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※日高と秋山
※秋山の生まれに捏造
今日も東京法務局戸籍課第四分室・通称セプター4は多忙を極める。とは言うもの、赤の王がいない彼らが騒ぎ立てるのではないのだがストレインの騒ぎで出動要請が出るのであった。そして、今日に限って巡回が秋山という上司と自分であった。いつもは道明寺や加茂などであり、秋山と二人という組み合わせは殆ど無かった。
「秋山さん、よろしくお願いします。」
「あぁ、よろしく。まぁ、何も無いとは思うけどね」
最近大きな事件もないし、ね。と安心させるかのようなその言葉にホッとする。
「日高ァ、あんま騒ぎ立てるなよ」
「了解です、頑張ります!」
「秋山、頼んだぞ」
「はっ」
どうやら自分はかなり迷惑な子供の様に思われているらしい。(自分は過去は問題児であったのだからそれに関しては何も言えない)確かに、副長の次席である伏見さんには何度舌打ちとイラついている顔を見せられた事か。そして、今日は決済を回す為に副長も伏見さんも庁舎から出れない。一番マトモな奴は、と秋山さんが出されたのだろう。
「すんません…」
「あぁ、気にしないで。俺も、手が空いてたし、日高とは巡回した事なかったから」
だからいざという時に連携が取れる様にコミニケーション取りたかったから、俺から伏見さんに頼んだんだ。そう言う秋山さんは優しい。
「けど巡回するならこんな真夏日じゃなくても良かったかもしれませんよ」
「まぁ、暑いのは認めるけどな」
さんさんと照りつける太陽に汗を拭うと秋山さんは、用意していたらしいハンドタオルで顔を拭いている。彼も外での仕事はあるのにいつまでも白い肌のままだ。そうゆう肌質なのだろうか。自分は直ぐに色がついてしまうので女では無いが羨ましい。最近は美白も男の身だしなみだと道明寺さんも言っていた。
「秋山さん、肌白いですね」
「あぁ、小さい頃雪の多い地方にいたからな。そのせいかも」
「へぇ」
「単身赴任が決まったけど子供の面倒は見れないって両親が曾祖母に頼んだんだ」
それを聞きながらだから彼は冬の時期は誰よりも寒さに文句を言わないのかと、思い出す。どんな豪雪でもただ只管に任務に精を出す。
「曾祖母の住んでる所が山奥みたいな雪の多い所でさ。小さい頃は雪の時期は雪で遊んだりしてたよ。」
「楽しそうですね」
「うん、楽しいよ。今でも雪が降ると曾祖母の所へ遊びに行ったりするからね」
それは、酷く絵になる光景だろう。中性的な容姿の青年と雪が混ざり合う世界。
「日高、今度連れて行ってあげようか」
ぼぅとしながら巡回していると、横の秋山さんからそう声が掛けられた。直ぐには反応出来なかったがそれは、 彼の幼い頃を過ごしたという曾祖母の住んでる地方の話だと気付いた。
「良いんですか?」
「うん。曾祖母は賑やかなのが好きなんだ。それに、日高興味あるみたいだから」
にこにこと笑う彼は嬉しそうに微笑む。その笑顔がが綺麗でどうしようもなく、心臓がどくりと泡立つのを感じて、そして触れてはいけない自分の感情に気付いてしまった。あぁ、自分は剣四の小隊長であった道明寺さんと同格の秋山氷杜という同性の、先輩を親愛ではなく、恋愛として好意を抱いていると、気付いてしまった。
あれから何度かの巡回。それは前の様に二人だけの時もあれば弁財さんや道明寺さん、伏見さんもいる時もあった。今日は久しぶりに二人だけの巡回だ。いつもは意識しないけれどこういう時はああ、好きな人と二人で町を歩いているんだと実感する。実感するだけで何もないのだけど。
「…日高。明日って日高は非番だったよな?」
「明日…ああ、そうですよ。秋山サンは?」
「俺も、非番なんだ。ね、日高の予定がなければ明日、一緒に出かけない?」
ちょっと早いけど、幼少の頃に過ごしてた所、いかない?そう言われて断る理由もなく、頷いていた。秋山さん曰く、日高という子に会ってみたいと言われたらしい。小さな頃に育ててもらった手前強く反論も出来ないからねと苦笑いしながら言うけれど、自分は構わない。彼との時間が長くなるならそれで、構わない。かくして翌日彼の故郷にローカルな電車に揺られて向かったのだ。
「いらっしゃい、氷杜。それに、日高くん」
「ああ、ただいま」
「おおおじゃまします…!」
彼に連れられる様に行った先では昔話に出てくる様な木製の家があってそこから出て来たのは女版の秋山さんをかなり老けさせて小さくさせたような、人だった。おっとりとした彼女は氷杜の言った通り明るい青年ね、と嬉しそうに笑う。何だか、暫く会わないでいる祖母を思い出した。
「氷杜は大人しい子でしょう。」
「ええ、ですけどいざという時は仲間を守ってくれるし正しい道を指し示してくれる先輩です」
「そう。周りの子と違って浮いてはいないのね。良かった」
「ちょっとやめてくれよ…恥ずかしい」
「だから何かあったら日高君、話を聞いてあげてくれるかしら」
「ええ、俺でよければ」
お願いね、と言った彼女の顔を俺は一生忘れる事はないだろう。その笑顔は本当に秋山さんそのものだった。もしかしたら母親もそうなのだろうかと思った。
「また、会いにきてくださいね。何だか別の曽孫が出来たみたいで嬉しかったわ」
「俺もお話、楽しかったです」
去り際、そう話して電車に乗って東京へ戻る。とくりとくりと、鼓動がゆったり動く。やっぱり、彼が好きだ。同性で、年上で、何でも出来る人だけど。
「…秋山さん」
「うん?どうした?」
「俺、秋山さんの事好きです」
「あの、」
「今日、楽しかったです。お先に失礼します!」
後ろで、日高、と呟く声がしたけど振り返ってその声を聞く勇気は無かった。きっと拒否の言葉しか自分には降りかからない。剣四の時から、秋山さんは優しく正しい人だった。だから、女性は秋山さんをちらりと見て頬を染めたりしていたし、実際何度か庁舎の中で女性と腕を組んでいたりしていたのを見た。それは、こっそりとした見つからない様な薄暗い通路であったりあまり使われない部屋の前だったりだったのだけど。彼は普通の人間だから。自分の様に男性から好意を伝えられるなんて思いもしなかっただろう。
優しい人だから告白されたなど他人にベラベラとは話さないだろうけど。だけど、日高暁、男。珍しく熱を出した。当分は部屋から出れなくなり(医者からは季節の変わり目で体調を崩したのとの事でたまりに溜まっている有休を消化する事にした。)同室のエノにはそんなに具合が悪いならもう一度医者に行けと勧められた。そうするよと返事をしながらも体調はそんなに悪くない。あと数日で治るし、まだ有休は沢山ある。部屋でゴロゴロしたりDVDを借りてきて見れなかった話題作を見るのだ。
嗚呼なんて自堕落な休みなんだ、とは思うが残念ながらそれを止める人はいない。
「はぁ…」
その時、ピンポンと来訪者を知らせるチャイムが鳴った。宅配の何かだろうかと思いながら相手を確認もしないで開けた。
「何だ元気じゃないか、日高」
「…っ!」
其処にいたのは秋山さんだった。何とか逃げ出したくてあろう事か扉を閉めようとした。ガツリと扉との間に割り込んで来るのは秋山さんの靴だ。見れば彼は仕事の制服ではなく、私服姿だった。こんな時間に彼が来るなんてまずない。それなりに残業があるのだから。
「…日高は本当に人の話を聞かないよな。お陰で俺が有休使う羽目になった」
「有休使ってまで言いたい事なんて俺にあるんスか、秋山さん」
「お前ね、純情な中学とかの少年でもないんだから。告白したら返事くらい聞きなよ」
それは、正しい。人としては礼儀に欠けていたのだから。でもそれなら、タンマツにでも入れてくれればいいのに。彼からの連絡は何度かあったから彼が自分の通知先を知らない事はないのだが。
「すんません。あの時、どうかしてたんス」
「日高、どうかしてたなんて言うなよ。お前は嘘なんか言わない奴だろ」
真っ直ぐで曲がった事が嫌い。それは変わらない。変えれない。だから、と秋山さんは手を握って来た。訓練や何かで何度か触れた事のある細めの手を、今触れている。
「…俺がお前を好きだって事もどうかしてた事にするつもりなの、日高は」
その言葉に時間が止まった、そんな感覚に陥った。実際はそんなに時間も経過していなかったのだろうけどそれでも自分の間隔では時間間隔がおかしくなった。
「俺も、日高が好きだよ」
そう言った彼に体が勝手に動いて彼の手を掴んで寝室に連れ込んだ。そして、抱きしめて唇を重ねた。
「俺も、凄く秋山さん、が好きです」
「うん、ありがとう…ん、ふ、っぁっ」
その言葉だけで充分過ぎて彼の唇を貪る様にキスをしていた。
好きを拗らせた
END
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