我をして血を流した時にその血を舐めた時に甘いと感じたらしい。それがおかしいと思って、そうこうしているうちに彼女はセプター4へ配属し、そしてそれを青の王により見破られたらしい。其処で彼女はストレインだと判明したという。
「判明してからは申し訳ないんだけど、その…男性から血を貰ってた」
「貰ってたって頼んでいたんですか?」
「毎月あったでしょ、検診の血液採取。あれ、私の所為なの」
どうも血により己の能力を高めるらしい秋山さんには血が不可欠。だけど仮にも役所である其処の人間が町を歩いている通行人に「私ストレインなので血をください」などと言って血を啜るのも如何なものか。結局、考えて宗像室長はならば内部の人間の血を啜るしかないでしょうと言ったのだ。
「…その血を?」
「うん。でも毎日必要な訳じゃないから…」
どうやら不定期な周期でその飲みたい欲望があるらしく、殆どは携帯しているカプセルに入れているものを飲んでいるのだが、今日に限ってそれが無かったという訳らしい。そんな時、自分が目の前にいたので、と秋山さんは恥ずかしそうに言った。
「はしたないよね、ごめん」
「…寧ろ、他の男の血を飲んでた事が嫌ッス」
「え?」
「これから、俺の血だけ飲んで下さい。他の男のなんか飲まないで」
「…あの、それって告白なのかな」
「今更ですね。俺、貴方を見た時からずっと想ってました。だったら貴方の役に立てればいいんです」
「うん、ありがと」
* **
付き合うようになって数ヶ月。彼女の吸血衝動はやはり不定期らしい。此処の所は一晩置きくらいの割と早い間隔だけどある時は一ヶ月以上も空いていた。その時は一応遠慮しているのかと心配したものの。衝動の無い時は飲んでも一般人が血を飲んでしまう感覚と同じであまり美味しくないらしい。
「…あの、日高。今日、そっち行ってもいいかな」
書類のミスチェックを頼んで(前に頼まないで伏見さんに見せたら般若の様な顔で秋山ぁ、コイツの文字ミスチェックやれ!と怒鳴られたためにもうおなじみの光景である)いる最中に彼女が言う。いつもの事だ。一応、恋人になったのでそれなりにキスとかハグとか手を繋いだりはしてる。けど、まだ最終的には至らない。彼女が何となくそれを避けてる感じがしたのだ。
「ああ、…はい。じゃあ…待ってます。」
「う、ん」
そんな訳で仕事をなんとか終わらせ、(今日は幸運にも残業も想った程ではなく伏見さんの怒りもつつがなく…な感じだった)お互いの部屋を行き来し、今日は自分の部屋である。部屋の中には既に秋山さんがちょこんと座っている。部屋着らしく制服なのは自分だけで慌てて、制服を脱ぎ、首元を曝け出す。すると彼女は頬を染めてちゅうと首筋にキスをする。そうされるとどきどきする。きっとこれから吸われる感覚で血行がよくなるからだろうか、彼女はそれをすると美味しいんだよねと言う。まさに和製ヴァンパイアだ。
「ん…ふぁ、」
「ひ、もりさん…大丈夫?」
一応、部屋の中ではお互いの名前を呼ぶ様にはしている。恋人なのだから、とお互いで決めたにも関わらずお互い恥ずかしいのでまさに青い春のような感覚である。けれど22。22なのである。健康な成人男性なら色々あるのだ。
「―ね、キスしていい?あき…っん」
「ん、ふ…ァ、あ」
暁、と言う名前を言い終わる前に彼女の唇を塞いで粘着質な音で犯す。甘い顔をする。まるでやってるような感覚になる。ああ。やってる訳じゃないけど。でもそれでも。
「…初めてなの。私。だから、出来るだけゆっくりしてくれるかな」
「?ひもり?」
「血を飲んでる時って相手の感覚が流れ込んでくるから、分かるの。黙っててごめん」
文字通りかぁぁと顔が紅くなるのを感じる。嫌だ、黙ってても不埒な考えをしていたのはこの彼女には筒抜けだったという訳なのか。恥ずかしい。穴があったら暫く出て来たくない。
「…軽蔑しないの?」
「しないよ、この能力知っても好きなのなんてあきらくらいだし、私も嬉しい」
だから、いいんだよとゆっくりと抱きしめられて頭が真っ白になった。ボスリと彼女を自分のベッドに押し倒した。寮のベッドが何だか品の良いベッドに見えて来るから不思議だけど。そして、胸をそっと触って、頂を口にして舐めて。そうしている内に性欲が高まって行く。下肢を触れて出来るだけ優しくしたくて時間をかけて、解す。
「ん、ふ…ぁ」
「ごめ、もう待てないっ」
「あ、ア、ァァゥあ、うん、ふぁ…っあき、っん!」
ぐずぐずに解けた其処へ楔を打ち込んで腰を動かした、うねるように誘い込む膣が気持ちいい。ゆっくりしたいのにその柔らかさは格別だった。止まらなくなってがむしゃらに彼女を抱いた。ぎしぎしとベッドが悲鳴をあげる。それも熱を呷るだけだった。
「ぐぅ、あ!」
「あ、はっ、んん!」
どくりと中に出してしまった。やばい、と急いで抜くとまだ余韻があるらしい彼女が感じた声を出す。ごめんと謝ってかき出そうとすると彼女はいいの、と言う。
「初めてのは、いいんだよ…今日大丈夫だし、ね」
そんな彼女が愛しくてぎゅうと抱きしめた。もう、きっとずっと離せないだろうなとこの時予感したのだ。
彼女との絶対予感
END
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